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第2章 となりの女神と狐様

7.遭遇

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『そうしたいところだが、この身体ではこっちの道具を使うのは難しいな』

 俺も久しく美味いものが食えていないので、人間界の飯が恋しい気持ちは分かる。しかし、重いフライパンを持ち上げられる自信は無かった。

『あっちの調理場でなら、簡単に道具も扱えるかもな』

 いっそ神様も連れて一度霊界に帰るかと、勝手口を振り返ると、外は既に夕闇に沈んでいた。

(この明かりでは帰れそうにないな……。明日の朝を待つしかないか……)

 そんな事を思案していると、ガラリと玄関が開く音がした。

『帰って来ちまったか、この部屋は行き止まりだ。夏也に見つかると面倒だから、あっちの部屋に移ろう』

 俺は神様を連れて、西側の部屋に隠れた。ここなら、廊下にも縁側のある居間にも抜けられる。夏也が来るのと逆方向に回れば、隠れながら逃げられるのだ。

 この部屋と居間を仕切る襖は開け放たれていた。夏也はまず居間の卓袱台に何かを置くと、台所の方に向かって行った。

(移動しておいて良かったな……)

 ほっとしたのも束の間、突然隣に居た神様が立ち上がった。

『この香りは……!』

『あっ、おい……!』

 俺が止める間もなく、神様は卓袱台の方に向かって行ってしまった。
 そっと居間を覗き込むと、神様は廊下を背に卓袱台の上の物をじっと見つめている。

 そして、廊下では夏也がお茶を持ったまま硬直していた。

(だから待てって言ったのに……。しかし、夏也のこの反応は……やっぱり見えているのか?)

 俺も神様が見えていたので、甥である夏也ももしかするとと思っていたが、やはり見える側だったようだ。

 さてこの状況、どうしたものかと思っていると、神様は急に振り返って言った。

『何をしておる。早く飯にせんか』

 神様は完全にいつものペースだ。一方、夏也はまだ固まっていた。無理もない。

『何をぼけっとしておる。茶が冷めるぞ』

 神様が促すと、夏也は正気を取り戻したのか、やっと口を開いた。

『だ、誰なんですか、あなたは? 人の家に勝手に入り込んで! 警察を呼びますよ!』

 やはり、ちゃんと神様が見えているようだ。一方神様の方は、彼の怒りなどどこ吹く風といった様子で言った。

『誰って……、神様だけど?』

 神様の常套手段だ。人を煙に巻く事にかけては、天才的なものがある。彼は夏也を見つめると、ぶつぶつと呟き出した。
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