護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

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第2章 となりの女神と狐様

4.新しい住人

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(夏也……?)

 それは兄の息子の夏也だった。

(何故、夏也がこの家に……?)

 その時、視界の端に動きを感じて、玄関先のトラックに視線を戻すと、体格の良い若い男が、次々と玄関に荷物を運んでいた。

(まさか、引っ越して来たのかか……?)

 疑問に思いながらも、今が家に入るチャンスであると思った私は、庭木の影を伝って身を屈めながら縁側に近づいた。

 そこで、ふとした疑問が湧く。幽霊である俺の姿は、果たして彼に見えるのであろうか。

(万が一見えてしまった場合、何と説明すれば良いんだ……? ちょっと塩を借りに、霊界から戻って来ました?)

 塩を撒かれる悪霊は居ても、自ら塩を求める幽霊は居ないだろう。

 そもそも、今の俺の姿は中学生だ。仮に姿が見えたとして、俺が叔父の友和だと名乗っても、信じて貰えない可能性が高い。
 幽霊で尚且つ若返った叔父が、突然庭先に現れて、霊界の食堂で使う塩を求めているというのは、全部事実なのだが聞かされた側の混乱は必至だ。

(もう、色々面倒臭えから、とにかく見つからないようにするか……)

 俺は足元に落ちていた小石を摘もうとする。何度も自分の指が透けてしまったが、かなり集中して掴むと何とか持ち上げる事が出来た。

 神様はよく茶箪笥の戸を勝手に開けて菓子を盗み食いしていたので、多分霊体でも頑張れば現実世界の物を動かす事が出来るのではないかと思ったのだ。

 俺はその小石を部屋の中に投げ込んだ。

カタ……

 小石は居間の奥の襖にぶつかって、揺れた襖が小さな音を立てる。夏也が振り返った隙に、俺はその傍をすり抜けて居間に上がり、隣の部屋に身を隠した。

 俺はそのまま廊下に出て、台所へと向かった。あまりウロウロしていると、また夏也と鉢合わせしてしまう可能性がある。

 台所の入り口は開いていたので助かった。中へ入ると、俺はまた集中して棚の戸を動かした。幸いな事にすぐに痛まない調味料類は処分されず、そのままになっていた。

 しかし、物を持ち上げるには、小石一つでもかなりの集中力を要する。物体そのものを持ち帰る事は不可能であろう。

(ならば……)

 神様が物を食べる時は、いつも幽霊のようなものを取り出して食べていた。霊界用の食材なら、それでも充分なのではないかと考えた俺は、先程小石や戸棚にした集中とは異なるイメージで、塩の袋に手を伸ばした。

(幽霊を引っ張り出すように……)

 何しろ初めての経験なので、まごついてしまったが、物体の中に手を差し入れながら掴み上げるイメージで何度かトライすると、塩の袋の中から半透明な塩袋の幽霊を持ち上げる事が出来た。

(よし……!)

『こっちは台所か……』
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