護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

第2章 となりの女神と狐様

3.懐かしの我が家

　視界は直ぐに白く輝く光に飲まれ、俺は目を閉じた。やがて身体から重さの感覚が無くなり、少ししてまた重力が戻ってくると、まぶた越しに感じる光も徐々に収まってきた。

　そっと目を開けると、いつもと変わらぬ古ぼけた我が家が佇んでいる。今までの出来事が、全て夢だったように思えた。
　晴れた空からは日の光が差し、若葉がキラキラと輝く。柔らかな風が吹いてきて、辺りには草木の香りが漂っていた。退屈な霊界の景色とはまるで異なる。自分の過ごしていた世界はこんなにも美しかったのだ。

（俺が死んでからは二ヶ月近く経っているんだよな。じゃあ、今はもう五月の中旬か……）

　ふと玄関先を見ると、見知らぬトラックが停まっていた。不思議に思って近付こうとした時、俺は自分の足先が柔らかく光り、段々と薄くなっている事に気が付く。

（しまった。日の光に当たり過ぎると自動で成仏しちまう！）

　折角送って貰ったのに、五分と経たないうちに霊界に戻ってしまったら、蓮雫にすっかり呆れられてしまうだろう。

　俺は慌てて庭木の影に逃げ込んだ。そこから自分が先程出てきた光の輪を見てみると、もうかなり薄く小さくなっていた。後、数分もしない内に消えてしまうだろう。

（しかし参ったな。どうやって家に入ろうか……）

　自分が幽霊になったと気付いた時には、既に鞄などの荷物は持っておらず、持ち物といえば身に付けていた衣類だけしかない状態だった。ポケットも探ってみたが、やはり家の鍵は入っていない。

　その時、庭に面している雨戸がガラリと開いた。今の我が家には、神様が戻っているが、彼がわざわざ雨戸を開ける事はまずないだろう。

　縁側に立っている人間の姿には見覚えがあった。