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第2章 となりの女神と狐様
2.転移装置
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ベッドから起き上がると、自分の身体が中学生に戻っている事をまず思い出す。あれから1週間経ったが、まだ自身の手足の短さに慣れない。
俺達には、それぞれ獄卒用の寮の一室が充てがわれていた。室内には据え置きのベッドがあるので、四畳半もない手狭な部屋だが、一人になれる空間があるのは有り難かった。
眼鏡を掛けて窓の外を覗くと、空は相も変わらずどんよりと曇り、黄土色の分厚い雲が垂れ込めていた。
(何の面白味もねぇ景色だな……)
普段気にしていなかったが、季節毎に表情を変える我が家の庭が、もう懐かしかった。
寝巻き用に貰った白装束から、シャツとズボンに着替えて、衣紋掛けからトレンチコートを取って羽織る。
服の方も身体に合わせて縮んでくれていたので助かった。
このところは、西原と二人で食堂のメニューに使われていたキノコや芋がどこから運ばれてくるのか、獄卒達についてこの辺りの畑や山林を見て回っていた。
一応、裏庭には管理されている菜園もあった。毎日季節どころか昼夜の違いさえ感じないが、それなりに色々育つようだ。
また、飯が不味い大きな容易として、彼等に調味料の概念が無かった事が確認出来た。
まずは塩を調達したかったが、この周辺に海は無いという。代わりに地獄の血の池を汲んで来ようとする鬼達を、俺達は必死に止めた。
一方神様は、こちらに美味い飯がまだ無いと分かったからか、率先して蓮雫の指示に従い、人間界の偵察任務に当たっていた。
これ以上黒い霧による犠牲者を増やさないため、俺の家を拠点に星呼山周辺に怪しい気配が無いか、パトロールする役目だ。
(神様に、この一週間の状況を聞きがてら、とりあえず俺の家から調味料をあるだけ持ってくるか……)
俺は事情を蓮雫に伝えて、死んでから約二ヶ月ぶりに自宅へ戻る許可を得た。
蓮雫は早速、俺を閻魔庁のさらに奥へと案内した。突き当たりの大きな扉の鍵を開けて中に入ると、奥には人の背丈程の光の輪が広がっている。
『人間界への移動は、この部屋の転移装置を使う。今回はお前が住んでいた家の辺りに照準を合わせておこう』
どういう原理かは知らないが、行きに使った死神の鎌と同じように、霊界と人間界の空間を切り開いて繋いでいるらしい。
『この部屋には常時鍵をかけているから、転移が必要な場合はまた私に声を掛けてくれ』
『分かった。戻りはどうすればいい?』
『お前達が人間界で活動出来るのは、主に日が沈んでからだ。日の光、特に朝日には浄化の作用がある。死者の魂がこれを浴び続けていると強制的に霊界に送還されてしまうのだ』
蓮雫は大きな扉の鍵を懐に仕舞いながら続けた。
『つまり、霊界に帰りたければ日の光に当たり続ければ良い。此方も他の業務があるので常に見守ってはやれないが、緊急の時は迎えを送ろう』
『分かった。じゃあ、行ってくる』
俺は頷くと、一人眩しく輝く光の中へと入って行った。
俺達には、それぞれ獄卒用の寮の一室が充てがわれていた。室内には据え置きのベッドがあるので、四畳半もない手狭な部屋だが、一人になれる空間があるのは有り難かった。
眼鏡を掛けて窓の外を覗くと、空は相も変わらずどんよりと曇り、黄土色の分厚い雲が垂れ込めていた。
(何の面白味もねぇ景色だな……)
普段気にしていなかったが、季節毎に表情を変える我が家の庭が、もう懐かしかった。
寝巻き用に貰った白装束から、シャツとズボンに着替えて、衣紋掛けからトレンチコートを取って羽織る。
服の方も身体に合わせて縮んでくれていたので助かった。
このところは、西原と二人で食堂のメニューに使われていたキノコや芋がどこから運ばれてくるのか、獄卒達についてこの辺りの畑や山林を見て回っていた。
一応、裏庭には管理されている菜園もあった。毎日季節どころか昼夜の違いさえ感じないが、それなりに色々育つようだ。
また、飯が不味い大きな容易として、彼等に調味料の概念が無かった事が確認出来た。
まずは塩を調達したかったが、この周辺に海は無いという。代わりに地獄の血の池を汲んで来ようとする鬼達を、俺達は必死に止めた。
一方神様は、こちらに美味い飯がまだ無いと分かったからか、率先して蓮雫の指示に従い、人間界の偵察任務に当たっていた。
これ以上黒い霧による犠牲者を増やさないため、俺の家を拠点に星呼山周辺に怪しい気配が無いか、パトロールする役目だ。
(神様に、この一週間の状況を聞きがてら、とりあえず俺の家から調味料をあるだけ持ってくるか……)
俺は事情を蓮雫に伝えて、死んでから約二ヶ月ぶりに自宅へ戻る許可を得た。
蓮雫は早速、俺を閻魔庁のさらに奥へと案内した。突き当たりの大きな扉の鍵を開けて中に入ると、奥には人の背丈程の光の輪が広がっている。
『人間界への移動は、この部屋の転移装置を使う。今回はお前が住んでいた家の辺りに照準を合わせておこう』
どういう原理かは知らないが、行きに使った死神の鎌と同じように、霊界と人間界の空間を切り開いて繋いでいるらしい。
『この部屋には常時鍵をかけているから、転移が必要な場合はまた私に声を掛けてくれ』
『分かった。戻りはどうすればいい?』
『お前達が人間界で活動出来るのは、主に日が沈んでからだ。日の光、特に朝日には浄化の作用がある。死者の魂がこれを浴び続けていると強制的に霊界に送還されてしまうのだ』
蓮雫は大きな扉の鍵を懐に仕舞いながら続けた。
『つまり、霊界に帰りたければ日の光に当たり続ければ良い。此方も他の業務があるので常に見守ってはやれないが、緊急の時は迎えを送ろう』
『分かった。じゃあ、行ってくる』
俺は頷くと、一人眩しく輝く光の中へと入って行った。
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