12 / 131
第1章 食いしん坊の幽霊
12.閻魔大王
しおりを挟む
偶然にも旧友との再会を果たした俺達は、裁判を進める一カ月の間、蓮雫と共に例の亡者達について調べたり、食堂の料理に文句を言ったりして過ごしていた。
亡者達の住所や生い立ちについて改めて聴取し、それぞれの死んだ場所について情報を整理していく。
俺も彼等と直接話をしたが、亡者達の中にもう知り合いは居なかった。
蓮雫の執務室で作業しながら、俺はずっと気になっていた事を尋ねた。
『なあ、神様はともかく、何でただの人間である俺や西原に捜査を手伝わせるんだ? 同じ状況の奴は他にもこんなに居るのに?』
俺は書き上げた住所リストを摘み上げる。蓮雫は筆を走らせながら答えた。
『そうだな。大抵の人間は自分が死んだ直後は、魂が寂しさや悲しみに囚われてしまう事が多い。そんな中、こんなに冷静に死を受け入れている者も珍しかったのでな。お前達なら協力して貰えると思ったんだ』
そんな風に過ごしていると、すぐに閻魔大王の裁判の日になった。
その頃には、亡者達のほぼ全員が同じ県内に居住しており、亡くなった場所は皆、星呼山の周辺である事が確認出来ていた。
(まさか、遺跡の発掘現場がある山だとはね……)
そして、確かに俺自身もその遺跡で倒れていたのだ。
奇妙な一致に気味の悪さを感じながらも、俺は自身の裁判のために閻魔庁へと向かった。
(いよいよ、閻魔様のお出ましって訳か……)
俺が広間に入って行くと、正面に大きな男が座っていた。大きいと一口に言っても、座っていながらニメートル以上の高さがあるので、それだけで明らかに人間の域を超えていた。
黒々とした長い髭を蓄え、大きな目玉をギョロリとさせてこちらを睨み付けている姿は、まさに閻魔大王そのものだった。
『貴様が護堂友和だな。話は蓮雫から聞いている』
閻魔は大地を震わせるように低い声を響かせて、ふさふさの髭を一撫ですると、巻物を手に取って広げた。
『これ迄の審判の結果からも、貴様に飛び抜けた功罪は無いと分かっておる。通常なら此処で、今生の生き様の振り返りと反省をした後、転生に向けた案内をする処であるが……』
そう言うと閻魔は、部屋の外に居るらしい鬼に合図した。
『貴様も本来の死期を待たずして此方に来てしまったそうじゃな。その点については原因を明らかにせねばならない』
部屋の外から、鬼達が大きな鏡を運んで来た。これが浄玻璃鏡だろうか。鏡面が見たこともない輝きをしている大きな姿見だ。
『鏡の前に立つがよい』
俺は黙って、鬼達が支え持つ鏡の前に歩み出た。鏡の中では、黒縁眼鏡にトレンチコート姿の中年男性がくたびれた顔をして立っている。
その象はやがてひとりでに歩き出した。その背景はこの広間ではなく、別の薄暗い通路に変化している。
(星呼遺跡……)
俺が死ぬ迄に、遺跡は地中深くまで掘り進められていた。石室らしき空間への入り口が見つかり、この時の俺はそこへ続く羨道を歩いていたのだ。
『調査は休みの日だったが、前日に遺跡で手帳を落としてしまったので、許可を貰って取りに行ったんだ……』
懐中電灯で足元を照らしながら羨道を歩いていた俺は、少しすると手帳を見つけて拾い上げた。その後すぐに、元来た道へ引き返そうとするが、急に顔を上げて振り返ると、石室のある方向へと歩き出す。
しばらく様子を見ていると、鏡の中に徐々に黒い霧のようなものが立ち込めてきた。それは段々と濃くなり、ついに石室の入り口に立つ俺の姿さえも黒く塗り潰してしまった。
亡者達の住所や生い立ちについて改めて聴取し、それぞれの死んだ場所について情報を整理していく。
俺も彼等と直接話をしたが、亡者達の中にもう知り合いは居なかった。
蓮雫の執務室で作業しながら、俺はずっと気になっていた事を尋ねた。
『なあ、神様はともかく、何でただの人間である俺や西原に捜査を手伝わせるんだ? 同じ状況の奴は他にもこんなに居るのに?』
俺は書き上げた住所リストを摘み上げる。蓮雫は筆を走らせながら答えた。
『そうだな。大抵の人間は自分が死んだ直後は、魂が寂しさや悲しみに囚われてしまう事が多い。そんな中、こんなに冷静に死を受け入れている者も珍しかったのでな。お前達なら協力して貰えると思ったんだ』
そんな風に過ごしていると、すぐに閻魔大王の裁判の日になった。
その頃には、亡者達のほぼ全員が同じ県内に居住しており、亡くなった場所は皆、星呼山の周辺である事が確認出来ていた。
(まさか、遺跡の発掘現場がある山だとはね……)
そして、確かに俺自身もその遺跡で倒れていたのだ。
奇妙な一致に気味の悪さを感じながらも、俺は自身の裁判のために閻魔庁へと向かった。
(いよいよ、閻魔様のお出ましって訳か……)
俺が広間に入って行くと、正面に大きな男が座っていた。大きいと一口に言っても、座っていながらニメートル以上の高さがあるので、それだけで明らかに人間の域を超えていた。
黒々とした長い髭を蓄え、大きな目玉をギョロリとさせてこちらを睨み付けている姿は、まさに閻魔大王そのものだった。
『貴様が護堂友和だな。話は蓮雫から聞いている』
閻魔は大地を震わせるように低い声を響かせて、ふさふさの髭を一撫ですると、巻物を手に取って広げた。
『これ迄の審判の結果からも、貴様に飛び抜けた功罪は無いと分かっておる。通常なら此処で、今生の生き様の振り返りと反省をした後、転生に向けた案内をする処であるが……』
そう言うと閻魔は、部屋の外に居るらしい鬼に合図した。
『貴様も本来の死期を待たずして此方に来てしまったそうじゃな。その点については原因を明らかにせねばならない』
部屋の外から、鬼達が大きな鏡を運んで来た。これが浄玻璃鏡だろうか。鏡面が見たこともない輝きをしている大きな姿見だ。
『鏡の前に立つがよい』
俺は黙って、鬼達が支え持つ鏡の前に歩み出た。鏡の中では、黒縁眼鏡にトレンチコート姿の中年男性がくたびれた顔をして立っている。
その象はやがてひとりでに歩き出した。その背景はこの広間ではなく、別の薄暗い通路に変化している。
(星呼遺跡……)
俺が死ぬ迄に、遺跡は地中深くまで掘り進められていた。石室らしき空間への入り口が見つかり、この時の俺はそこへ続く羨道を歩いていたのだ。
『調査は休みの日だったが、前日に遺跡で手帳を落としてしまったので、許可を貰って取りに行ったんだ……』
懐中電灯で足元を照らしながら羨道を歩いていた俺は、少しすると手帳を見つけて拾い上げた。その後すぐに、元来た道へ引き返そうとするが、急に顔を上げて振り返ると、石室のある方向へと歩き出す。
しばらく様子を見ていると、鏡の中に徐々に黒い霧のようなものが立ち込めてきた。それは段々と濃くなり、ついに石室の入り口に立つ俺の姿さえも黒く塗り潰してしまった。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
京都かくりよあやかし書房
西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。
時が止まった明治の世界。
そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。
人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。
イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。
※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
貧乏神の嫁入り
石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。
この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。
風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。
貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。
貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫?
いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。
*カクヨム、エブリスタにも掲載中。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる