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第1章 食いしん坊の幽霊
9.黒い霧
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『実は最近、お前の様に名簿に名前の無い亡者が続けてやって来ているのだ』
俺は先程の蓮雫の言葉を思い出す。
『俺と同じような奴が何人も……?』
『聞けば、やはり皆一様に死んだ時の記憶が無いと言う。だが此処には様々な裁判の道具があるからな。人間の生前の行いを映す鏡もある』
『浄玻璃鏡か……!』
閻魔大王が人間の嘘を見抜くのに使うと言われている鏡だ。嘘を吐くと舌を抜かれるという例の話に登場する。
(まさか本当に存在するとは……)
そもそもこうして冥府の入り口迄来ている事自体、浮世離れした話ではあるのだが。
『裁判は十王が順番に行うが、閻魔様は五番目にお裁きになられる。そこで私は彼等と共に閻魔庁に出向き、事情を説明して鏡をお借りしたのだが……』
蓮雫は少し言い淀んだが、言葉を続けた。
『彼等が死んだ瞬間は、鏡に何も映らなかった……いや、黒い霧が現れて何も見えなかったのだ』
『黒い……霧……』
その時、俺の脳裏に何か禍々しいものが過った気がした。それが何なのかは分からないが、俺は急に酷い悪寒に襲われていた。
『どうした?』
『いや、何でもない』
蓮雫は目ざとく俺の変化に気付いたが、上手く説明出来ないので誤魔化してしまった。
『……では続けるが、もう一つの共通点として、死ぬ直前まで全員が同じ地域に住んでいたと分かった。此処へは日本国全ての死者の魂が集まる。その数は日に三千を超す。この偏在には意味があると考えざるを得ない……』
蓮雫は腕を組んで、もう一言付け加えた。
『お前も同じ地域に住んでいたなら、今後近隣の者が同じ目に合う可能性も否定出来ないという事だ』
その時、神様がすっと手を挙げた。
『わし、腹が減ったんじゃけども』
『……え?』
俺と蓮雫は同時に聞き返す。
『此処には飯を食える場所があると聞いたぞ! 話は其処でも出来るのではないか?』
(コイツは本当に……)
俺が苦虫を噛み潰したような顔をしていると、蓮雫は笑いながら立ち上がった。
『仕様のない方だ。此処で働く獄卒達が利用する食堂がある。其処で話の続きをしよう』
『よしよし! 霊界の飯、楽しみじゃ~』
この神の緊張感の無さときたら、人間界でも冥界でも変わらない。
(とにかく何か食わせて、静かにしてもらうか……)
数年間一緒に暮らしてきて、俺はこの神の扱いについて大分慣れてきていた。
俺は先程の蓮雫の言葉を思い出す。
『俺と同じような奴が何人も……?』
『聞けば、やはり皆一様に死んだ時の記憶が無いと言う。だが此処には様々な裁判の道具があるからな。人間の生前の行いを映す鏡もある』
『浄玻璃鏡か……!』
閻魔大王が人間の嘘を見抜くのに使うと言われている鏡だ。嘘を吐くと舌を抜かれるという例の話に登場する。
(まさか本当に存在するとは……)
そもそもこうして冥府の入り口迄来ている事自体、浮世離れした話ではあるのだが。
『裁判は十王が順番に行うが、閻魔様は五番目にお裁きになられる。そこで私は彼等と共に閻魔庁に出向き、事情を説明して鏡をお借りしたのだが……』
蓮雫は少し言い淀んだが、言葉を続けた。
『彼等が死んだ瞬間は、鏡に何も映らなかった……いや、黒い霧が現れて何も見えなかったのだ』
『黒い……霧……』
その時、俺の脳裏に何か禍々しいものが過った気がした。それが何なのかは分からないが、俺は急に酷い悪寒に襲われていた。
『どうした?』
『いや、何でもない』
蓮雫は目ざとく俺の変化に気付いたが、上手く説明出来ないので誤魔化してしまった。
『……では続けるが、もう一つの共通点として、死ぬ直前まで全員が同じ地域に住んでいたと分かった。此処へは日本国全ての死者の魂が集まる。その数は日に三千を超す。この偏在には意味があると考えざるを得ない……』
蓮雫は腕を組んで、もう一言付け加えた。
『お前も同じ地域に住んでいたなら、今後近隣の者が同じ目に合う可能性も否定出来ないという事だ』
その時、神様がすっと手を挙げた。
『わし、腹が減ったんじゃけども』
『……え?』
俺と蓮雫は同時に聞き返す。
『此処には飯を食える場所があると聞いたぞ! 話は其処でも出来るのではないか?』
(コイツは本当に……)
俺が苦虫を噛み潰したような顔をしていると、蓮雫は笑いながら立ち上がった。
『仕様のない方だ。此処で働く獄卒達が利用する食堂がある。其処で話の続きをしよう』
『よしよし! 霊界の飯、楽しみじゃ~』
この神の緊張感の無さときたら、人間界でも冥界でも変わらない。
(とにかく何か食わせて、静かにしてもらうか……)
数年間一緒に暮らしてきて、俺はこの神の扱いについて大分慣れてきていた。
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