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第6章 あやかし子狐と三日月オムライス
3.呆然とする日々
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真白さんを呼んで報告をした日から数日間、私は夏休み中の仕事をこなしに中学校へ通っていたが、どこか上の空というか、ぼーっとしてしまっていた。
相変わらず、道の先に逃げ水が見える程の猛暑だったが、別に熱中症という訳ではない。
銀胡とどんな風に話せば良いか、考えようとする度、蝉の声だけが頭の中に響いてきた。
仕事を終えて家に帰り、こむぎが居間からトテトテと走って来ると、私は心底ほっとしていた。
留守中に銀胡が来ても、夏也が帰るまで絶対に家に入れないと、シュンと神様は頼もしく言ってくれた。
真白さんも、一ノ瀬さんや賢さんも、何かあればまた声を掛けてくれと言ってくれている。
周りがそんなに良くしてくれているのに、何処かずっともやもやとしている自分が情けなかった。
その理由ははっきりとしている。
(考えたく無いだけなんだ……こむぎと別れる日の事を……)
ふわふわの尻尾を抱きしめながら、こむぎは今日も私の隣で眠りについた。彼の幸福そうな寝顔を見つめながら、柔らかな三角耳をそっと撫でる。
その時、枕元に置いてあった巻物が白く光りだした。
(真白さん? それとも賢さん? こんな時間に一体どうしたんだろう?)
私は不思議に思いながら、起き上がって巻物を広げた。そこには、今まで見たことのない筆跡で、短いメッセージが書き込まれていた。
その最後の二文字を見て、私は息を飲む。
相変わらず、道の先に逃げ水が見える程の猛暑だったが、別に熱中症という訳ではない。
銀胡とどんな風に話せば良いか、考えようとする度、蝉の声だけが頭の中に響いてきた。
仕事を終えて家に帰り、こむぎが居間からトテトテと走って来ると、私は心底ほっとしていた。
留守中に銀胡が来ても、夏也が帰るまで絶対に家に入れないと、シュンと神様は頼もしく言ってくれた。
真白さんも、一ノ瀬さんや賢さんも、何かあればまた声を掛けてくれと言ってくれている。
周りがそんなに良くしてくれているのに、何処かずっともやもやとしている自分が情けなかった。
その理由ははっきりとしている。
(考えたく無いだけなんだ……こむぎと別れる日の事を……)
ふわふわの尻尾を抱きしめながら、こむぎは今日も私の隣で眠りについた。彼の幸福そうな寝顔を見つめながら、柔らかな三角耳をそっと撫でる。
その時、枕元に置いてあった巻物が白く光りだした。
(真白さん? それとも賢さん? こんな時間に一体どうしたんだろう?)
私は不思議に思いながら、起き上がって巻物を広げた。そこには、今まで見たことのない筆跡で、短いメッセージが書き込まれていた。
その最後の二文字を見て、私は息を飲む。
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