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第3章 卵焼きと仲良しキャンプカレー

12.美味しい卵焼き

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(この声は……奏汰!)

 声のした方を見ると、奏汰が手を振りながら西園寺先生に呼びかけていた。

『一緒にお弁当食べましょう! この機会に西園寺先生とお話ししてみたいんです!』

『Oh!  何という事……生徒が私を呼んでいる……!』

 西園寺先生はわざとらしく片手で顔面を覆うと、さも苦悩しているような声音で言った。

『生徒に求められては仕方ありまセン!  Sorry、Mr.護堂……私はもう行かなくては』

 西園寺先生はスキップするかのように重箱を持って、奏汰の元へ軽快に駆け出して行った。
 先生と並んで歩く奏汰は、一瞬だけ振り返ると此方にそっと会釈する。

 仏だ。教え子が仏に見える。

 奏汰の捨て身の助けによって、私とこむぎは再び平穏を取り戻した。こむぎはごはんが行ってしまったので、いくらか悲しそうに先生を見送っていたのだが。

『西園寺先生のお弁当ほど豪華じゃないけど……』

 私が自分の弁当の蓋を開けると、こむぎは尻尾をぴんと立たせて振り返った。弁当箱の中には、卵焼きと唐揚げ、ミニトマトが並んでいる。

『卵、大好きだろう?』

 卵焼きを箸で掴んで、こむぎの口元まで運ぶと、彼はぱくりと食らいついた。すると、先程よりももっと瞳をきらきらさせて、とろけるように笑う。

『たーご!』

 こむぎは自分のほっぺをさすりながらニコニコした。私もたらこのおにぎりを齧りながら唐揚げを摘む。
 一時の穏やかな時間に、私も自然と笑みが溢れた。

 ただこの時、我々が何者かの視線を浴びていた事に、その時の私はまったく気付いていなかった。

 今日はまだまだこれからが長いのだ。
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