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第一章 入学編
入学編第九話 質問
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帰ってしまったラノハを除いてだが、ジークとリムによる指導は滞りなく進んだ。
二人のアドバイスにより、生徒たちの聖装竜機の操縦から戦い方に至るまでの悩みの多くが改善されたことだろう。
そして今現在、今日の授業を全てやり終えた生徒たちは教室に戻って来ていた。
各々自らの席に座っている生徒たちを前にして、セフィターが話し始める。
「全員戻ってきたな。それでは、これからジークさんとリムさんへの質問を受け付ける。色々と質問したいことがあるだろうが、下校時刻までだ。手を挙げた者の中からジークさんとリムさんが選ぶのでそのつもりで。では、質問がある者は手を挙げるように」
セフィターがそう言い終えると、ほとんどの生徒たちの手が挙がった。
手を挙げていないのは実の娘であるミリアぐらいなものである。
それはそうだろう。なにせ、ジークとリムはスミーナ国で最強と名高い二人なのだから。生徒たちが聞きたいことなど山ほどあるに違いない。
そして、これだけ手を挙げられると誰を当てるか迷ってしまうのが、ジークとリムである。
少しの間、誰も当てずに迷っていたが、ようやくジークが一人の生徒を当てた。
「では、君からにしようか。シルア・ウィーンズさん」
「やったあ!はーい!」
シルアは元気よく返事をし、自らの席から立ち上がる。
そして、シルアはジークとリムに対して質問を投げかけるために口を開いた。
「えっーと……。じゃあ、二人の出会いについて教えて下さい!」
「で、出会いか……」
「お見合いでしたよね。私の実家の親の紹介で……」
「……そうだな」
「リムさんの実家って、貴族のヒルト家ですよね?」
「ええ。そうですね。始めはそれこそ、政略結婚みたいな感じでしたが、今ではもう心の底からこの人を愛しています」
「恥ずかしいからあまり言わないでくれ……」
リムの実家であるヒルト家は、聖邪戦争以前から続く由緒正しき貴族の家であり、王第一主義の一家である。
スミーナ国には王が存在し、基本的にその王が全ての実権を握っている。所謂、絶対君主制と呼ばれるものである。
聖邪戦争の頃までは絶対君主制の国が殆どであったが、聖邪戦争後にその混乱に乗じて各国で革命がおきた。
それにより、共和制や民主制をとる国が増えたのである。
今の時点で、未だ絶対君主制をとっている国などスミーナ国ぐらいなものだ。
さて、それはさておき、ジークとリムの回答に満足したシルアは、礼を言って自分の席に座った。
するとまた、ミリアとシルア以外の生徒たちの手が一斉に挙がる。
ジークがチラリとリムを見て、次はリムの番であることを目で告げた。
それを察したリムは適当に目に入った手を指差し、その手の持ち主を当てた。
「では、次はホーブ・コントレスくん」
「はい。当てていただき、ありがとうございます」
当てられたホーブは自分の席から立ち上がり、礼をした。
そしてその後頭を上げると、質問をするべく口を開く。
「ミリアさんはどんな子供だったのですのか?」
「ちょっ!」
あまりに予想外の質問に、ミリアは驚いた。
しかし、そんなミリアの驚きなど余所に、リムとジークはこの質問に答える。
「ふふ。とても可愛い子ですよ。今も、昔も。ねえ?」
「ああ。そうだな。最近では、成長を感じることもあったが……」
「お父さんもお母さんもやめてよ!そんなの答えなくていいから!恥ずかしいじゃん!もう!」
「……というわけらしい。ミリアについてはこれ以上答えることができそうにない」
「いえ、ありがとうございました」
ホーブは再び頭を下げて礼をし、自分の席についた。
すると三度、生徒たちの手が一斉に挙がる。
今度はジークの番であるので、ジークの目についた生徒を当てた。
「次は……ヴァルサ・フォーラルくん」
「はい」
ヴァルサと呼ばれた男子生徒は、前の模擬戦の時にホーブと組んでいた生徒だった。
ヴァルサはジークを一直線に見て、質問を投げかける。
「まず俺の姓で、思い当たることはありませんか?」
「……フォーラル。……そうか。ヴァルサくん、君は、ヴァリンの――」
「……はい。息子です。父の名前、覚えていてくれていたんですね」
ヴァリン・フォーラル。知っている者は少ないだろうが、ジークの記憶にはしっかりと刻まれている名だ。
ヴァリン・フォーラルは、以前ジークが隊長を務めていたスミーナ国軍第十四部隊の副隊長だった人物である。
当然のことながら、十年前の時の第十四部隊は当時新兵器だった邪装竜機の侵攻により、ジーク以外の兵士は戦死している。
故に、ヴァルサの父であるヴァリン・フォーラルは、もうこの世に存在しない。
「……忘れるはずがない。ヴァリンたちのおかげで、私とラノハは生きている。未だ、第十四部隊の面々の名は誰一人として忘れたことなどない。ヴァリンたちから託されたものを背負って、戦い抜く所存だ」
「……ありがとうございます。今度、家にも来てください。母も、またジークさんと話したいと……」
「……分かった。時間が空いた時にでも、お邪魔させてもらう」
「……はい。ありがとうございました」
ヴァルサは礼をして、拳を握りしめながら着席した。
この後には、生徒たちの手は挙がらなかった。そのような空気ではなかったからである。
しかししばらくたって、よほど聞きたいことがあったのか、シルンがゆっくりと手を挙げた。
「……どうぞ。シルン・ウィーンズさん」
「……はい。あの、さっきのジークさんの話の中で、オタールくんの名前が出た気がするんですけど……もしかして、オタールくんは……」
「……そうだ。ラノハは、エリス村唯一の生き残りだ」
「「「「っ!」」」」
ジークから発せられたその事実に、ミリアとヴァルサ以外のクラスメイトが驚いた。
それはそうだろう。なにせ、エリス村とヴェルラ村がルマローニ国による侵攻を受けたのは、スミーナ国内で周知の事実である。
ヴェルラ村の住人は奇跡的に全員無事ではあったが、エリス村の住人はほぼ全滅したと伝わっていた。
ラノハがそんなエリス村の生き残りとは、誰も思わなかったのだ。
ジークは生徒たちの驚きを見て、一拍おいてからまた話し始める。
「……ラノハは、復讐に囚われている。だから、聖装竜機を動かせない。誰か、何か、ラノハが守りたいものをつくらないといけないんだ。私たちでは、それができなかった。だから、どうか、ラノハのことをよろしく頼む。別に、大切なものになってほしいというわけではない。ただ、軽蔑などはしないでくれ。ラノハはとてつもない努力を惜しみなく出来る、すごい子だから」
「私からもお願いします。ラノハは、とても強い子です。だからどうか、どうかお願いします」
ジークとリムはそう言って、生徒たちに頭を下げた。
それを見た生徒たちは唖然として、言葉を一切発することができなかった。
『最強夫婦』と名高い二人が、このようにして自分たちに頭を下げているのだ。
しかも、聖装竜機を動かせなかったラノハのために。
しばらく誰も言葉を発することがなく、静寂に包まれていた教室であったが、ある一人の生徒が口を開いて、静寂を切り裂いた。
リディオ・モートゥである。
「……大丈夫です。オタールが強いということは、みんな模擬戦のことでよく分かっています。まさに、圧倒的でした」
リディオのこの言葉に、近距離、中距離戦闘の授業に出ていた大半の生徒が頷いた。
リディオはそのまま、更に言葉を続ける。
「自分たちがオタールにとってそんな存在になるとは断言できませんが、軽蔑なんて絶対にしません。安心してください」
リディオがそう言った後、クラスにいる生徒たちの殆どが頷いた。
その光景を見て、ジークとリムは小さく、しかし確かに微笑んでこう言った。
「「……ありがとう」」
二人のアドバイスにより、生徒たちの聖装竜機の操縦から戦い方に至るまでの悩みの多くが改善されたことだろう。
そして今現在、今日の授業を全てやり終えた生徒たちは教室に戻って来ていた。
各々自らの席に座っている生徒たちを前にして、セフィターが話し始める。
「全員戻ってきたな。それでは、これからジークさんとリムさんへの質問を受け付ける。色々と質問したいことがあるだろうが、下校時刻までだ。手を挙げた者の中からジークさんとリムさんが選ぶのでそのつもりで。では、質問がある者は手を挙げるように」
セフィターがそう言い終えると、ほとんどの生徒たちの手が挙がった。
手を挙げていないのは実の娘であるミリアぐらいなものである。
それはそうだろう。なにせ、ジークとリムはスミーナ国で最強と名高い二人なのだから。生徒たちが聞きたいことなど山ほどあるに違いない。
そして、これだけ手を挙げられると誰を当てるか迷ってしまうのが、ジークとリムである。
少しの間、誰も当てずに迷っていたが、ようやくジークが一人の生徒を当てた。
「では、君からにしようか。シルア・ウィーンズさん」
「やったあ!はーい!」
シルアは元気よく返事をし、自らの席から立ち上がる。
そして、シルアはジークとリムに対して質問を投げかけるために口を開いた。
「えっーと……。じゃあ、二人の出会いについて教えて下さい!」
「で、出会いか……」
「お見合いでしたよね。私の実家の親の紹介で……」
「……そうだな」
「リムさんの実家って、貴族のヒルト家ですよね?」
「ええ。そうですね。始めはそれこそ、政略結婚みたいな感じでしたが、今ではもう心の底からこの人を愛しています」
「恥ずかしいからあまり言わないでくれ……」
リムの実家であるヒルト家は、聖邪戦争以前から続く由緒正しき貴族の家であり、王第一主義の一家である。
スミーナ国には王が存在し、基本的にその王が全ての実権を握っている。所謂、絶対君主制と呼ばれるものである。
聖邪戦争の頃までは絶対君主制の国が殆どであったが、聖邪戦争後にその混乱に乗じて各国で革命がおきた。
それにより、共和制や民主制をとる国が増えたのである。
今の時点で、未だ絶対君主制をとっている国などスミーナ国ぐらいなものだ。
さて、それはさておき、ジークとリムの回答に満足したシルアは、礼を言って自分の席に座った。
するとまた、ミリアとシルア以外の生徒たちの手が一斉に挙がる。
ジークがチラリとリムを見て、次はリムの番であることを目で告げた。
それを察したリムは適当に目に入った手を指差し、その手の持ち主を当てた。
「では、次はホーブ・コントレスくん」
「はい。当てていただき、ありがとうございます」
当てられたホーブは自分の席から立ち上がり、礼をした。
そしてその後頭を上げると、質問をするべく口を開く。
「ミリアさんはどんな子供だったのですのか?」
「ちょっ!」
あまりに予想外の質問に、ミリアは驚いた。
しかし、そんなミリアの驚きなど余所に、リムとジークはこの質問に答える。
「ふふ。とても可愛い子ですよ。今も、昔も。ねえ?」
「ああ。そうだな。最近では、成長を感じることもあったが……」
「お父さんもお母さんもやめてよ!そんなの答えなくていいから!恥ずかしいじゃん!もう!」
「……というわけらしい。ミリアについてはこれ以上答えることができそうにない」
「いえ、ありがとうございました」
ホーブは再び頭を下げて礼をし、自分の席についた。
すると三度、生徒たちの手が一斉に挙がる。
今度はジークの番であるので、ジークの目についた生徒を当てた。
「次は……ヴァルサ・フォーラルくん」
「はい」
ヴァルサと呼ばれた男子生徒は、前の模擬戦の時にホーブと組んでいた生徒だった。
ヴァルサはジークを一直線に見て、質問を投げかける。
「まず俺の姓で、思い当たることはありませんか?」
「……フォーラル。……そうか。ヴァルサくん、君は、ヴァリンの――」
「……はい。息子です。父の名前、覚えていてくれていたんですね」
ヴァリン・フォーラル。知っている者は少ないだろうが、ジークの記憶にはしっかりと刻まれている名だ。
ヴァリン・フォーラルは、以前ジークが隊長を務めていたスミーナ国軍第十四部隊の副隊長だった人物である。
当然のことながら、十年前の時の第十四部隊は当時新兵器だった邪装竜機の侵攻により、ジーク以外の兵士は戦死している。
故に、ヴァルサの父であるヴァリン・フォーラルは、もうこの世に存在しない。
「……忘れるはずがない。ヴァリンたちのおかげで、私とラノハは生きている。未だ、第十四部隊の面々の名は誰一人として忘れたことなどない。ヴァリンたちから託されたものを背負って、戦い抜く所存だ」
「……ありがとうございます。今度、家にも来てください。母も、またジークさんと話したいと……」
「……分かった。時間が空いた時にでも、お邪魔させてもらう」
「……はい。ありがとうございました」
ヴァルサは礼をして、拳を握りしめながら着席した。
この後には、生徒たちの手は挙がらなかった。そのような空気ではなかったからである。
しかししばらくたって、よほど聞きたいことがあったのか、シルンがゆっくりと手を挙げた。
「……どうぞ。シルン・ウィーンズさん」
「……はい。あの、さっきのジークさんの話の中で、オタールくんの名前が出た気がするんですけど……もしかして、オタールくんは……」
「……そうだ。ラノハは、エリス村唯一の生き残りだ」
「「「「っ!」」」」
ジークから発せられたその事実に、ミリアとヴァルサ以外のクラスメイトが驚いた。
それはそうだろう。なにせ、エリス村とヴェルラ村がルマローニ国による侵攻を受けたのは、スミーナ国内で周知の事実である。
ヴェルラ村の住人は奇跡的に全員無事ではあったが、エリス村の住人はほぼ全滅したと伝わっていた。
ラノハがそんなエリス村の生き残りとは、誰も思わなかったのだ。
ジークは生徒たちの驚きを見て、一拍おいてからまた話し始める。
「……ラノハは、復讐に囚われている。だから、聖装竜機を動かせない。誰か、何か、ラノハが守りたいものをつくらないといけないんだ。私たちでは、それができなかった。だから、どうか、ラノハのことをよろしく頼む。別に、大切なものになってほしいというわけではない。ただ、軽蔑などはしないでくれ。ラノハはとてつもない努力を惜しみなく出来る、すごい子だから」
「私からもお願いします。ラノハは、とても強い子です。だからどうか、どうかお願いします」
ジークとリムはそう言って、生徒たちに頭を下げた。
それを見た生徒たちは唖然として、言葉を一切発することができなかった。
『最強夫婦』と名高い二人が、このようにして自分たちに頭を下げているのだ。
しかも、聖装竜機を動かせなかったラノハのために。
しばらく誰も言葉を発することがなく、静寂に包まれていた教室であったが、ある一人の生徒が口を開いて、静寂を切り裂いた。
リディオ・モートゥである。
「……大丈夫です。オタールが強いということは、みんな模擬戦のことでよく分かっています。まさに、圧倒的でした」
リディオのこの言葉に、近距離、中距離戦闘の授業に出ていた大半の生徒が頷いた。
リディオはそのまま、更に言葉を続ける。
「自分たちがオタールにとってそんな存在になるとは断言できませんが、軽蔑なんて絶対にしません。安心してください」
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