無能なオタクの異世界対策生活〜才能はなかったが傾向と対策を徹底し余裕で生き抜く〜

辻谷戒斗

文字の大きさ
上 下
30 / 93
第一章 追放対策

第二十九話

しおりを挟む
 次の日、徹也は治伽と舞、そしてクリスを連れて刀夜の部屋に来ていた。クリスと刀夜に、協力を頼む為だ。

「……それで、話とは何かしら?才無佐君」

「私にも、話があると聞いたのですが……。どのような用件ですか?」

 刀夜とクリスの質問を聞いた徹也は、治伽と舞の方を向いてコクリと頷いた。すると、治伽と舞も頷いて、徹也と一緒に刀夜とクリスに対して頭を下げた。

「……お願いします。俺達に、力を貸してください。俺達を、助けてください」

「「お願いします」」

 徹也達の頼みを聞いた刀夜は、小さい笑みを浮かべた。そして、徹也達に頷きを返す。

「……もちろんよ。私は、あなた達の教師だから」

 刀夜は徹也達の頼みを快諾してくれた。徹也からすれば、これは分かっていたことだ。刀夜は自分が教師だからというだけで、生徒達が困っているなら助けてくれる人だ。

 だからこそ、徹也はあまり頼りたくはなかったのだ。先生に負担を押し付けているように感じたから。

(……今回先生を頼るからには、いつか必ず先生の力になってみせる。それよりも、問題は……)

 徹也がそう思い見たのは、クリスである。クリスが了承してくれるかどうかで、この先がだいぶ変わってくる。そう考えていた徹也にとって、クリスの返答が気になるのは必然だった。

「力を貸すことは構いませんが……。一体、何故私の力が必要なのですか?」

「……それは、俺達が命を狙われているからです」

 クリスの問に対して、徹也はそう返した。徹也のその答えに、クリスは驚愕する。まさか、徹也達の命が狙われているとは思いもしなかったのだ。

「い、命を、ですか……!?一体、誰から……」

「……この国、正確にはルーカス派からです」

「っ!?」

 徹也が言った言葉に、クリスは更に驚愕した。徹也の口からルーカス派という言葉が出るとは、クリスも思っていなかったのだ。

「な、何故、ルーカス派のことを……?い、いえ、それよりも、ルーカス派が何故才無佐君達を……」

「ルーカス派とスカーレット派のことはシャーロット……シャーロット・フォン・タレン王女から聞きました。ルーカス派が俺達を狙う理由は、俺達が邪魔だからです」

「じゃ、邪魔、ですか?」

「はい。俺は才能がない【無能】ですし、舞は【踊り】でこの国に役立てるとは言えません。治伽は逆に、【女王】という才能ですが、その才能はこの国の王族を脅かすかもしれない、ということです」

 徹也の説明に、クリスは絶句した。確かに、そう言われればルーカス派が徹也達を狙う理由は十分だとクリスは思う。

「……分かりました。しかし、私の一存で決めることはできません。スカーレット派全体を味方につけるには、私の兄を味方につける必要があります。私としては、協力したいのですが……」

「分かっています。なので、お兄さんに合わせていただけませんか?」

「それは構わないのですが……。兄は今、大臣として地方に赴いています。ですので、すぐにとはいきません」

「具体的には、いつになりそうですか?」

 徹也のその質問に、クリスは少し考える素振りをみせた。兄がこの王都に戻ってくるまでの日数をおおよそで計算しているのだ。

「……恐らくですが、一週間後辺りになるかと」

「……そう、ですか」

 一週間。それは早いように感じるかもしれないが、猶予が一ヶ月の徹也達からすれば大きな時間である。

 徹也は考える。この一週間を、空白にするわけにはいかない。ならば何をすべきなのかを。

(対策を考えておくのは当たり前だ。後すべきことは、個々のレベルアップぐらいか?)

 徹也が思ったのは、自分も含めた魔法などの戦闘技術向上である。不測の事態になった時のことを考えると、力をつけておいて損はない。今の自分に何ができるのか。それを知る必要がある。

 そこまで考えた徹也は、クリスの方に向き直って礼を言う。

「……ありがとうございます。クリスさん。まだ出会って数日なのに、協力したいと言ってくれて……」

「……いくらこの国のためとはいえ、私達の勝手で召喚したんです。流石に、見捨てるなんてことはできません。それに、召喚した方々を殺そうなど、許せることではないですから」

 クリスの言葉を聞いた徹也に治伽、舞は改めてクリスに頭を下げて礼をした。クリスはそんな徹也達を見ると、慌ててそれを止めるように伝える。

「あ、頭を上げてください!当然のことですから!」

「……それでも、です」

「「「ありがとうございます」」」

 徹也達の改めての礼に、クリスは少し顔を赤く染めてそれに応じた。すると、クリスは時計を見て慌て始めた。

「す、すいません!騎士としての仕事があるので、失礼します!兄が帰ってきたら、私から声をかけますから。それでは」

「はい。改めて、ありがとうございました」

 徹也がそうクリスに礼を言うと、クリスは照れくさそうに小さく笑ってそれに答えた。そして、クリスは刀夜の部屋から出ていった。

 クリスが出ていってから、徹也は治伽と舞、そして刀夜に話しかける。

「……取り敢えず、一週間待ちます。この一週間は、対策に使える武器を増やすための訓練を――」

「ま、待って才無佐君!それより、ルーカス派とスカーレット派って何なの?」

 徹也が言い切る前に、刀夜が先程からずっと疑問に思っていたことを徹也に聞いた。そういえば、先生は知らなかったかと思った徹也は、刀夜にそのことを軽く説明する。

「簡単に言うとルーカス派が昔からの貴族で、スカーレット派が最近の貴族です。ルーカス派は俺達のことを疎ましく思っていて、スカーレット派は今のところ無関心ってところですかね。多分ですけど」

「そ、そうなの……」

 だから……と刀夜は納得した様子を醸し出す。事実、刀夜は納得していたというより、理解したのだ。徹也がスカーレット派に頼った理由を。

 だが、刀夜が納得したと思ったら、今度は治伽と舞が徹也に話しかけてきた。

「それで、徹也君?一週間は、何をするの?」

「そ、そうだよ!私達は、何をすればいいの?」

「……対策を考え続けることももちろんだが、更に手札を増やしたい。だから、新しいことをできるようにする。具体的には、魔法とかでな」

 徹也がそう治伽と舞に説明すると、刀夜を含めた全員の表情が引き締まった。そんな様子の中、徹也はそのまま言葉を続ける。

「俺と治伽は、魔法の授業を受けてない。参考までにどんな授業なのか教えてほしい」

「う、うん……。私のところは、まず水魔法を武器に纏わせるところからしてるよ。先生が言うには、それが一番始めにやるべきことなんだって。魔法をそのまま打てるようにするのは、その後みたい」

「なるほど……。ありがとう舞。じゃあ、先生の方は……?」

 舞の説明を聞いた徹也は、舞に礼を言うと刀夜にも問いかけた。教え方が教師、または属性によって異なっている可能性があるからだ。

 刀夜は徹也の問に対して、頷いて答えを返す。

「私の方も全く一緒よ。魔法をそのまま放つよりも、纏わせる方がイメージが楽みたいなの」

「……分かりました。ありがとうございます」

 刀夜にそう返してから、徹也は考えを巡らせる。確かにその教師が言うならそうかもしれないが、教えてくれているのは騎士である。ならば、ルーカス派かスカーレット派か分からない以上、下手に信じることはできない。

(……また、書庫に行くしかないか。魔法を放つことができるようになれば、更に対策の幅も広がるし……)

 そこまで考えた徹也は自分の中で結論を出し、それを治伽に舞、刀夜に伝えた。

「魔法を放つことができるなら、できた方がいい。また書庫に行って調べてみようと思います」

「……分かったわ。何か分かれば、私にも伝えて」

「はい。じゃあ、俺達もこの辺りで失礼します」

 徹也はそう言って、その場から立ち上がる。それを見た治伽と舞もまた、慌てて徹也に続いて立ち上がった。

「ええ。……頑張りましょう」

「「「っ……!はい……!」」」

 刀夜のその言葉に力強く頷いた徹也達は、改めて刀夜に礼をして、刀夜の部屋から出ていった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです

砂糖琉
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。 それはある人と話すことだ。 「おはよう、優翔くん」 「おはよう、涼香さん」 「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」 「昨日ちょっと寝れなくてさ」 「何かあったら私に相談してね?」 「うん、絶対する」 この時間がずっと続けばいいと思った。 だけどそれが続くことはなかった。 ある日、学校の行き道で彼女を見つける。 見ていると横からトラックが走ってくる。 俺はそれを見た瞬間に走り出した。 大切な人を守れるなら後悔などない。 神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾
ファンタジー
前世の記憶を持って生まれたロデス王国の第五王子、セリウス。赤子時代から魔法にのめり込んだ彼は、前世の知識を活かしながら便利な魔道具を次々と作り出していた。しかしそんな彼の存在を脅威に感じた兄の謀略で、僅か十歳のときに王宮から追放されてしまう。「むしろありがたい。世界中をのんびり旅しよう」お陰で自由の身になったセリウスは、様々な魔道具をクラフトしながら気ままな旅を満喫するのだった。

無能と呼ばれた魔術師の成り上がり!!

春夏秋冬 暦
ファンタジー
主人公である佐藤光は普通の高校生だった。しかし、ある日突然クラスメイトとともに異世界に召喚されてしまう。その世界は職業やスキルで強さが決まっていた。クラスメイトたちは、《勇者》や《賢者》などのなか佐藤は初級職である《魔術師》だった。しかも、スキルもひとつしかなく周りから《無能》と言われた。しかし、そのたったひとつのスキルには、秘密があって…鬼になってしまったり、お姫様にお兄ちゃんと呼ばれたり、ドキドキハラハラな展開が待っている!?

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...