747 / 754
護衛旅 ライムの進化? 3
しおりを挟む寿命が尽きかけていて、本当ならもう死んでいたハズ。
ライムの可愛らしい声でされた説明は一瞬だけ私の思考を止めたけど、話が過去形だったことと、体の大きさは変わったけど元気いっぱいのライムが目の前にいることで、何とか冷静に話を聞くことができた。
ライムの寿命が尽きかけていたことに気が付いていたハクは、正直にライムにその事実を告げ、
「ライムが死んだらアリスが悲しむしぼくも寂しい。だから、ぼくの加護の力を使って、死なないように頑張ってみないか? 無駄になるかもしれないし、寿命がほんの少し延びるだけかもしれない。もしかすると、別の存在になったり別の人格になるかもしれない。正直に言ってどう転ぶか僕にもわからないけど……。このまま素直に死を受け入れて欲しくないんだ、……アリスの為に」
と提案をしたらしい。
……真剣な話をするときには語尾に❝にゃ❞が付かないんだな~。なんて考えたのは一種の現実逃避かな? もしかしたら、ライムの姿をしたまったく別の人格のスライムになった可能性もあったなんて………。
ハクの提案した方法は、
1.新しい核を作らないように体を分裂させて、そこに今の核(じんかく)を移す
2.気合と根性で自分を進化させる
のふたつ。
スライムは分裂を繰り返すことで種の保存をしている種族だ。
❝分裂❞と聞くとなんとなく、ひとつのモノが分かれてふたつになるのだから元と同じものがふたつになる
のでは?と思ってしまったんだけど、スライムとして考えたらそんな訳はない。元のモノから分かれたモノは、まったく別の個性を持つ別のスライムだ。
それを捻じ曲げて、核の宿らない体を作り出し、もう生命維持できない元の体を捨てて新しい体に自分の核を移す……。
元は自分の細胞からできている分裂体なのだから成功の可能性はなくはない。でも、核が限界を迎えてしまったらもうどうしようもないし、もしも新しい体に移る時に体に核が引っ張られてしまったら、人格が変わってしまう可能性がある。それは、ライムの死につながる。
もう一つの選択肢、❝進化❞も一か八かの掛けだった。
そもそも❝進化❞なんて、そう簡単にできるものではない。少なくても、気合と根性だけでなんとかできるものではない。
それを手助けする為にハクが与える新たな加護の力は、ライムに強い生命力を与える代わりに、ハクが本気で命じたら、ライムはハクの命令に逆らえなくなるというものだった。
生命力と言っても命、寿命を延ばすものではなく純粋な❝力❞のことで、その力を使って進化を試みても失敗する可能性もあった。
どちらにしても、失敗の可能性のある2つの方法。ハクからデメリットも交えた話を詳しく聞いたライムが選んだのは2番目の❝進化❞だった。
「ぼく、みんなといっしょにアリスのそばでもっとながくいきたかったし、どんなメイレイでも、ハクがほんきでメイレイしたら、ぼくはちゃんときくから、いままでとなにもかわらないもん」
とのことだった。
ライムが心を決めたらハクは弟妹にもきちんと説明をし、後は従魔たちが一丸となってライムを応援する体制が整ったとのこと。
………どうしてそこで私への説明がないのかと不服に思ったけど、
「さぷらいずだったの! すごいね!って、がんばったねって、ほめてもらいたかったの! えへへ、ぼく、すっごくすっごくがんばったんだよ!」
ライムは無邪気な笑顔で嬉しそうに言い訳し、
「……ハク兄上は、主の泣き顔を見たくないと仰せでした。我らもです。全てが終わった後にお叱りを受けるのは我慢できますが、主が悲しむ顔を、主が泣く顔を見るのは嫌だったのです」
ニールが俯いたまま言い訳をした。
そこまで聞いて、どうしてライムの新しい命に私が関係するのかと疑問に思う。ハクは進化に必要な力を授ける為に❝加護❞を与えた。では私は?
「アリスのつくってくれるおいしいごはんをいっぱいたべて、しんかにたえられるようにえいようをいっぱいたくわえたの。アリスのアリスボールはしんかにひつようなマリョクになったの!」
とのことらしい。
事前に教えてくれたなら、もっともっとおいしいごはんをたくさん作ったし、アイスボールだっていくらだって出したのに!と抗議したら、
「いつものありすがよかったの! ❝ぼくがしぬかもしれないからやさしくしてくれるアリス❞じゃなくて、いつもとおんなじのアリスがよかったの。なんにもなくてもいつもやさしいアリスが、ぼく、だいすきなの!」
えへへ、と嬉しそうに笑いながら返されて、これ以上の文句は言えなくなってしまった。
「そっか……。うん……。ライム、よく頑張ったね! 生きていてくれて、とってもとっても嬉しいよ! 生きる為にいっぱいいっぱい頑張ったライムは、とっても偉い!」
って褒めてあげるしかないよね?
もっと詳しい話を聞きたいけど、まずは、期待に体を揺らして目をキラキラさせて私を見つめているライムを褒めてあげないと!
---------------------------------------------------------------------------------------
読みに来てくださって、ありがとうございます!
投稿時間に間に合わなかった……。遅くなってすみません><
108
お気に入りに追加
7,544
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜
まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は
主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
さこの
恋愛
ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。
その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?
婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!
最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた
そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた
しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう
婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ
婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか
この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話
*更新は不定期です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる