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護衛旅 野営 6
しおりを挟む【マップ】を見ながらハクと共に全力で森を駆け、❝ハジメマシテ❞の魔物が視認できる所まで近づいた。
「ねえ、アレなに?」
「鑑定してみるのにゃ」
「鑑定はちゃんとしたよ? でも……、なにアレ」
肉眼でギリギリ見えている光景。それは、コボルトのお腹の肉を鋭い嘴でついばんでいる大きな4本足の魔物。
私の目には熊に見えるんだけど、頭は梟。鑑定結果は<オウルベア>。……うん、そのまんまだね。
知っている動物同士が合わさってできたような魔物の姿は、なんと言うか、違和感だらけで……。
梟のくせに夜行性じゃないの? 気持ち悪し近づきたくないな~。このまま回れ右しちゃおうかな~?なんて思っていると、不意にこちらを見た梟顔と目が合ってしまう。
と、同時に4本足でこちらに駆けて来た。雄叫びを上げるとかの前振りも何もなく!
びっくりして思わず後ずさってしまったんだけど、私を守るように前へ出たハクの白いぽあぽあの毛が目に入って正気づく。ビビっている余裕なんて欠片もない!
「【ウインドカッター・クインティプル】!」
とっさの時に出るのはやっぱり使い慣れた【ウインドカッター】。
周りを類焼させたり、水浸しにしたり、地形を変えたりしない、一番便利な魔法でもあるしね。それを今私が使える最大の5連発を頭部の梟目掛けて力いっぱいに放ってみる。もちろん避けられる可能性を考えて、放った後には全力で右方向へ跳んで逃げてみたんだけど……。
「今日の晩ごはんはクマ肉かにゃ~?」
のんびりとしたハクの声に、すでに危険は去っていることに気が付いた。
大きな音を立てて倒れ込んだ熊の体。私が放った風の刃は狙い通りに梟の頭を左右に真っ二つにしただけでなく、そのまま後ろの体も真っ二つにしていた。
私が安堵して座り込んだのと、
「毛皮の価値が下がったにゃ~……」
ハクの残念そうな声が響いたのはほぼ同時。いつでもどこでも変わらないハクに頼もしさを覚えながらも笑いが込み上げてきた。
「次は気を付けるよ」
次に出遭わないことを期待するのでなく、次はどうやって狩れば良いかを検討する。思えば私も随分と逞しくなったものだよね~?
さっさとクマの死体を回収し、ハクに、
「地球では熊は臭みがあるって聞いてたから、下処理に時間がかかると思うんだ。だから、また今度、かな?」
今夜のごはんは別のモノだと告げておく。期待されると大変だからね。
案の定、残念そうなハクを見て、魔物の熊ってそんなにおいしいのかな?と私が期待してしまう。なのに、
「まあ、熊だしにゃ~」
あっさりと諦めたハクに、そこまでおいしい肉ではないと言外に言われて、がっかりだ。意識を切り替えて、もう1か所のハジメマシテに期待しようと【マップ】を開くと、
「アリス。オウルベアの行動範囲にはアレがあるのが定番にゃ! 取りに行くのにゃ~!」
ハクがご機嫌で私の肩に乗って来た。
アレって何だろう? と思いながら、マップのハジメマシテがある方向に向かって移動する。
ご機嫌なハクの様子に私の期待値も高まっていくんだけど……。
「ねえ、ハク? ハクが言う❝アレ❞ってアレのこと?」
ハクはご機嫌に頷くけど、マップもアレがハジメマシテの正体だと示しているけど、私はソレを見て顔をしかめてしまう。
だって、どう見てもアレって、
「蜂の巣、だよね?」
「そうにゃ! キラービーなのにゃ♪」
私の背よりもずっと大きな蜂の巣だ。それも<キラービー>
どんな大きさの蜂なのか、それがどれだけの数いるのかを思うとゾッとする。それなのに、
「ライムたちへのお土産なのにゃ♪」
どこまでもご機嫌なハクの姿は、先ほど感じた❝私、逞しくなったな♪❞なんて思いが気のせいだったと気づかせるもので……。
その辺の魔物よりうちの守護獣の方が怖いんじゃないの?なんて考えが頭を過ぎったのは……。内緒です!
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