671 / 754
出発前の下準備 1
しおりを挟む冒険者ギルドに行くと、酒場のテーブルで突っ伏している依頼人が目に入った。
なんとなく観察していると、私がいることに気が付いたオデッタさんに肩を叩かれて顔を上げた…、けど、目が何とも虚ろなので心配になり声を掛けてみる。
「仕入れや馬車の手配が上手くいっていないの?」
「……? ありすさんっ!?」
私に気が付いていなかったらしいアルフォンソさんは、ハッとした表情でオデッタさんと私に視線を往復させると、
「ゴブリンの魔石の取り出しは完璧にできるようになりました! 旅の間にゴブリンを倒したら、遠慮なく私にお任せください!」
胸を張って、私の苦手な仕事を請け負ってくれる。
「私も人型の魔物を中心に解体を覚えたから、どんどん任せてね!」
仕入れや旅支度で忙しい身だろう2人がどうしてこんな所にいるのかと思っていたら、私がお願いするアルバイトの為に、冒険者ギルドで腕を磨いてくれていたようだ。いや、
「おーいっ! アルフォンソ! またゴブリンが入ったけどどうするんだ~?」
「やらせてくださいっ! では、アリスさん。今日はこれで!」
ギルドの解体担当さんからの声掛けに弾かれたように席を立って行ったので、腕を磨いてくれている最中らしい。……アルフォンソさんが妙に臭うと思ったのはそういう訳だったんだと納得していると、
「オデッタさん、コボルトが入ったけどやるか?」
「お願いします!」
声を掛けられたオデッタさんも急いで席を立つ。
手を振って見送っていると、
「解体の練習に割ける時間は今日だけだからって、2人とも夜明け前から頑張ってるの」
オデッタさんと入れ替わりに席に座ったディアーナが、感心したような声で教えてくれる。
「2人とも真面目だね。……冒険者ギルドで教えてもらうんだから、やっぱりお金が掛かってるんだよね?」
「ええ。2人とも冒険者じゃないから割高な授業料が掛かってるんだけど、文句も言わずに頑張ってるわ」
商人としての素養や才能はわからないけど、私からの提案に対して誠実に取り組んでくれている2人の姿を見たら、是非とも幸せになってもらいたい!と思うのは人情だよね?
ディアーナから護衛任務に役立つ知識などを教授してもらいながら、❝2人が気に入る引っ越し先まで、怪我一つさせずにきっちりと送り届けるぞ!と気合を入れ直した。
シルヴァーノさんがまとめてくれた、最新の賞金首リスト(ジャスパー付近から王都付近まで)を見ながら酒場のテーブルでごはんを食べていると、
「お、おい! 何かわからんけど、猫が上手そうに大量の肉?らしきものを食ってるぞ!」
冒険者たちの悲鳴交じり(なぜ?)の声が聞こえてきた。これはワイルドボア&オークのから揚げのことかな?
みんな大好き!から揚げだけど、さすがにハーピー肉ばかりだと飽きてしまったのでお試しにワイルドボアの肉で作ってみたら、
(おいしいのにゃ! これはオーク…、極桃オークでも食べてみたいのにゃ!)
ということで、私たちのごはんに新たなメニューが加わった。
ちなみに……。オーク肉のから揚げは文句なしにおいしかったんだけど、桃オークと極桃オークのお肉で作った唐揚げは、なぜだかイマイチなお味になってしまって……。私たちは首を捻りながら、このレシピを封印した。
まだ複製することのできない貴重な極桃オークを無駄にしたと、ハクが悲し気に鳴き声を上げていた姿が可愛かったことは、私とライムだけの秘密です♪
「ね、ねえ! ライムちゃんが食べてるのって、フルーツだよね!? あんなにいっぱい!?」
冒険者の1人がぷるぷる震える指で指しているのは、フルーツヨーグルト。
アウドムラのミルクで作った濃厚なヨーグルトの中に皮ごとのりんご・皮を剥いたラフトマト・ひと房ずつに分けて甘皮を剥いたオレンジ・皮を外して種を抜いた葡萄・皮を剥いた極桃をそれぞれ一口大にカットしたものを入れただけの普通のフルーツヨーグルトなんだけど、
「あんなに綺麗な器にいっぱいの果物とヨーグルト? なんて贅沢な……。あれ、いったいいくらかかってるのよっ!?」
ガラスの器に盛ったフルーツヨーグルトも、思いの外おいしそう(高そう?)に見えたようで、
「俺も従魔になりてーっ! そしたらあんなに美味そうなもんを食わせてもらえるんだよな!?」
「もしもアリスの従魔になれたら、あんなに美味しそうで高級品ばかりを集めた食事を普段から食べさせてもらえるのよねっ!? ……どうやったらアリスの従魔にしてもらえるのか、誰か教えてよっ!」
「俺も! 俺も知りたいぞっ!」
何ともおバカな叫び声が聞こえてくる。
❝ヒトは従魔にはなれない❞って、誰か教えてあげてください……。
90
お気に入りに追加
7,544
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜
まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は
主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる