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出発前の下準備 1

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 冒険者ギルドに行くと、酒場しょくどうのテーブルで突っ伏している依頼人アルフォンソさんが目に入った。

 なんとなく観察していると、私がいることに気が付いたオデッタさんに肩を叩かれて顔を上げた…、けど、目が何とも虚ろなので心配になり声を掛けてみる。

「仕入れや馬車の手配が上手くいっていないの?」

「……? ありすさんっ!?」

 私に気が付いていなかったらしいアルフォンソさんは、ハッとした表情でオデッタさんと私に視線を往復させると、

「ゴブリンの魔石の取り出しは完璧にできるようになりました! 旅の間にゴブリンを倒したら、遠慮なく私にお任せください!」

 胸を張って、私の苦手な仕事を請け負ってくれる。

「私も人型の魔物を中心に解体を覚えたから、どんどん任せてね!」

 仕入れや旅支度で忙しい身だろう2人がどうしてこんな所にいるのかと思っていたら、私がお願いするアルバイトの為に、冒険者ギルドで腕を磨いてくれていたようだ。いや、

「おーいっ! アルフォンソ! またゴブリンが入ったけどどうするんだ~?」

「やらせてくださいっ! では、アリスさん。今日はこれで!」

 ギルドの解体担当さんからの声掛けに弾かれたように席を立って行ったので、腕を磨いてくれている最中らしい。……アルフォンソさんが妙に臭うと思ったのはそういう訳だったんだと納得していると、

「オデッタさん、コボルトが入ったけどやるか?」

「お願いします!」

 声を掛けられたオデッタさんも急いで席を立つ。

 手を振って見送っていると、

「解体の練習に割ける時間は今日だけだからって、2人とも夜明け前から頑張ってるの」

 オデッタさんと入れ替わりに席に座ったディアーナが、感心したような声で教えてくれる。

「2人とも真面目だね。……冒険者ギルドここで教えてもらうんだから、やっぱりお金が掛かってるんだよね?」

「ええ。2人とも冒険者じゃないから割高な授業料が掛かってるんだけど、文句も言わずに頑張ってるわ」

 商人としての素養や才能はわからないけど、私からの提案に対して誠実に取り組んでくれている2人の姿を見たら、是非とも幸せになってもらいたい!と思うのは人情だよね? 

 ディアーナから護衛任務に役立つ知識などを教授してもらいながら、❝2人が気に入る引っ越し先まで、怪我一つさせずにきっちりと送り届けるぞ!と気合を入れ直した。











 シルヴァーノさんがまとめてくれた、最新の賞金首リスト(ジャスパー付近から王都付近まで)を見ながら酒場しょくどうのテーブルでごはんを食べていると、

「お、おい! 何かわからんけど、猫が上手そうに大量の肉?らしきものを食ってるぞ!」

 冒険者たちの悲鳴交じり(なぜ?)の声が聞こえてきた。これはワイルドボア&オークのから揚げのことかな? 

 みんな大好き!から揚げだけど、さすがにハーピー肉ばかりだと飽きてしまったのでお試しにワイルドボアの肉で作ってみたら、

(おいしいのにゃ! これはオーク…、極桃オークでも食べてみたいのにゃ!)

 ということで、私たちのごはんに新たなメニューが加わった。

 ちなみに……。オーク肉のから揚げは文句なしにおいしかったんだけど、桃オークと極桃オークのお肉で作った唐揚げは、なぜだかイマイチなお味になってしまって……。私たちは首を捻りながら、このレシピを封印した。

 まだ複製することのできない貴重な極桃オークを無駄にしたと、ハクが悲し気に鳴き声を上げていた姿が可愛かったことは、私とライムだけの秘密です♪

「ね、ねえ! ライムちゃんが食べてるのって、フルーツだよね!? あんなにいっぱい!?」

 冒険者の1人がぷるぷる震える指で指しているのは、フルーツヨーグルト。

 アウドムラのミルクで作った濃厚なヨーグルトの中に皮ごとのりんご・皮を剥いたラフトマト・ひと房ずつに分けて甘皮を剥いたオレンジ・皮を外して種を抜いた葡萄・皮を剥いた極桃をそれぞれ一口大にカットしたものを入れただけの普通のフルーツヨーグルトなんだけど、

「あんなに綺麗な器にいっぱいの果物とヨーグルト? なんて贅沢な……。あれ、いったいいくらかかってるのよっ!?」

 ガラスの器に盛ったフルーツヨーグルトも、思いの外おいしそう(高そう?)に見えたようで、

「俺も従魔になりてーっ! そしたらあんなに美味そうなもんを食わせてもらえるんだよな!?」

「もしもアリスの従魔になれたら、あんなに美味しそうで高級品ばかりを集めた食事を普段から食べさせてもらえるのよねっ!? ……どうやったらアリスの従魔にしてもらえるのか、誰か教えてよっ!」

「俺も! 俺も知りたいぞっ!」

 何ともおバカな叫び声が聞こえてくる。

 ❝ヒトは従魔にはなれない❞って、誰か教えてあげてください……。
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