上 下
655 / 754

お引越し前夜&出発!

しおりを挟む




 旅立ちの前だからといっても、贅沢な食材は禁止。旅の間のごはんが辛くなるから。

 これは事前にマルタやミネルヴァさんや年長さん達に言われていたこと。

 だから今夜のメニューは、

 ・(パン屋で買った)丸パン
 ・(衛兵さん達が差し入れてくれた)ホーンラビットと(市場で買ったお買い得品の)お野菜たっぷりスープ
 ・ワイルドボアと(市場で買ったお買い得品の)ネギの串焼き
 ・卵と (市場で買ったお買い得品の)トマトのふわふわ焼き
 ・ボアテキと (市場で買ったお買い得品の)キャベツの千切り
 ・(屋台で買って来た)レンズ豆のトマト煮
 ・卵なしクッキー

 だけ。衛兵さん達からもらったラビット肉以外は、お安い食材(形が悪かったり一部分だけ傷んでいたり)を使って作ったり買ったりした物ばかりなんだけど、バイキング形式にしたせいか、

「お、美味しい! こんなに美味しい物を本当にお腹いっぱい食べても良いのか!? ……オレ達、明日はどこかのヘンタイ相手に売られて行くのかも……」

 他所の孤児院にいた子供たちにとっては❝ごちそう❞の部類に入ったようで、妙な心配をさせてしまったようだ。まあ、私が説明する前に、

「ヘンタイ相手に売るなら、1人に100万メレも使って<沈黙の誓い>を受けさせる意味がないよ! 院長にお金を払って連れて行けばいいんだから!」

「そうだよ! あたしたち誰も❝味見❞されてないのにここに連れて来てもらったし、<誓い>だって❝雇い主に何をされても人に話すな❞とかじゃなかったから、きっと大丈夫だよ!」

 子供たちは自分で答えを見つけ、

「今日のごはんは雇い主のアリスさんからのプレゼントだから安心して食べていいよ。明日からは長旅になるから、歯が折れそうなくらいカッチカチのパンとなかなか嚙み千切れない干し肉とか、その辺に生えてる草を煮ただけのスープになるかもね?」

「そっか。アリスさんって、俺たちにまでキレイな服をくれた金持ちのあまちゃ…、優しい人だもんな。よし、みんな! 腹いっぱい食べようぜ!」

 ベニアミーナちゃんの後押し(?)で安心して食べ始めた。

 いや、そんな聞くだけで食欲がなくなるような残念な食事をさせるつもりはないよ? 長旅になるのは本当だけど、一応、それなりに食べられるごはんはたくさん用意してるからね!

 って言いたかったけど、わざわざ今言わなくても、まあ、いいか。旅を始めたらわかることだしね。

「こんなのごちそうじゃないよ! アリスちゃんのごはんはもっともっと…」

 小さい子がごはんの不満を口にしていたけど、年長さん達に何かを言われて大人しく食べ始めたので気にしなくてもいいだろう。

 子供たちがおいしそうに食べているのを見ていると、子供たちと一緒に楽しそうに食べてくれていたアルバロと目が合った。

 ん? 鍋を見てから少し悲しそうな表情……? 上位ランクのアルバロたちの口にはやっぱり合わなかったか、と思ったけど何か違う? 鍋を片手で持ち上げて軽く振るアルバロ……って、もう、空になったのっ!?

 は~い! おかわりの鍋と交換をしま~す! たくさんあるから、いっぱい食べてね!

 ハクとライムは……、クッキーばっかり食べてるね? え? 市場で買った野菜はおいしくないから嫌だ? 確かにマルゴさんやルベンさんの野菜やミネルヴァ邸で作っている野菜に比べたらおいしくないけど……。今日のごはんはこれだけだよ? お腹空いてもしらないよ~?

 ……さっき、子供たちが何やら不穏なことを口にしていたけど、今は掘り下げなくてもいいだろう。後で領主ルクレツィオさんの耳に入れておこう。

 今は子供たちがお腹いっぱいに食べるのを邪魔しちゃいけないもんね。明日の為に、たくさん食べて、たくさん眠って、元気をいっぱい充電してもらわないと♪























 夜明けまではまだしばらくの時間があるけど、正門の前には門が開くのを待つ人たちが列をなしていた。

 その先頭にミネルヴァ家、マッシモ家(まだ結婚していないけど、もう家族扱いでいいだろう)、各孤児院から集まってくれた子供たち、アルバロ&マルタのパーティーとバルさん所属のパーティーにイザック、ルシアンさん、リベラトーレさんの護衛組の皆さんが陣取っている。

 今回のお引越し用に用意した馬車8台に子供たちが分散して乗車し、それぞれにミネルヴァさんとバルさんのパーティーメンバーが同乗。子供たちの馬車を挟むようにアルバロとマルタのパーティーの馬車を配置し、イザックとリベラトーレさんとルシアンさんはそれぞれ馬に騎乗して、全体の様子を見てくれる位置取りをすることになっている。

 うん、これなら旅路も安心だね! 

 あとは門が開くまでに荷物の最終確認。

 馬やロバの餌はちゃんと積んでるし、ハンモックや布団代わりの毛皮や帆布も積んだ。子供たちの着替えや生活用品、組紐の道具と十分な量の糸もきちんと積んだ。ポーションなどの薬類も護衛組に多めに渡しているから大丈夫。

 後は、みんなの食料だけど、

「即席麺とアルファ化米、乾燥スープの素とボアの干し肉とドライフルーツ各種。それに硬めに焼いたクッキー。あとはリベラトーレさんの所でもらったピザ各種。……ねえ、本当にこれだけでいいの?」

 たくさん用意した食料の中から護衛組が私に指定した食料はこれだけ。本当にこれだけで良いのか心配だけど、みんなが力強く頷くからこれ以上は言えないね。

 見送りに来てくれた人たちとの別れを済ませたみんなが馬車に乗り込むのと、門が開くのはほぼ同時だった。

 朝日が少しずつ空を明るく染め始めて……。

 うん! 今日もいいお天気になりそう! 絶好の旅立ち日和だね!

 ハクとライムを抱きしめながら、私はみんなに向かって手を振った。

「いってらっしゃ~い! 気を付けてね!!」

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

処理中です...