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お引越し前夜&出発!
しおりを挟む旅立ちの前だからといっても、贅沢な食材は禁止。旅の間のごはんが辛くなるから。
これは事前にマルタやミネルヴァさんや年長さん達に言われていたこと。
だから今夜のメニューは、
・(パン屋で買った)丸パン
・(衛兵さん達が差し入れてくれた)ホーンラビットと(市場で買ったお買い得品の)お野菜たっぷりスープ
・ワイルドボアと(市場で買ったお買い得品の)ネギの串焼き
・卵と (市場で買ったお買い得品の)トマトのふわふわ焼き
・ボアテキと (市場で買ったお買い得品の)キャベツの千切り
・(屋台で買って来た)レンズ豆のトマト煮
・卵なしクッキー
だけ。衛兵さん達からもらったラビット肉以外は、お安い食材(形が悪かったり一部分だけ傷んでいたり)を使って作ったり買ったりした物ばかりなんだけど、バイキング形式にしたせいか、
「お、美味しい! こんなに美味しい物を本当にお腹いっぱい食べても良いのか!? ……オレ達、明日はどこかのヘンタイ相手に売られて行くのかも……」
他所の孤児院にいた子供たちにとっては❝ごちそう❞の部類に入ったようで、妙な心配をさせてしまったようだ。まあ、私が説明する前に、
「ヘンタイ相手に売るなら、1人に100万メレも使って<沈黙の誓い>を受けさせる意味がないよ! 院長にお金を払って連れて行けばいいんだから!」
「そうだよ! あたしたち誰も❝味見❞されてないのにここに連れて来てもらったし、<誓い>だって❝雇い主に何をされても人に話すな❞とかじゃなかったから、きっと大丈夫だよ!」
子供たちは自分で答えを見つけ、
「今日のごはんは雇い主のアリスさんからのプレゼントだから安心して食べていいよ。明日からは長旅になるから、歯が折れそうなくらいカッチカチのパンとなかなか嚙み千切れない干し肉とか、その辺に生えてる草を煮ただけのスープになるかもね?」
「そっか。アリスさんって、俺たちにまでキレイな服をくれた金持ちのあまちゃ…、優しい人だもんな。よし、みんな! 腹いっぱい食べようぜ!」
ベニアミーナちゃんの後押し(?)で安心して食べ始めた。
いや、そんな聞くだけで食欲がなくなるような残念な食事をさせるつもりはないよ? 長旅になるのは本当だけど、一応、それなりに食べられるごはんはたくさん用意してるからね!
って言いたかったけど、わざわざ今言わなくても、まあ、いいか。旅を始めたらわかることだしね。
「こんなのごちそうじゃないよ! アリスちゃんのごはんはもっともっと…」
小さい子がごはんの不満を口にしていたけど、年長さん達に何かを言われて大人しく食べ始めたので気にしなくてもいいだろう。
子供たちがおいしそうに食べているのを見ていると、子供たちと一緒に楽しそうに食べてくれていたアルバロと目が合った。
ん? 鍋を見てから少し悲しそうな表情……? 上位ランクのアルバロたちの口にはやっぱり合わなかったか、と思ったけど何か違う? 鍋を片手で持ち上げて軽く振るアルバロ……って、もう、空になったのっ!?
は~い! おかわりの鍋と交換をしま~す! たくさんあるから、いっぱい食べてね!
ハクとライムは……、クッキーばっかり食べてるね? え? 市場で買った野菜はおいしくないから嫌だ? 確かにマルゴさんやルベンさんの野菜やミネルヴァ邸で作っている野菜に比べたらおいしくないけど……。今日のごはんはこれだけだよ? お腹空いてもしらないよ~?
……さっき、子供たちが何やら不穏なことを口にしていたけど、今は掘り下げなくてもいいだろう。後で領主ルクレツィオさんの耳に入れておこう。
今は子供たちがお腹いっぱいに食べるのを邪魔しちゃいけないもんね。明日の為に、たくさん食べて、たくさん眠って、元気をいっぱい充電してもらわないと♪
夜明けまではまだしばらくの時間があるけど、正門の前には門が開くのを待つ人たちが列をなしていた。
その先頭にミネルヴァ家、マッシモ家(まだ結婚していないけど、もう家族扱いでいいだろう)、各孤児院から集まってくれた子供たち、アルバロ&マルタのパーティーとバルさん所属のパーティーにイザック、ルシアンさん、リベラトーレさんの護衛組の皆さんが陣取っている。
今回のお引越し用に用意した馬車8台に子供たちが分散して乗車し、それぞれにミネルヴァさんとバルさんのパーティーメンバーが同乗。子供たちの馬車を挟むようにアルバロとマルタのパーティーの馬車を配置し、イザックとリベラトーレさんとルシアンさんはそれぞれ馬に騎乗して、全体の様子を見てくれる位置取りをすることになっている。
うん、これなら旅路も安心だね!
あとは門が開くまでに荷物の最終確認。
馬やロバの餌はちゃんと積んでるし、ハンモックや布団代わりの毛皮や帆布も積んだ。子供たちの着替えや生活用品、組紐の道具と十分な量の糸もきちんと積んだ。ポーションなどの薬類も護衛組に多めに渡しているから大丈夫。
後は、みんなの食料だけど、
「即席麺とアルファ化米、乾燥スープの素とボアの干し肉とドライフルーツ各種。それに硬めに焼いたクッキー。あとはリベラトーレさんの所でもらったピザ各種。……ねえ、本当にこれだけでいいの?」
たくさん用意した食料の中から護衛組が私に指定した食料はこれだけ。本当にこれだけで良いのか心配だけど、みんなが力強く頷くからこれ以上は言えないね。
見送りに来てくれた人たちとの別れを済ませたみんなが馬車に乗り込むのと、門が開くのはほぼ同時だった。
朝日が少しずつ空を明るく染め始めて……。
うん! 今日もいいお天気になりそう! 絶好の旅立ち日和だね!
ハクとライムを抱きしめながら、私はみんなに向かって手を振った。
「いってらっしゃ~い! 気を付けてね!!」
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