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お引越し準備 21
しおりを挟む「ぐっ! うぁああああああっ!! やめてくれ! もう許してくれっ!!」
「ひぃっっ‥‥‥!」
「体が、体が腐っていくっ……。いやぁああああ!!!」
「こわい…、こわいよぉ……」
「あああっ! 痛い、痛いぃぃぃ……」
「ひっくひっく……、うえええええん!!」
ミネルヴァ邸に響く、冒険者たちの大きな悲鳴と子供たちの泣き声。
衛兵詰所に事前に話を通しておいて正解だったな。
聞いた人が詰所に通報しても不思議じゃないくらいの阿鼻叫喚の声。護衛組の演技力が光り過ぎている……。
様子を見に来てくれた隊長さんがなんとも言えない表情で私を見つめているんだけど、今回の件は、私にはどうしようもないよ? ミネルヴァさん&年長さん達と護衛組が相談した結果なんだから。
とは思うんだけど、門の外で足を止め、恐々と様子を見ている通行人を安心させてくれている衛兵さんたちには感謝をしないとね?
お礼&お詫びとして、インベントリに大量にストックしていたポテトチップスをプレゼントすると、隊長さんは苦笑しながら受け取ってくれる。高カロリー&塩分高めなお菓子だけど、体力勝負な衛兵さん達には問題ないだろう。パリッとしているうちに食べ切って欲しいな!
そんな思いを込めた私の視線に気が付いたのか、ただ食べ物を持つと口に入れるのが習慣となっているからか、1枚摘まんで口に放り込んだ隊長さんはカッと目を見開き、物凄い勢いで食べ始め…、ハッと何かに気が付いた様子で慌ててポテトチップスをアイテムボックスにしまい込んだ。
「隊員たちから恨まれる所だった」なんて呟いているから、とっても気に入ってくれたと判断。追加を渡してあげると嬉しそうににっこり笑い、外に出て隊長さん自ら足を止めている通行人を捌いていく。隊長さんの「事件性はないので大丈夫」の一言だけで立ち止まっていた人たちが散っていくのだから、街の人たちからの隊長さんへの信用度がよくわかるね!
護衛組の<誓い>が済んでミネルヴァ邸に響いていた悲鳴が止み、足を止める通行人もいなくなると、隊長さんは、
「アリスさんから差し入れをいただいたぞ~。初めて見る菓子だがメチャクチャ美味かった! が、俺の勘は、この菓子は時間を置くと味が落ちると告げている。詰所まで急げ!!」
「「「「「うおおおおおおお!!」」」」」
子供のように元気いっぱいの衛兵さんを連れて、さっさと詰所へ戻って行った。……お別れを言い忘れちゃったから、改めて挨拶に行かないといけないね。
<沈黙の誓い>を済ませたアルバロたち護衛組は、とってもおいしそうにアイスクリームを堪能している。
油断すればすぐに溶けてしまうアイスクリームを、ひと匙ひと匙大切にゆっくりと味わっていた。
うん、さすがは高ランクの冒険者たちだ。<誓い>で負ったはずのダメージをまるで感じさせない、見事な自制心だと感心していると、
「へへっ、こんなに美味いもんが食えるなら、あの辛かった<誓い>も悪くねぇな~。もう一回受けたら、アイスクリームをおかわりさせてくれるかなぁ?」
「同じ件で2度誓っても何の意味もないっていうか、ただの金の無駄だから、おかわりなんかさせてくんねぇだろ。……もしも2度目の誓いをするなら代金100万メレはおまえが払うんだよな? だったらその100万で『おかわりさせてくれ!』って言った方がいいんじゃねぇの?」
なんだか子供のような、なんとも言えない発言が聞こえてきた。
バルさん……、おかわりさせてあげるから、リーダーさんに前借りを申し込むのはやめましょう……。
感心していた分、残念さが倍増しになってしまったバルさんだけど、
「おチビたちにも食わせてやりたいなぁ。アリスちゃん! 1万メレで菓子を売ってくれねぇか? ……あ~、1万メレ分じゃあ、足りねぇかな?」
ミネルヴァ家の子供たちを気遣ってくれる発言はとっても嬉しくて!
「ああ、じゃあ、足りない分は俺が払うよ」
「あら、アタシも払うから、みんなでおチビちゃん達の笑顔を見に行きましょ!」
バルさんだけでなく、護衛組が子供たちを可愛がってくれていることにとっても安心して。
「お引越しは明後日くらいでどうかな? 準備できそう?」
前置きなしに、出発日時を提案してしまった。
うん、みんなのポカンとした表情は当たり前だね。ゴメン、反省してる。
詳しく話をするから、とりあえず、アイスが乗ったままのスプーンで私を指すのはやめて欲しいな……。
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