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お引越し準備 8
しおりを挟む「……で、こっちをこうやって……、こっちを、よっ、引っかけたら……これを外して………。
よしっ! へへっ、できたぞーっ!」
「……、ん! 私もできたっー!!」
「すげーっ! おまえら、すげーなっ! ほら、500メレ!」
「2人とも本当にできてる~っ! わたしからも500メレね」
「おいおい、おまえら天才じゃね? ほい、500メレ!」
「これは強力な戦力だな! 500メレだ、受け取れ」
「このやり方なら10人いないあたしらのパーティーだけでもハンモックを編める! はい、500メレ!」
先輩冒険者たちの惜しみない拍手と称賛、そして報酬としてそれぞれから500メレずつを受け取り、べニアミーナちゃんとクリスピーノ君はとっても嬉しそうだ。
事の起こりは護衛組が行っていたあやとり訓練。
ミネルヴァ家の年長さんたちにお願いしていた<六段はしごハンモック>を作れる長さの組紐が出来上がったので、護衛組が早速庭で練習を始めたんだけど……。それを見ていた子供たちが呈した疑問、「1人でやった方が早くて簡単じゃない?」が発端だった。
うん…、実はコレ、ハクも言っていたんだよねぇ。10人がそれぞれの役割だけをこなすのは一見楽に思えるけど、相手の動きを待ったり自分が待たせたりと何かと大変じゃないのか?って。
確かに、1人が全ての工程をした方が楽だと私も思ったんだよね。でも、護衛組の中にはあやとりが苦手な……、❝難しくて覚えられない❞って先入観でガチガチのせいで手順が覚えられない人たちがいるんだ。
だから私からは言い出せなかったんだけど、何の先入観もないべニアミーナちゃんとクリスピーノ君にはまどろっこしく思えたんだろう。子供特有の物覚えのよさで、あっという間に6段はしごまでの手順を覚えてしまったふたりだから尚更、ね。
で、子供2人の言うことに反応したのが、どうにもあやとりが苦手だったバルトロメーオだ。
子供たちが寝床用のハンモックを用意できるなら、自分たちが休息に充てる時間が格段に増えると期待して「できるもんならやってみな? できたら500メレずつ小遣いやるぞ」と言い出し、同じようにイマイチあやとりが得意でない護衛組メンバーからも賛同の声が挙がり、現在に至る、と。
子供たちのやり方はとっても単純で、冒険者組が指の代わりをそれぞれのメンバーが行おうとしたのに対し、彼らは地面に突き刺した10本の薪を指の代用にした。あとは手順通りに紐を抜いたり引っかけたりを繰り返し、護衛組とほぼ変わらないタイムで6段はしごを完成させた。
子供たちの器用さと発想に感心したのはもちろんだけど、私は冒険者たちが、格下のGランク冒険者であるべニアミーナちゃんやクリスピーノ君を軽んじることなく、約束の報酬を気持ちよく支払っている姿に感心する。
自分たちが手こずっていることをさらりとやってのけた子供たちに、誰も嫌そうな表情を見せていない。正確には少し悔しそうな表情を浮かべた人もいたんだけど、なんていうか、マイナスな感じじゃなかったんだ。❝ガキに負けてらんねぇな! 気合入れて覚え直すか!❞っていう感じ?
この様子をみて、今回のお引越しの旅はきっと和やかなものになる確信したよ。さすがはアルバロとマルタの仲間だね! みんなそれぞれに素敵な人たちだ♪
あ、もちろんバルさんたちのパーティーもリーダーさんを始めみんな陽気で楽しい人たちばかりだよ(悪酔いしてなければね!)。子供たちと同じ視点で色々と楽しめるのがこのパーティーの強みかな?
……1人だけ、年長さんたちに弟扱いされている人がいることは、本人には内緒だよ!
子供たちが「自分が作ったハンモックを使ってみたい!」と言い出した時は、どこに引っかければいいかと少しだけ困ったんだけど、冒険者組はあっさり「おお、いいぞ」と了承すると、体格のいい男性陣が紐を持ち木の代わりをしてくれる。
でも、紐で作った6段はしごだと、
「あはははははは! なんだこれ、揺れるぞ!? 落ちる、落ちるっ…と。 おっもしろいな~♪」
「きゃあ! 痛ったたたたた! 落ちちゃったけど楽し~いっ!」
うん。やっぱり落ちるよね?
寝床にするなら、と帆布と毛皮を出してあげたんだけど「今はいらないや」と拒否されてしまう。なんだか落ちそうなところを踏みとどまるのが楽しいらしい。
けど、ね? 知ってる? それって、遊び道具じゃなくて、寝具なんだよ~?
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ♪」
「ぷきゅるるるるるるる♪」
子供たちと一緒にとても楽しそうに遊んでいるハクとライムを見て、子猫とスライムサイズのハンモックを作ることを決意した私は、もしかしたら、親バカと言われる人種なのかもしれないな~?なんて、ちょっとだけ思ったんだけど。……違うよね~?
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