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お引越し準備。の準備 18

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「アリス! アリス! もうい~い?」

「あははは! う~ん、そうだね……。もうちょっと!」

「ざんねん! …………まだかな~?」

「うん、もうちょっと。ね?」

 今朝の目覚めは体の一部を指のように変形させたライムからの❝頬っぺたぷにぷに攻撃❞から始まり、「ぼく、おいしいアイスボールアリス食べたいの!」とおねだりが入り、お鍋で煮込まれている極桃を見ては「まぁだかな~?」との可愛らしい催促をするライムに、ハクと一緒に笑いを堪えて今に至る。

 事の始まりは昨日、今まで発注してそのままになっている品物を引き取りに行かないと!と思い立ったことから始まった。

 この街に来てすぐの頃に発注したスレイとニールの為の馬具。サドルを始めとしたサドルクロスや肢巻などは、私たちが集めた素材を使って一流の職人さんが丹精込めて作ってくれただけあり、どれもスレイとニールの気に入りの一品となった。

 鞍はスレイとニールの背の形にしっかりと添うように作られている上に、柔らかくてクッション性バッチリのサドルクロスが優しく支えてくれるので、2頭のボディに対する負担がほとんどない程の出来だそうだ(スレイ&ニール談)。この2点と色鮮やかな肢巻には私のきものドレスの意匠とお揃いの刺繍が入っていて「「主さまと揃いの意匠をいただけるのは従魔の誉♪」」と昨日の2頭はとてもご機嫌さんで、目を細めて親方さんの頭に頭を寄せるサービスまでしていてちょっとびっくりした。

 結構なお値段になったんだけど、2頭の喜びようを見て、買ってあげて良かったなぁと心から思ったよ。

 あ、手綱は従来のものとはちょっと違うんだ。2頭がとってもお利口なことと私と心話が通じる事を踏まえるとハミは不要でしょ? だから帯状の布(もちろん着物ドレスと同じ意匠の刺しゅう入り!)で両方の前肢を潜らせるような形で付けさせてもらうことにしたんだ。手で握る部分は私の手の大きさを考慮した太さに編んでもらってとても握りやすくできている。鐙は鞍とお揃いのオーク革で作ってもらったので、スレイとニールのお腹に当たっても痛みを軽減できるはずだ。

 これを見たハクとライムが大喜びで親方さんの周りを跳ね回り、親方さんはそれに気をよくしたそぶりで「これもやる」とお手入れ用のブラシと一双の乗馬用手袋をプレゼントしてくれた。今思いついたかのように渡されたけど、手袋のサイズがぴったりだった事から、これは元々私用に作られたものだと推測する。嬉しかったのでミルクレープを1ホールお礼に渡しておいた。

 いつかハクが大きく大きく大きく育ち、私を乗せてもいいよって言ってくれたら、ここで鞍を作ってもらおうと思う。親方さん、その時まで現役でいてね!










 その流れで行ったのが馬車工房。

 くつろぎ空間を重視した方も、乗ったままでお店になる方も、両方ともとっても気に入った。

 馬具工房の親方さんと細やかな打ち合わせをしてくれたおかげで、馬車もだけどハーネスもスレイとニールが付けている馬具ととても相性がいい外観になっている。

 受け取った後に2台ともをインベントリに収納すると、呆気にとられたような表情で見られて反応に困ってしまった。だって今はまだ必要ないんだもん。きちんと有効活用するから安心してね?












 その次に行ったのは服を仕立ててもらったドレス工房。

 店主さん夫妻は不在だったけど、先日服の受け取りに来た時に挨拶をしてもらったデザイナーの卵さん(教育済みの従業員さん)たちがいたので、端切れがあったら譲ってもらいたいと交渉してみた。

 端切れで小さなお人形サイズのドレスを作るのも訓練の一環だと聞かされたので諦めようと思ったら、どうしてそんなものが必要なのかと聞かれ、素直にティーポットカバーを作りたいんだと説明したらあっさりと割安で譲ってくれた。

 自分たちが一人前になったら、私をイメージしたドレスを作らせてもらいたいと懇願されたのにはびっくりしたけどね。この街を離れたら次はいつ来られるかわからないと伝えたら、生地見本の人形に着せると言われたので承諾しておいた。

 勝手にしても誰にも叱られないだろうに(私だって自分がモデルだったなんて考えもしないだろう)、わざわざ承諾を得ようとする姿勢に好感を持ったので、バスケットいっぱいの卵ボーロを渡しておいた。

 これならデザイン画を汚すことなく気軽に摘まめて勉強の邪魔にはならないだろうから。 

 みなさんが一人前のデザイナーになる日が楽しみだ♪












 そして最後に寄ったのが、以前に卵焼き専用フライパンを作ってもらった鍛冶工房だ。

 今度もちょっと毛色が代わるんだけど、<カンナ>を作って欲しいとお願いしていたんだ。

 こっちでは❝押す❞方が主流らしいんだけど、❝引いて使う❞カンナをお願いしたら、何度も何度も試行錯誤を重ねてくれた。

 結果、氷を薄―く削れるカンナの出来上がりだ。

 それを見て気になったのが、私の可愛いライムだった。私が作ったアイスボールを削っただけの氷。

「その氷、食べてもいい?」

 と聞かれたので、構わないけど明日まで待てばジャムを掛けた美味しい<かき氷>をおやつに出すよ?と伝えると、少しの躊躇いの後「明日まで待つ」と言ってくれたので、昨日は安心して眠りに着いたんだけど……。

 1日お預けにしてしまった今、ライムの期待値が跳ね上がっているようで……。

 丁寧に桃を混ぜ、こまめにアクを取りながら早く出来上がってくれ!と心の中で叫んでしまった。

 砂糖控えめ桃のジャムを掛けたかき氷は、きっとライムの好みにも合うだろう。

 だから、ライム! もうちょっとだけ待っていてね?

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