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お引越し準備。の準備 11

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 家の購入者が決まったことを報告する為に翌日ミネルヴァ家へお邪魔すると、いつも通りの笑顔でみんなに迎えられてほっと一安心した。

 先日は騙し討ちのような形で幼い子供たちに<誓い>を立ててもらったから、悪魔のように嫌われている覚悟もしていたんだよね……。ミネルヴァさんや大きい子たちが上手にまとめてくれたんだと心の中で感謝しながら挨拶を交わしていると、畑の世話をしていた子供たちが畑の土を移住先まで持って行きたいと言って来た。

 自分たちを受け入れてくれる村に対する❝お土産❞にしたいということなので、畑の土を持って行くより直接肥料を持って行く方が大量に運べると提案すると、

「ここの土は捨てちゃうの!? もったいないよ!」

 と泣きそうな表情で迫られたので、

「ここの土もお家も収穫するにはまだ未熟で収穫できずに残していくお野菜も、み~んな! この家の購入者さんが有効活用してくれるよ!」

 購入者であるカッサンドラさんのことをお話する。

 私の説明でどれだけ納得してもらえるかが少しだけ不安だったんだけど、カッサンドラさんの商会はここの子供たちでも名前を聞いたことがあるほどに大きいものだったので話は早かった。

 商会主である彼女が直接交渉に来たことと、彼女の夫が私の泊っている宿(キャロ・ディ・ルーナのことも子供たちは知っていた)の総支配人さんであること、私から見た総支配人さんの人柄とカッサンドラさんの印象を話して聞かせると子供たちは安心し、自分たちが育った家を壊されないことや今まで育ててきた畑を引き継いでもらえることを喜び、

「ふ~ん……。じゃあ、その商会が私たちのライバルってこと? 絶対に負けないんだから! アリスおねえちゃんの為に美味しい野菜を作るから、いっぱい儲かってね!」

 なんて可愛いことを言ってくれる。 

 でも、引越し先のネフ村では、自分たちの食べる分と村が売る(または税として納める)分の野菜を作って欲しいんだよね。村にお金がある=村の発展にお金を使えるってことだから。

 村で野菜を作っているルベンさんに❝農業❞を教えてもらい、村長一家マルゴさんたちのお金を使い込まなくても良いように、組紐・畑・カモミールティー工場とグレープシードオイルの4本を軸とした形で村を発展させて欲しいと伝えると、

「そっか! 村では元々畑を作ってるんだもんな! ちゃんとした野菜の育て方を知ってる人に教わったなら、今よりももっと品質の高い野菜を育てられるようになるぞ!
 任せてくれよ、アリスさん! 俺たちが作る野菜を領主さまが買いに来るくらいの凄いのを作るからな!」

 素晴らしい意気込みを見せてくれる。

 大丈夫だよ! ライムの肥料を使ってみんなが一生懸命作ってくれる野菜は、領主どころか王家の御用達になる可能性が高いからね! 

 愛する弟の領地で採れる野菜が最高級の物だと知ったら、きっと手に入れようとするはずだもん。あの弟大好き♪な王さまは。大公になるモレーノお父さまの領地を宣伝する絶好の機会を見逃すはずがないからね!












 この家のことに一区切りついたことを知った子供たちは、一抹の寂しさを隠すようにはしゃいで見せる。

 柱の傷は誰と誰が喧嘩をした時にできたものだとか、テーブルに落書きをして叱られた時の話とか、今でもたまに顔を見せに来るお兄ちゃん&お姉ちゃんたちの話とか。

 みんなと一緒に笑っていたんだけど、

「いっしょに村に行くほかの子たちも、もうアリスちゃんのアイスを食べた?」

 幼い子の誰かがポツリと口にしたことで、沈黙が落ちる。

 私のアイス=痛かった<沈黙の誓い>になっているからね。

 子供たちが痛みを思い出して泣かないように、と祈りながら「まだだよ」と答えると「いつするの?」と聞かれ……。未定だと答えると「え~!? なんで!?」とか「早くしないと時間が無くなっちゃうよ!」と怒られた。

 ミネルヴァ家では大きい子たちが率先して<誓い>を立ててくれたから助かったんだけど、まだ何の信頼関係も築けていない他の院の子には、なかなか「誓いを立てて欲しい」とは言い辛くて……。出発前に集まった時に誓ってもらうつもりだと説明すると、

「そんなこと言って、❝痛いのイヤだから、村に行くのや~めた!❞とか言われたらどうするの?」

 と叱られる……。

 その上で、明日にでも移住候補者をここに集めて<誓い>を立ててもらうように、と段取りを組まれてしまった。

 文言は以前と一緒で、裁判官への依頼は今からしてくるから! と元気いっぱいに走り出す後ろ姿を見送って、

「あ…、じゃあ、アイスの用意をしておかないとね」

 先日大量に減らしたままで補充をしていなかったアイスに気を向ける。

 私の中では<沈黙の誓い>とアイスがセットになっていたので、何気なく言ったことだったんだけど、

「ダメ」
「却下!」
「不要です」

 大きい子たちとミネルヴァさんに、揃って却下されてしまった。最初に甘やかしてしまうと後々に響くから、というのが理由なんだけど、それだと<誓い>を立てることをしぶる子も出てくるだろう。

 どうしたものかと考えていると、

「ありすちゃん、しっかり!!」
「<誓い>を立てていない子は、村に連れていかない! って言えばいいんだよ!」

 簡単な呪文まで授けられる。呪文の効力は、明日実際に使ってみるまでは不明だけどね。そんなに強気で大丈夫かな……?











 昨日子供たちに教わった呪文は、みんなの協力もあり見事な効力を発揮した。

 痛い思いをするのは嫌だという子がやはり出たが、

「だったら一緒に行けないね! こんなに条件の良い移住なんて滅多にないのに」

 子供たちが一言口添えてくれるだけで、嫌がる子の気があっさりと変わったのだ。

 凄いな!と感心していると、なんだか生温かい視線で見られ、

「俺たちを見たら、この話を受けた方が得だと思うのは当たり前だろ?」

 苦笑交じりに説明される。

 同じ孤児でもこの家の子供たちは自分と比べて血色がいいし着ている物も小綺麗だということに気が付いたら、素直に誓いを立てた方がお得だと普通に気が付くらしい。

 そして、私が今日集まってくれた子たちの分も着替えを用意していることを聞くと、我先にと進んで誓いを立ててくれた。

 荷物になるからここで預かっておいて出発の日に渡すつもりだったけど、何だったら今日持って帰ってもいいよ。と伝えると、

「このままここで預かっていて欲しい」

 とのことだった。……綺麗な服を持って帰ると他の子や院の大人に盗られるから、と言われて少し切なくなったことは、内緒だ。

 古着屋さんで揃えた服だから大丈夫!とは言えないのが今の孤児院の現状らしい。

 ここから先は領主ルクレツィオさんに頑張ってもらうしかないよねぇ……。

 誓い終わった子たちから順番に、ミネルヴァ家の子供たちの遊びの輪の中に引き込まれている。

 ハクとライムが選んだ子たちだから、みんなとの相性についてはあまり心配はしていなかったんだけどね?

 それでも、実際にみんなと仲良くしているのを見ると安心できるよね。ネフ村が賑やかになる未来が楽しみだ!
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