上 下
614 / 754

お引越し準備。の準備 2

しおりを挟む





 ミネルヴァ一家やマッシモ一家、イザックのネフ村移住の話が本決まりになったことで、この街にいる孤児たちの中からネフ村に連れて行く子供たちを早く決定しなくてはいけない。

 全員連れていけたらいいんだけどね? それにはネフ村の受け入れ態勢が整わないようだから、出来るだけ<組紐作り>や<農作業>をできそうな子たちを選ぶ必要があるんだ。

 これにはハクとライムの協力が不可欠で、大活躍だった。

 各孤児院で子供たちに接しては、

(右から×××〇××〇にゃ)
(そのうしろのコたちはミギから〇××〇×××だよ~。)

 と言った具合に、面接に同行しては、あまり素行のよろしくなさそうな子たちを弾いてくれるからだ。

 面接前に子供たちと一緒に遊ぶことで子供たちの適正を判断するし、この街の中に強い愛着がある子や村に馴染めなさそう子を見極めてくれるので、私は事情を話したあと子供たちの意思を確認するだけでOKなのだ。

 あとは移住を了承してくれた子供たちのリストを作成して子供たちの特徴を簡単に記入したら、お引越しの日程が決まるまでそのまま孤児院で待機してもらい、日程が決まったら、迎えを寄越すだけ。

 あとは、みんなのお引越し準備のお手伝いだ。

 ミネルヴァさんや子供たちに、今住んでいる家をどうしたいかと尋ねたら、

「村に移住をしたらもうここへ戻ってくることはないでしょう。ここはすでにアリスさんの持ち家なので、アリスさんの好きなようになさってください」

 と言われて売りに出すことにしたので、その手続きも必要かな。

 みんなの思い出が詰まった場所だから、良い人が買ってくれるといいな。











 お引越しの旅に必要な物を買いに、イザックとお買い物に出かけたら、

「なにやってんだよ、猫耳! 早くしろよ、置いて行くぞ!」

「だって、これ重くてっ……! ……ごめんなさい、すぐ行きます」

 見知らぬ複数の男性と一緒にいるビビアナを見かけた。

 以前は頭にカラフルな布を巻いていたんだけど、今は布がない状態で、とても可愛らしいもこもこの耳が見えている。別人かと疑い思わずしげしげと見つめてしまうと、わたし達が彼女を見ていることに気が付いた男性が何か用かと聞くので黙って首を横に振ったんだけど、

「知り合いよ! 男性の方はBランクで以前一緒に依頼を受けた仲なの。少しだけ話をしてもいいでしょ!?」

 ビビアナの方から駆け寄って来た。

 男性たちの方をチラチラと見ながらとても親し気に挨拶をしてくれるので、戸惑いながら挨拶を返すと、声を潜めて以前のことを軽く謝り、今の自分の現状を声を潜めたまま楽し気な笑顔で話し出した。

 街に着いた御者さんの依頼完了の詳細報告と強い抗議により、サルとビビアナは冒険者ギルドの規定に照らし合わせて1ランク降格となり、サルはDランクに、ビビアナはEランク落ちとなった。

 それまでの不満を爆発させて言い争いを繰り広げた二人は元通りの関係を続けることはできなかったようで、サルは単独ソロで活動。実力的にソロ活動が難しいビビアナはタイミングよくメンバー募集をしていたパーティーに加入したそうだ。

 でも、新しいパーティーメンバーは新規加入者に気を使うタイプではないようで、毎日こき使われてへとへとだと、獣人である自分への差別も感じていてとても辛いと、サルは獣人差別をしなかったので、こんなことならサルと一緒の方が良かったと後悔を口にした。………とても楽し気な笑顔で。

 内容と表情の違いに薄気味悪さを感じてしまい、思わず一歩下がった私を庇うように前に出てくれたイザックの手をビビアナは強引に握り、

「私のことを気にかけてくれてありがとう! またどこかで一緒に仕事をできたらいいわね!」

 先ほどまでとは打って変わった大きな声で言い捨てると、そのまま男性たちのもとに走って行った。

 呆然と彼女を見送っていると、頭の上から❝チッ!❞と鋭い舌打ちの音が聞こえたので視線を上げると、

「使われちまったな」

 イザックが不愉快そうにビビアナを睨んでいた。

 駆け戻ったビビアナを男性たちは先ほどとは打って変わって機嫌の良さそうな笑顔で迎え、

「猫耳、Bランクと知り合いだったんだな! なかなかヤルじゃねぇか」
「ビビアナの知り合いなら、俺らのパーティーが困ったら助けてくれるかもな」

 なんて言いながら彼女の腰を抱き、揺れる尻尾を逆さに撫でたり胸をまさぐりその先っぽを摘むように揉み上げたり……。

「あん♡ やぁだ、人前でぇ♡ くふふ、見直した? だったらもっと大事にしてよね♪」

 往来でそんな辱めを受けても満足そうなビビアナを見て、なんだか胸の奥が重くなった気がした私は彼女から目を逸らし、彼らとは反対の方向に歩を進めた。

「イザックさん! アリスちゃん! またね~!」

 背中に掛かるビビアナの声に反応を返すことなく唇を噛みしめる私に、

(アリスには関係のない世界なのにゃ! アリスには僕たちがいるのにゃ! だから、そんな泣きそうな顔をしなくてもいいのにゃ~……)
(アリスにあんなことさせないからだいじょうぶだよ~。 ハクとぼくがまもるから! ね? わらって?)

 私のかわいい従魔たちは、小さなふわふわの頭を首元にすりすりと摺り寄せたり、ぷにぷにの体を私の肩の上で跳ねさせながら慰めの言葉をくれる。

 さっきのビビアナの様子を見て、私が感じたことを今言葉にするのは難しい。

 でも、2匹のお陰で胸の奥にあった重苦しいものが少し軽くなった私は、その❝何か❞を考えないことにした。

 彼女には彼女の生き方がある。

 そして、私にも私の生き方がある。

 以前に彼女が言った「アリスさんは運が良い」という言葉。こうしてみると、確かに私は運が良い。

 蜂の巣のようになって一度死んだけど、こんなに素晴らしいハクとライムが側にいてくれて、恵まれた能力を授かって新しい生を楽しんでいる。

 これをズルいと思う人はいるだろう。羨む人もいるだろう。でも、私はそれを後ろめたく思ったりしない。素敵で可愛らしいビジューと仲良くなれた幸運に感謝をし、可愛らしくも頼りになるハクやライムが側にいてくれることに感謝をしながら生きていく。

 もしかすると、今の彼女の姿は自分の姿だったかも、なんて考える暇があったら、日頃の感謝の気持ちを込めておいしいものの一品でも作って、可愛い従魔たちの笑顔を見せてもらおう!

 そう考えて顔を上げると、

「同じ状況に陥っても、その後の生き方は人それぞれだ」

 優しい目をしたイザックが私の頭をガシガシと少しだけ乱暴に撫でまわす。それから、

「アリスにはまだ言っていなかったが、この間、偶然サルに会ったんだ。
 Dランクに落ちたとはいえ曲がりなりにもCランクだった男だからな。新しいメンバーとパーティー組むこともできただろうに、奴は今までのことを反省して、しばらくはソロでやってみてパーティーメンバーのありがたみを再確認することにするって言って、すっきりとした表情で笑いながら街を出て行ったぞ」

 同時に関わりを持った、もう一人の行方を教えてくれた。

 うん。本当に、生き方は人それぞれだね!

 私の生き方は、可愛い従魔たちと一緒に綺麗なモノや面白いものをいっぱい見て、おいしいものを食べて日々を楽しむこと! それをビジューが見て楽しんでくれたら、とっても嬉しい。

 最近忘れがちだったことを改めて認識し、心配をかけてしまったハクやライム、イザックに笑顔で感謝を伝える。

「お腹、減らない? あそこのベンチでおやつにしよっか?」

「んにゃん!」
「ぷきゅう!」
「おっ、いいな! ガッツリしたもんもあるか?」

 みんなが笑顔で同意してくれたので、近くのベンチに移動しながら何を出すかを考える。

 まだまだ引っ越しの準備がいっぱい残ってることだし、おやつを食べ終わったら、気合を入れて買い物に行かないとね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

処理中です...