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移住のお誘い 1
しおりを挟む突然の移住の誘いを受けたミネルヴァさんは口と目をぽっかりと開けたまま、しばらくの間機能を停止した。
ミネルヴァさんだけじゃなく一緒に話を聞いていたルシアンさんやマッシモも同じ状態だったけど、一番早く我に返ったマッシモは、
「❝一緒に❞ってことは、アリスさんは近々この街を離れてその村に引っ込んじまうってことなのか?」
ミネルヴァ家の引っ越しよりも、私の引っ越しの方に気を取られているようだ。
「あ、言い方に語弊があったね。私が村に行く……帰るのはもう少し先。とりあえず私の家が出来上がってからかな? ネフ村は私の大切な場所だから、ミネルヴァさんや子供たちに一緒に盛り立ててもらえたら嬉しいなって思って誘ってみたの」
ネフ村……というより、マルゴ家やルベン家の側での生活はとても安心感があり、まったりのんびりとした生活を送れそうなんだけど、今はまだ色々な所を見て回りたい。
ビジューにも色々な景色や人々の生活を見せてあげるって約束してるしね!
今の気持ちを(ビジューとの約束以外)素直に話すと、マッシモは、
「俺たちもその村に行っても良いか? と言っても、イザックや家の奴らが賛成してくれたらの話なんだが……」
少しだけ気恥しそうに移住話に乗ってきてくれた。条件も何も話していないのにね?
マッシモは冒険者として復帰したばかりだから、リハビリがてらにネフ村で狩り&開拓に精を出すのもいいかもしれない。でも、イザックや今マッシモと生活を共にしているみんなはどうだろう? Bランクのイザックには今のネフ村付近に出る魔物では物足りないだろうし、優しくてしっかり者のルイーザさんは今ではすっかり職場の看板カメリエーラになっているらしいし……。
私が考え込んでいるとマッシモが不安そうな表情になってしまったので、慌てて思っていることを説明すると、
「あ~…、以前に家で酒を飲んでいた時の話なんだがな? ルイーザやテオと話していたんだ。 もしも、もしもアリスさんが村や町を興したりしたら、その土地に俺たちも一緒に行きたいなって。最初は苦労するかも知れないが、働いたら働いただけ実りのある、きっと夢のような土地を作り上げるんだろうな、ってさ……」
鼻の横をポリポリと搔きながら、照れくさそうに話してくれた。
……なんだか随分と過大な評価と期待を受けているようだ。
でも、マルゴさんが村長の村だもん。マッシモの予想はきっと大きくは外れていない。これからマルゴさんの指揮のもと怒涛の発展をする予定のネフ村だから、まじめに働いたら働いた分だけ自分に還ってくるようになるだろう。
マッシモやマッシモの家族になったみんなの人柄は折り紙付きだから、私も自信を持ってマルゴさんに紹介できるしね。うん、決して悪い話じゃない……というより、なかなかにおいしい話だ♪
いつの間にか、正気に戻ったミネルヴァさんもマッシモと私の話を真剣な顔で聞いてくれているし、このまま移住の条件などの話をすることにした。ら、
「ネフ村は俺の生まれた村なんだ」
それまで黙って話を聞いていたルシアンさんが先に口を開いた。
確かに、ネフ村の紹介なら、村で生まれ育ったルシアンさんの方が適任だ。
私が口を閉じてルシアンさんの話を聞く姿勢を取ると、ルシアンさんはニコッと私に笑いかけ、
「ネフ村はどこにでもあるような、僻地の小さな村なんだ。つい最近まではクソみたいな村長一家の下、近くの森で狩った魔物素材と村で育てた野菜を売っての生活だったから、決して豊かでも暮らしやすい村でもなかったんだけどな。クソ村長の代わりに新しく村長になってくれた人がなかなかのやり手な上に人格者……って言うか、姉御肌の人でさ。今、村では新しい商品を主軸に……、ああ、これは元はアリスさんが教えてくれた商品なんだけどな。この商品を軌道に乗せて自分たちの生活を良くしていこうと、新村長一家を柱に村民たちが生き生きとし始めたんだ」
ネフ村の紹介を始めた。あまり良くない話も隠さず話しているけど、それでも明るいイメージが湧いてくる良い紹介だと思う。繁栄も衰退も、運とトップの力量次第だというのはどこの組織でも同じだしね。村長の紹介は十分に魅力的だと思うんだ。
新しい産業を興した姉御肌の村長さん。なかなか興味を引く存在じゃない?
ミネルヴァさんは、
「アリスさんが考えた商品を主軸に? それは、やっぱり組紐なのかしら」
なんだか変なところに引っかかっているみたいだけど。
ルシアンさんが富裕層受けしそうな❝飲み物❞だと教えると、
「アリスさんが考えた❝富裕層受けしそうな飲み物❞と❝組紐❞を村の特産にしたなら……。繁栄する未来しか俺には見えないな」
マッシモが嬉しそうに呟く。
そこにすかさずルシアンさんが、
「村長は王都の<冒険者ギルド>の元・解体部門責任者で、村長代理は村長の旦那で王都の冒険者ギルドのギルドマスターだった人だし、その息子は凄腕の魔道具士で、彼の作った物を買う為だけに村まで商隊が来るんだぜ。
あと……、これは口外を控えて欲しいんだが。
ネフ村の付近に<ダンジョン>が生まれる可能性が高いんだ」
村長一家のアピールをし、ついでにダンジョン発生の可能性まで示唆すると、
「なんだとっ!!」
「まあ! まあ、まあ、まあ!!」
ミネルヴァさんとマッシモの目がひと際強く輝いた。
やっとミネルヴァさんも乗り気になりだしたらしい。
だったら今度は私の番だね。
ルシアンさんが一通りの説明をしてくれたので、手短にネフ村の追加情報を紹介する。
「ネフ村を管轄していた領主も最近変わってね? 新しい領主は❝王弟❞のモレーノさまだよ。ちなみに、村に別邸を建てることを村長とお話し済みなんだ」
……王弟のお力も借りることにする。王弟の別邸がある村なんてそうそうあるものじゃないものね?
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