上 下
598 / 754

ある日のミネルヴァ家 2

しおりを挟む





 まるでお通夜のようなミネルヴァ家。

 途惑う私たちに、

「アリスちゃんたちも一緒に食べよ! わたしのをハクちゃんとライムちゃんにあげる!」

 小さい子からお声がかかるが、

「今日はアリスさんたちは一緒に食べないから、おまえは自分の分をきちんと全部食べろ。腹が減って寝れなくなるぞ」

 私の返事の前に、大きい子がお断りの返事をしてしまう。

 すると、嫌そうな顔でサラダをフォークでつついていた子が、

「アリスちゃん! 今日のおやつはなあに!?」

 ハッとしたような表情で嬉しそうに私に問いかけるが、

「今日はおやつはなしだ。そうだろ? アリスさん?」

 これにも、私よりも早く、ルシアンさんが返事をしてしまった。

 ……持って来てるんだけどね? 一口サイズのパンケーキ。手順は簡単だけど、焼くのがとっても忙しかった一品を。でも、ここは、

「うん、ごめんね? 今日はミネルヴァさんにお話があって来ただけだから、お土産は持って来ていないんだ」

 やっぱり空気を読んで、話を合わせるべきだよね?

 子供たちはとってもがっかりした表情で私を見て大きなため息を吐いた後、もそもそと食事を再開した。

 反対にルシアンさんやミネルヴァさん、マッシモが微笑みを浮かべて私を見ているので、私の対応は間違ってはいないようだ。

 とりあえずはこのままここにいるのも気まずいので、ミネルヴァさんに別室で待つと視線で伝えて食堂を出ることにした。











「大きい子たちが自主的に!?」

「ええ、そうなの。この件に関してはわたくしも気になっていたからすぐに取り入れたのだけど……」

 さっき見たミネルヴァ家の残念な食卓は、大きい子たちのリクエストだと聞いて私は驚いた。大きい子たち自身も辛そうに食べていた食事を、どうしてわざわざリクエストしたのか。

 それは、ご近所さんからいただいた❝お裾分け❞のおかずを、小さな子たちが一口食べて「おいしくない」「もういらない」と拒否したことから始まったらしい。

 少し前まで件のご近所さんが差し入れてくれる❝お裾分け❞は子供たちにとってはごちそうで、とても楽しみにしているものだった。

 でも最近のミネルヴァ家は食卓事情が改善されて、子供たちの舌が急激に肥えてしまったようだ。特に幼い子供たちが顕著だったらしい。

 ……私の差し入れるごはんやおやつが悪かったのかな。食材はミネルヴァさんの指示通り、普通(またはそれ以下)の品質のものを使っていたにも関わらず、調味料などはケチらずに使っていたからそのせいかもしれないな。

 そしてその状況をミネルヴァさん以上に憂いたのが、大きい子供たちだった。もしかしたら自分たちは下級貴族よりもずっと良い物を食べているかもしれない! と考えた彼らは、今後ミネルヴァ家から独立した際のことを考えて、自分たちの舌を❝再教育❞することにしたようだ。

 ……うん。さっきは小さい子たちのおねだりに負けず、おやつを出さないで正解だったよね。

 理由がわかって安心したので、後は私が今日ここに来た理由を伝えるだけ。

 前々から考えていた計画、

「引っ越し、ですか!?」

「うん。ここから少し離れている上に、領主も別の方の土地なんだけどね? もしも良かったら、一緒に来て貰いたいな」

 ミネルヴァ家の、ネフ村移住計画についての話をしようと思う♪
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

奴隷身分ゆえ騎士団に殺された俺は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で無双する 〜自分が受けた痛みは倍返しする〜

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 リクは『不死鳥騎士団』の雑用係だった。仕事ができて、真面目で、愛想もよく、町娘にも人気の好青年だ。しかし、その過去は奴隷あがりの身分であり、彼の人気が増すことを騎士団の多くはよく思わなかった。リクへのイジメは加速していき、ついには理不尽極まりない仕打ちのすえに、彼は唯一の相棒もろとも団員に惨殺されてしまう。  次に目が覚めた時、リクは別人に生まれ変わっていた。どうやら彼の相棒──虹色のフクロウは不死鳥のチカラをもった女神だったらしく、リクを同じ時代の別の器に魂を転生させたのだという。 「今度こそ幸せになってくださいね」  それでも復讐せずにいられない。リクは新しい人間──ヘンドリック浮雲として、自分をおとしいれ虐げてきた者たちに同じ痛みを味合わせるために辺境の土地で牙を研ぎはじめた。同時に、その過程で彼は復讐以外の多くの幸せをみつけていく。  これは新しい人生で幸せを見つけ、一方で騎士団を追い詰めていいく男の、報復と正義と成り上がりの物語──

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

処理中です...