565 / 754
ビジュー神を語ってみる 2
しおりを挟む「アリスさん! 俺は教会のビジュー神さまの像を見たことがないし、俺の中で優しくて美しい女神像を想像しながら彫っていると、どうしたってアリスさんにそっくりな女神像になっちまうんだ!」
女神像の話は付いた。後は【治癒士ギルド】の強引らしい勧誘をどうやって躱そうかと考えていると、ヴァレンテ君が冗談みたいなことを真剣な顔で訴えだした。
今、ヴァレンテ君が教会のビジュー神像を見学に行くのは危険だし、教会のビジュー神像と同じ顔で彫ってもらっても私が心を込めた祈りを捧げる気にはなれそうにない。
かと言って私の顔をしたビジュー神像なんて以ての外だし……。
(だったら、以前にアリスが描いたビジューさまの似顔絵を渡してやればいいのにゃ!)
とハクに言われて困惑する。
私は絵を描くことが嫌いではないし、どちらかというと得意な方だと自負していた。でも、ビジューの姿を忠実に描こうとすると、どうしても満足の行く出来にはならないんだ。
私の画力ではあの完璧な美貌を表現しきれなかった。
そのことを知っているくせに!と恨みがましく睨んでしまうと、
(ビジューさまはその絵の10倍お綺麗だと伝えればいいのにゃ。簡単な事にゃ♪)
ハクは得意気に胸を張って言い切った。……うん。悪くないかも!
モデルよりも美しい絵画や彫像なんて珍しい事ではない。どこまで美しい像にできるかはヴァレンテ君にお任せすればいいんだ♪
ハクのアドバイスに従って、私はインベントリから以前に描いていたビジューの姿絵を取り出してヴァレンテ君に手渡す。そしてハクから教わった魔法の呪文、
「ビジュー神はこの100倍は麗しい素敵な女神さまだから、よろしくね!」
を唱えた。これで丸投げが成功だ♪
「……この絵より100倍も綺麗な女神像なんて、無理に決まってるじゃんかっ!!」
なんて叫びが聞こえるけど、ヴァレンテ君頑張って! 君ならできるよ♪
これで後しばらく待てばビジューの麗しい姿がいつでも見られるようになる♪とご機嫌な私に、
「なあ、それどうするんだ? もしかして捨てるのか?」
ルシアンさんがのんびりとした声を掛けてきた。視線はハクとライムの玩具になっている私似の木像に向いている。
材料にトレント材を使用しているのでただ捨てるのは勿体ない。薪の代わりにするつもりだと答えると、
「そこまでアリスさんにそっくりな像を燃やしちまうのか? 何かの禍が降りかかったらどうするんだ?」
と眉を顰められた。
そう言われると、自分に似ている木像を燃やしたり処分するのは確かに気持ちのよいものではない。別に何かが起こると思っている訳ではないんだけどね? なんとなく、感覚の問題だ。
だからルシアンさんが、
「それ、俺にくれないか? マルゴおばさんにアリスさんに似た像を送ってやりたいんだ。アリスさんが急に旅立ってからすごく寂しがっていたから、きっと喜んでくれると思う」
と言われて譲ることにした。
そこまで思ってくれていると聞くとやっぱり嬉しいからね。ちょっと恥ずかしいけど、マルゴさんが喜んでくれる(かもしれない)のなら、多少の羞恥心には蓋ができる。
もしも私がマルゴさんを送り出す立場なら、私もマルゴさんに似ている像が欲しいと思うだろうしね。陰膳をお供えしちゃう自信がある。
マルゴさんの温かい笑顔を思い出している私の後ろで、
「お兄ちゃん、ビジューさまの絵をあたしにも見せて! うわぁ! こんなに綺麗な人、アリスちゃん以外に見たことない!」
「すげぇ……。本当にこんなに綺麗な女神さまが俺たちを見ていてくれているのか…? 俺、頑張るっ!! なんかいろいろと頑張るよ!」
子供たちがはしゃいだ声を上げていて、そのまた後ろの方でルシアンさんがこっそりと木像を子供たちに渡し、
「ほら。アリスさんに見つかるんじゃないぞ? あとアリスさんを女神さまと呼ぶのはおまえたちの間だけにしておけ。他の奴らに聞かれたら、優しい女神さまの加護を奪われちまうかもしれないぞ?」
「わかった! 家の外では絶対に言わない。これからはアリスさんとビジューさまにも感謝のお祈りをすればいいんだね? 私嬉しい! ルシアンさん、ありがとう!」
「俺の女神さまはやっぱりアリスさんだと思うけど、これからはビジューさまにもお礼を言うよ! アリスさんと俺たちを会わせてくれたんだもんな! 感謝しないとな」
なんて会話があったことは全然気が付かなかったし、
「ああ、ヴァレンテ。アリスさんには❝アリスさんに似た木像をマルゴおばさんに送る❞って言ってるから、早急にもう1体作ってくれな? もちろん金は俺が払うよ」
「だったら俺も金を払うからもう1体彫ってくれ。モレーノさまに送って差し上げたら喜ばれそうだ。ああ、トレント材はアリスの持ち込みだったな? それについては俺たちが木材として買い取っておくから心配するな」
なんて会話があったことも聞こえなかったんだよ。
聞こえていたら、止めたんだけどな!
ハクとライムが妙にいたずらっぽく笑って楽し気にしていたのには気が付いていたんだけど、理由までは聞かなかったんだよね……。
112
お気に入りに追加
7,544
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜
まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は
主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる