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信頼と心配が嬉しいから、寝る! つもりだったのに…… 6

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「何の変哲もないただの紙が、このように色々なものに生まれ変わるとは……。私は夢を見ているような気分です。まるで魔法だ」

 本物の魔法の国の住人が、ただの手遊てすさびで出来た品を<魔法>と言う。それだけ気に入ってくれたんだと思うと嬉しいけど、子供でもできることでここまで褒められるとなんだか面映ゆい。

 そんな気持ちをごまかすように、せっせと<鶴>を折り続けていると、

(<鶴>はおいしいのかにゃ?)
(オッポがこんなにながくてうえをむいてるなんて、<ツル>ってかわったトリさんだね~)

 ハクとライムが私の手元をじっと覗き込みながらそれぞれに感想を述べる。

「あ~…、あんまり似てない、かも? それと<鶴>は食べちゃいけない鳥なんだ」

 鶴の特徴である長い頸部や幅広い翼、先端がとがった長く細い嘴は確かに似てるんだけどね? それ以上に細く長くピンと立った尾羽に違和感を感じるし、特徴的な長い翼と後肢がないと他の鳥に見えなくもない。

 そう説明すると、

(じゃあ、どうしてツルなの? たべられないのはドクがあるから?)

 ライムが不思議そうに問いを重ねる。

 う~ん? 小さい頃から<折り鶴>として教わっていたからそういうものだと思っていたし、改めて考えたことはないんだけど……。でも、

「毒はないんだけどね。私の故郷では鶴は❝瑞鳥❞って言われていて吉祥と長寿の象徴だったから、おとぎ話の題材になるくらい国民からとても愛されていた鳥なんだ。だから食べないし、多少似ていなくても❝折り鶴❞のモデルは鶴なんだよ」

 少しだけ主観を交えた説明をしてみる。

 鶴を食べないのは❝鳥獣保護管理法❞で守られているからで、昔の日本では鶴は高級食材だったらしいし、❝鶴は千年、亀は万年❞と言われている寿命も自然界では20~30年、動物園で大切に飼育されていてもせいぜい80年ほどだ。鳥類の中ではご長寿だけどとても千年には及ばない。でも、こんなことは些末なことで、鶴が日本人に愛されていたことに変わりはない。

 だからハクとライムにはこんな説明で大丈夫だろうと思っていたら、

「毒はないのに誰も食べない鳥……。どうしてそこまでツルは愛されているのですか? 瑞鳥とされる所以ゆえんはあるのですか?」

 それまで黙っていたラファエルさんがつっこんできた……。大人なラファエルさんにはさっきの説明だけでは物足りなかったらしい。

「鶴が瑞鳥な理由……? ん~……。
 鶴の鳴き声は遠くまで届くから、その声は天上界……、ビジュー神の所まで届くって言われているの。番の仲が良いことから、夫婦円満の象徴だったりもするし……」

「なるほど!! ではこの<オリヅル>は❝吉祥と長寿、夫婦円満❞に加えて❝ビジュー神へ祈りが届く❞という優れものなのですね! これほどの品であることに加えてこんなに素晴らしい謂れまであるなら、どの国の王侯貴族であろうと喉から手が、いや教会こそが……。ふふ、ふふふっ……」

 でも、私の拙い説明でここまでラファエルさんの商人魂に火が……、炎が燃え盛るとは思ってなかったな。

 その上、

「たった1枚の紙でこれほどの物を作り上げるアリスさんだからビジュー神のご加護が厚い……、いや、ビジュー神のご加護が厚いからこそこれほどの物を作れる……?  
 そんなことはどちらでもいい! とにかく、アリスさんは素晴らしい人だ! 教会なぞに攫われないように全ギルドを挙げて全力で保護させていただかなくては!!」

 なんて訳の分からない暴走を始めるものだから、

「<折り鶴>は平和の象徴でもあるのよ! もちろん1羽でも良いけど、私の故郷に<千羽鶴>っていうのがあってね? たくさんの折り鶴を糸などで綴ったものを社寺……教会に奉納したり、幸福祈願や病気平癒祈願の為に折ったり災害に遭った人や地域へお見舞いとして贈ったりすることもあるの!」

 慌てて意識をこちらに向けさせる。……贈られた側が処分に困る問題もあった気がするけど、それはこの際目をつぶって、

「だからこの鶴は、私の故郷では子供からご年配の方までほとんどの人が折れるのよ!」

 私が特別なのではないことを強調して説明しておく。

「!! 一部に秘匿される技術ではなく、子供からお年寄りまでほとんどの人が、ですか……?」

 とても信じられない! という表情で私を見るラファエルさんを納得させる為に、

「<折り鶴>は簡単だから子供の手遊びとして覚えるの! ラファエルさんも折ってみる?」

 と誘ってみると、

「私にも教えていただけるのですか!? ほ、本当に秘匿技術ではないのですね!? ……でしたらレシピの登録もしていただるのでしょうか?」

 やっと、本来の商業ギルドの幹部としての意識が戻ったらしい。

 またレシピ登録の手間が増えたけど、今回は仕方がないよね? 

 ただ、私は一緒に折りながら説明することはできるけど、他人が見て解るような図解は描けない。その問題をどうやってクリアするのかだけど……。

 商売人魂に火が付いたラファエルさんの行動は素早かった。

 私の手を握りしめ、

「そのような問題なら何とでもします! だからこのままお気を変えることなく、しばらくの時間を私にください!」

 と叫ぶように言って部屋を飛び出して行き………。







 息を切らせながらも満面の笑顔の商業ギルドマスターネストレさん、少しだけ真偽を問うような目をしている工芸品部門の責任者さん、分厚い紙の束を手に緊張した面持ちの工作部門の設計図担当職員さんを連れてラファエルさんが戻ってきたのは、その日の夕方前だった。
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