上 下
544 / 754

信頼と心配が嬉しいから、寝る! つもりだったのに…… 2

しおりを挟む




 野営具用品の店主及び経営に携わっている幹部クラスの従業員は商業ギルド員資格の剥奪&2千万メレの罰金。

 これが、ギルド長ネストレさんから「君はどう思う?」と聞かれた職員さんが挙げた処分案。

 結構大きなペナルティで私はびっくりしたけど、ネストレさん(とハクとライム)は「妥当だな」と軽く頷いている。

<登録申請中のレシピ>に対する取扱いが元々繊細なものであることと、ギルドが試作品を製作しているレシピだと知っていながら申請者&ギルドに無断で店の商品として予約まで取ったことに対して、❝ギルドの顔に泥を塗ったことを後悔させてやる❞という商業ギルドからの強いメッセージが含まれているそうだ。いわゆる❝見せしめ❞を兼ねているらしい。

 なので、罰金2千万メレは私ではなくギルドに入ることになる。

 そして私のレシピを勝手に使って商売しようとしたことに対するペナルティは……。

 私が望むなら、お店を取り潰してその財産を全て没収。その半分を(もう半分はギルドが)手にすることが可能らしい。、だけど。

 もちろん、野営具用品店の店主はこの処分案に猛反発した。

 当然だよね? ほんのちょっとの❝出来心❞で商売に関する全てを失おうとしてるんだから。でも、

「ギルドはそちらの女性に肩入れしすぎているのではないか!? 私も彼女と同等のCランクギルド員であり長く高額な会費を納めてきているのだから、もっと公平な目で見てもらいたい!」

 なんて言ってしまったものだから、話がややこしく……、っていうか、彼に不利に転がってしまった。

 だって、私は彼に、自分が商業ギルドのCランク商人だと言っていないから。

(アリスの身辺調査をして、同ランクの新米商人だと知って舐めてかかったのにゃ。ベテランの自分なら、新米のアリスに損害を飲み込ませる自信があったんだにゃ~)

「ほう。アリスさまのランクを調べていたのか。
 それで、ギルドに長年貢献してきた君ならこんな舐めた真似をしでかしても大丈夫だと過信したのだな? だが、君は根本的なことを忘れてはいないかね? ギルド所属の一介の商人と多数の登録レシピ保有者では、どちらの方が重要視されるのだ?」

 彼の発言で、彼の行動が下調べをした上での❝計画的❞なものだったとわかってしまったら、それを目の前で告白された<ギルド長>のネストレさんが黙って目を瞑れるわけがない。

 即・店取り潰しの決定が下ろうとしたその時、

(ちょ~っと待つのにゃ! ……アリス! 早く通訳するのにゃ!)

 野営具用品店に救いの手を差し伸べたのは、私の頼れる保護者、ハクだった。












「えっと……、店を潰したら、予約を入れて納品を楽しみにしている高ランク冒険者が気の毒?だから、店はこのまま営業を続けさせて、テントの販売で得る純利益の8割!? …え、全部でも!? いやいや……。8割を私への賠償として支払いを続けさせた方がお得……、いえ、双方の利益につながるのでは?」

 ただいま、ハクの言うことをただ伝えるだけの簡単なお仕事の最中です。でも、

「あ~、ギルド員の資格を剥奪された店主の店が生き残れるとは思えないので、出来たら降格くらいがありがたい……。ギルドへの罰金を払ってすぐに計画閉店されると困るから、経営にギルドから監査員を派遣?(それは無理じゃないかな?) その上で、店が潰れてしまった時の為にギルドの口座へ店の余剰金や私財をプールさせておく? レシピの特許期間内に店が潰れたらそのお金を私に……!?(いや、それはちょっとどうなんだろう)」

 心の中は、ハクの要望をそのまま伝えることへの葛藤でいっぱいです。

 相手の弱みに付け込むワルイヒトになった気がするよね? いや、最初に悪かったのは向こうだってわかってはいるんだけど。

 ハクわたしの要望を聞いたネストレさんはなんだか面白そうに私を見ているし、店主さんは眉間にしわを寄せて私を見ている。この居心地の悪い雰囲気をどうしようかと考えている間に、

「わかりました。当方はその条件を吞ませていただきます……」

「では、資格剥奪の代わりにランクの降格で手を打ちましょう。ただし、罰金は値上げしますよ? ギルドにも面子がありますので」

 さっさと話はまとまってしまい、

(やったのにゃ♪)
(ハク、えらい!)

 満足そうに笑う従魔たちがいた。

 ……私はどんな反応をしたらいいんだろうね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
【書籍発売後はレンタルに移行します。詳しくは近況ボードにて】 「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...