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通訳、したくなかったかも><

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 グレープシードオイルの原料は文字通り葡萄の種子。では、オイルを絞れるほどの大量の種子をどこで手に入れる?

 手っ取り早いのは、ワインを作っている所からもらってくること。ワイン醸造の過程で出る種子は全て廃棄しているらしいので簡単に手に入るだろう。……最初の内は。

 でも、その種子から<オイル>ができることが広まれば、タダで譲ってもらうのは難しくなるだろう。資金に余裕のある商人たちに買い占められてしまう可能性が高いし、ワインを作っている貴族たちが自分たちでオイル作りに手を広げる可能性だってある。

 私としては孤児院の収入源にしたいと思っているので何かいい方法はないだろうか?

 という私の相談に、モレーノお父さまは、

「領内の貧困者を救うためだと大々的に宣伝をして、ワインを作っている貴族たちの協力を得れば良い。もちろん私や王家は協力させてもらうよ。王家が❝貧困層を救う為❞と銘打ったなら、利益に走る貴族や商人は多くはないだろう」

 簡単に答えを示してくれた。

 さらりと<王家>まで巻き込む発言は、国王おにいちゃんに溺愛されている弟として説得できる自信があるからかと思っていたら、すでに根回しはすんでいて言質が取れているからだと聞いて驚いた。

 この件について相談した記憶は確かにある。でもあれからの短時間ですでに王家に根回しを済ませているあたり、やっぱりモレーノお父さまは❝デキる男❞なんだと改めて感心した。王さまや宰相さんが❝王家に戻って来て欲しい❞と説得を重ねていた理由が良くわかる。そんなモレーノお父さまが、

「王家にアリスのレシピを買い取らせ、国策として広めさせよう」

 とまで言ってくれるのだから、私にとって心強いことこの上ない。

 でもそうすると、お父さまと王家を利用して私だけが得をするようでなんだか気分がすっきりとしない。だから、王家が協力してくれるのなら、レシピは献上したいと伝えると、

「私は娘から利益を取り上げるような不甲斐ない父にはなりたくない」

 と言われて困ってしまった。 黙っていると、以前に<スポーツドリンク>をモレーノお父さまの領内の公衆浴場で売り出す提案をした時に私の利益はいらないと言った時の話まで持ち出され、「私を娘を食い物にする非道な父と呼ばせたいのかい?」などという極端な脅し文句までいただいてしまった。

<グレープシードオイル>の製造方法だけを登録して販売すると、貴族や商人が利益を独占する可能性が高い。だから、王家の<国策>として広めてもらえるのはとってもありがたい話なのでなんとか形にしたい。でも、そこに私の利益を上乗せするのはどうしても心が納得してくれない……。

 困って言葉に詰まった私を見て雰囲気を和らげる為か、

「今日はいつもの着物ドレスドレスアーマーではないのだね? 柔らかい雰囲気でとっても似合っているよ。直接見られないのが残念だ」

 今日の服を褒めてくれる。と、そこでハクが、

(服にゃ! 服を強請るのにゃ! アクセサリーでも良いから、高いヤツを強請るのにゃ♪)

 助け舟(?)を出してくれた。とってもハクらしい提案に思わず苦笑いが浮かんでしまうと、

「ん? ハクかライムが何かを言っているのかな?」

 相変わらず勘の鋭いお父さまの質問が飛んできた。

 笑ってごまかそうとしたんだけど、

「にゃ~にゃにゃ! にゃにゃん♪」
「ぷっきゅん、ぷきゅぷきゅ!」

 見事なタイミングでハクとライムが返事をしてしまう。

 お父さまには何を言っているのかはわからないだろけど、タイミングと声の調子でお父さまに返事をしているのは十分に伝わったようで、

「アリス? 彼らが何を言っているのか、教えてくれるね?」

 笑顔に圧を込めたお父さまに、従魔たちの通訳係に任命されてしまった……。











「ハクとライムは本当に優秀な従魔だね。アリスの権利を守るだけでなく私の心情まで慮ってくれる。君たちがアリスの側にいてくれて、本当に心強いよ」

 ハク(とライムも追従した)の提案を聞いて、モレーノお父さまは上機嫌で笑っている。

「父として娘に衣装を作ってやれる日が来ようとは、夢にも思わなかった。
 王家にレシピを献上してもらう代わりに、私の用意した服を着て王都を一緒に散歩して、その際にアリスの欲しがった物は全て私が買って良いんだね?」

「にゃ~ん♪」
「ぷきゅ~ん♪」

「ハクやライムが食べたがるものや欲しがるものを買うのも私の権利だと? 最高の案だ! 
 早速、王都の腕の良いデザイナーやグルメスポットを調べなくては!」

 と、私の意見はほとんど聞き入れることなく、話がまとまってしまった。

 ……モレーノお父さまと街でデートできるのは嬉しいから大歓迎だし、私が何も欲しがらなければ問題はないかな? ハクとライムが欲しがるのはおいしい食べ物だけだろうし、きっと大丈夫だろう。

 と、判断した私が後悔するのはまた後日のお話。

 想像力が足りていなかった私は、保護者たちの案に笑顔で納得してしまっていた。











 モレーノお父さまにマルゴさんからの手紙が届いていたことを聞いて、私の計画に少しだけ変更ができた。

 お父さまに相談したら、そういうことなら、今回は大きな問題にはならないだろう」と言ってもらえたので、安心して実行することにする。

 さて、どういう風に話を進めたら、角が立たずにすむかなぁ? ちょっと考えてみよう♪
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