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周りを見れば……、怖がる必要はないよね?

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「そのままで何も問題はないよ。アリスの思うがままにやってごらん」

 これから私がやろうとしていることがどこかで問題にならないか。後見人を買って出てくれたモレーノお父さまとオスカーさんの迷惑になることはないかと尋ねた私に、モレーノお父さまはとても楽しそうに太鼓判を押してくれた。

 その上で、私の手が回らない所への根回しなどの協力を申し出てくれたんだけど……。 これから王都の裁判所へ移動する上に公爵としての領地経営まで増えて何かと忙しいだろうお父さまに、あまり無理をして欲しくない。

 本当はお父さまに助けてもらえるととても助かるんだけどね。残念に思う気持ちに蓋をして、それとなく遠慮する旨を伝えようとすると、

「可愛い娘に甘えられる父の気分を味わわせてはくれないのかい? 君に『お父さま、お願い』とおねだりされる日を心待ちにしていたのだけどね?
 それに、この計画は私の領地を富ませてくれる。なら領主である私が協力するのは当然じゃないか」

 期待に満ちた声で、遠慮の芽を摘まれてしまう。

 ……こんな風に言われると甘えてしまいたくなっても仕方がないよね? 面映ゆい気分を味わいながら、水晶に向かって頭を下げた。

「お父さま、お願いします! 利益が出るように頑張るので力を貸してください!」

「…………ちがう」

「えっ……?」

「もっと柔らかく、簡潔に」

 なのに、私の願いはあっさりと却下されてしまう。その上、

(アリス、❝お願い❞じゃなくて❝おねだり❞なのにゃ…)

(ぼくしってる! おねだりはにこってわらうの~)

(可愛らしく『おとうさま~』って甘えるのにゃ! 笑顔はただなのにゃ!)

 従魔たちのダメ出しまで受けてしまい、少し混乱するけど、

「えっと………。『おとうさま~、お願い!(にこっ!)』」

 みんなに言われるままに、柔らかく、簡潔に、笑顔で!やり直してみる。

 あーっ、ダメだ! 顔が熱い! 自分が思っていた以上に甘ったるい声が出たっ……!

 なんだか訳のわからないダメージを負ってしまった私を見てハクとライムは楽しそうに笑っているけど、肝心のお父さまはどうだろう?

 恐る恐る水晶に視線を向けて耳を澄ませていると、

「うん、いいね」

 お父さまの満足そうな呟きが聞こえ、

「父という生き物は、可愛い娘に可愛らしく甘えられるとこんなにも気力が充実するものなのだね。任せておきなさい」

 続いて了承の返事が届く。

 ……喜んでもらえたようで、嬉しいよ。うん。私、頑張ったよね!

 俯いたまま謎の達成感を味わっていると、ドアをノックされる。……もう制限時間が来てしまったらしい。

 残念だけど、今日はちょっとだけほっとした。 もう何を話していいかわからなくなっちゃってるからね!

 慌ただしく❝またね❞の挨拶を交わして部屋を飛び出した。部屋にはとても楽しそうな笑い声が響いてるけど、今は聞こえないフリ!  

 ❝甘えておねだり❞するのってこんなに照れくさいものなんだと、改めて学んだ私です……。












 冒険者ギルドのドアを開けると同時にいくつもの視線が突き刺さってくる。と同時に、ギルド内に喧騒が広がる。

 いつもならこの時間は閑散としているはずなのにおかしいな?と思っている間に冒険者たちに囲まれ「待っていたぞ!」「早く早く!!」と急かされて困惑していると、

「やかましい! おまえらがたかっているとアリスが動けないだろう!? さっさと前を開けな!」

 鋭い鞭の音と共にサブマスの怒鳴り声が飛んでくる。と、同時に人垣が割れて視界が開けるんだから、サブマスって凄いよね?

 割れた隙間からシルヴァーノさんがやって来て事情を説明してくれる。

 なんと! 今ここにいる冒険者たちのほとんどが、私の納品する携帯食と薬品を買う為に集まっているらしい。 急なことなのに、よくこんなにも集まっているなぁ。と嬉しく思いながら感心していると、

「おはよう、アリス! 小瓶が届いたわよ! 持って行く?」

 ディアーナが台車に乗せた箱を運んできた。時間の関係上、今回の薬品は鍋のままで納品することになるけど、小瓶はいくつあっても全然足りない。もちろん持って行くと答え、小瓶の追加発注をお願いする。

 すると、ギルドでも(別の工房に)小瓶の発注をしていることを聞いて思わず笑ってしまう。

 そうだよね。私が大鍋のまま納品しちゃったら、どうやって冒険者たちに販売するの?って話になるもん。そんなことにすら気が回らなくなっていたことに、最近の自分の余裕のなさに気づいて笑ってしまったのだ。

 これまでもディアーナやらラファエルさん達に甘えてきたつもりだったけど、それでもまだまだ私の手には余ることがいっぱいある。もう少しだけ、周りの人に甘えても良いかもしれない。

 そんな風に思えるのは、きっとモレーノお父さまとゆっくりお話できたお陰だろう。 改めて、モレーノお父さまに感謝した。







 昨夜用意した大量の携帯食とポーションなどを納品すると、会計の担当職員さんが手早く量の確認をすませて精算をしてくれる。 ディアーナの宣言通り、昨日の内に商業ギルドと協力して価格が決められていたため計算も手早く済んで、大助かりだ。

 ……携帯食、私が思っていた以上の高値になっていたことにはすごく驚いたけどね? 

 精算が済むなり手の空いている職員たちがわっと集まってきてそれぞれを小分けにし始め、小分けになったものを冒険者たちが先を争うようにして買っていく。 その傍らでディアーナとシルヴァーノさんが商品の詳しい説明をしてくれているので、私がここに残る必要はない。

 みなさんの邪魔にならないように、そっと心の中で感謝を告げて冒険者ギルドを後にした。 











 モレーノお父さまとお話して肩の力が抜けたせいか、ふと<教会>に寄ってみようと思い立った。

 教会で祈りを捧げることで、ビジューに会えるかもしれないことは覚えていたけど、どうしても<教会>に行く気になれなかったんだ。治癒士として抱え込まれるのももちろん嫌だけど、まかり間違って<聖女>認定なんかされたら……、と思うと怖くて協会に近づく気にはなれなかった。

 でも、<治癒士ギルド>がどんな所かは詳しく知らないけど、<冒険者>としても<商人>としても活動を始めた私を<治癒士ギルド>が無理矢理私を取り込むとは考え難いし(両ギルドが面子に掛けてクレームを入れてくれるはず!)、【隠蔽】スキルで隠しているステータスが盗み見られる可能性は限りなく低い。

 万が一、何かの拍子に私のステータスがバレてしまっても、教会に取り込まれる前にモレーノお父さまが助けてくれるだろうし、モレーノお父さまの為ならと王様も力になってくれるハズ!

 怪しい雰囲気を感じたら、即座に逃げ出す自信もあるしね!

 これだけの条件が揃ってる今、ビジューに会いたい気持ちを抑える必要はないってやっと気がついたんだ。

 心の余裕って、本当に大切だよね~!
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