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頼もしいご近所さん 2
しおりを挟む確かに色々な所でトレント材の噂は聞いているし、❝見習い❞さんにいきなりの高級素材は厳しいものがあるのかもしれない。だったら、失敗しても大丈夫なように多めに渡しておいたらいいよね。幸いトレント材のストックはまだまだあるし。
インベントリから木材とトレント材を追加で取り出して、失敗しても大丈夫だとアピールすると、今度は手を動かしながらも話を聞いていた子供たちの中から、年長さんの少女が声を上げた。
「アリスおねえちゃん、そんなに高いものを私たちの家に置いておくことに不安は感じないの? こっそりと売ってお金に換えることだってできるんだよ?」
首を横に大きく振りながら小さい子供に言い聞かせるように言われてしまったけど、私にもちゃんと言い分はある。
「この素材をそのまま売却するよりも、私の求めるものをきちんと作り上げたほうがお金になるよ? それに、それは悪い事だってわかっているんだよね? 悪い事だとわかっていて小さい子供がそんなことをしようとしたら、あなたは見逃すの?」
私だって、むやみやたらに人を信じる訳じゃない。 彼らの親であるミネルヴァさんや、お兄さんお姉さんの立場であるヴァレンテくんや年長の彼女たちを見て判断しただけだ。
私の意地の悪い質問に、彼女は真剣な顔で、
「そんなことはさせない! そんなことをする前に、みんなでもっともっといっぱい働く!」
❝悪い事で楽にお金を手に入れる❞ことよりも、しんどくてもまっとうに働いてお金を手に入れることを宣言してくれた。
もっともっと困窮したら、そんなことを言っていられなくなるかもしれないけど、今はまだ大丈夫だし、そんなに困窮した状況になるまで私も放っておく気もないしね。うん、だから大丈夫!
にっこりと微笑みながら「だったら何の問題もないよね」と木材を追加で取り出すと、
「ありがとう、アリスさん! 俺、頑張るよ! みんな! 俺は親方から道具を借りてこなくてはいけないから、ここを離れてもいいか?」
ヴァレンテくんが嬉しそうにトレント材を抱えながら子供たちに声をかけ、
「もちろん!」
の返事を聞くと同時に、衛兵さんに謝りながら駆け出した。
そのトレント材は持って走るのには邪魔じゃないかな? 置いていけば私が孤児院まで運ぶよ。と声を掛けようと思ったけど、あっという間に離れて行く背中に声を掛けそびれてしまい、仕方がないから残っている木材をインベントリに放り込む。
嬉しそうに掃除を続ける子供たちと、それを楽しそうに見守る衛兵さんたちを眺めていると、どうやら隊長さんらしき人が詰め所から出て来て、
「話は聞いた。その非番の衛兵とやらに心当たりがあるので、わたしの方できっちりと教育しておく」
と、とてもいい笑顔で宣言してくれた。
私もとびきりの笑顔を浮かべて「よろしく」とお願いしたのは言うまでもないよね?
あの時の衛兵さん。人は良いんだから、あとは判断力などをきっちりと仕込んでもらって、立派な頼りになる衛兵さんになって欲しいな!
詰め所の清掃にはまだ4~5歳くらいの子供たちも参加していて、真剣に拭き掃除をしている年長の子供たちの目の届かない所であっちへトコトコこっちへチョコチョコと雑巾を持って自由に移動するのを見てハラハラしていたんだけど、そんな時は衛兵さんたちが笑いながら子供を抱き上げて、年長さん達の側に連れ戻してくれていた。
門番の衛兵さんだけでなく敷地のあちこちに衛兵さんが立っているのはその為だと気がついて、隊長さんの細やかな気配りに感心していると、
「わたし達の目の前で子供に危害を加えるほどヤツらも愚かではないだろう。 子供たちが戻る時には、巡回に出る者がついでに送っていくことになっている」
安心させるような頼もしい声音で隊長さんが話しかけてくれた。
隊長さんも詰め所にいる衛兵さんたちも、皆さんが子供たちを気にかけてくれているのが言葉以上に伝わってきて安心したんだけど……、❝ヤツら❞って何?
どういうことかと問いかけると隊長さんは少しだけ驚いたようで、怪訝そうに、少しだけ警戒の視線を交えながら私と子供たちの関係を聞かれたので、ありのままを素直に答えた。
孤児院出身の友人からの預かり物を届けに行ったのが昨日の事で子供たちと会うのは今日で2回目だと説明すると、話を聞いていた衛兵さんが驚いたように「もっと親しい間柄だと思っていた!」と声を上げ、隊長さんの視線に促されてどうしてそう思っていたのかを話し始める。
私を見た時の子供たちの反応やヴァレンテくんとのやり取り、私の子供たちを見る時の視線の柔らかさを見ての判断だと聞いて、隊長さんは少し安心したように視線を和らげてくれたけど、どうして今日ここに来たのかと目的を問われた。
……もしかして、❝ヤツら❞と何かつながりがあると疑われているのかな?
❝ヤツら❞のことが私も気になったので、それを聞かせてもらう為にも素直に事情を説明する。
昨日孤児院にお邪魔したときに、立ち退きの話が出ていることをミネルヴァさんに聞いたこと。
友人の実家が大変だと聞いてはどうしても気になってしまうので様子を見に孤児院へ行ったが、ミネルヴァさんが不在だったので、彼女が戻ってくるまでの間に孤児院の周りの環境を確認がてらお散歩をしていたこと。
その途中でここの清掃をしている子供たちを見かけて声を掛けたことを説明して、ついでに<商人>と<冒険者>の登録プレートを見せて自己紹介すると、隊長さんは私のランクに驚きながらも「この年齢でこのランクということは……、少なくてもランクアップ登録した支部のギルマスたちの保証付きと言うことだな…」と安心してくれて、❝ヤツら❞のことを話してくれた。
❝ヤツら❞とは、ミネルヴァさんの甥に雇われて孤児院に立ち退きを要求しているチンピラたちのことだった。
甥はかなり資金繰りに困っているようで、1日でも早く孤児院を明け渡してもらうためにチンピラたちに嫌がらせをさせているようだ。
と言っても衛兵の詰め所が近い上に、隊長さんを始め衛兵さんたちが孤児院の子供たちを見守ってくれているので大したことはできていないようだけど。
だけど衛兵さんたちも孤児院だけを気にかけている訳にも行かないので、その隙を狙ってこまごまとした嫌がらせをしてくるらしい。 幼い子供たちにとってはガラの悪い男たちが家の前をうろうろするだけでも十分な嫌がらせになるしね。
話を聞いて、孤児院でお留守番をしている子供たちが心配になってきた。街を巡回している衛兵さんが頻繁に様子を見てくれてはいるそうだけど……、うん。やっぱり気になる!
ここにいる子供たちのことは隊長さんたちにお任せして、私は急いで孤児院へと戻った。
案の定、孤児院の入り口にはガラの悪い男たちが屯していて、中に入ろうとする私の邪魔をする。
面倒だったので、
「遅いですよう、衛兵さ~ん!」
と来た方角に向かって手を振って、チンピラたちの視線がそっちに向かった隙にさっさと中に入ってしまう。
……使い古された古典的な手法だったんだけど、思った以上に効果があってなんだか嬉しいね!
中に入って気丈に留守番をしていた子供たちをねぎらうと、ほっとした顔で笑ってくれたので、急いで戻って来た甲斐はあった。
事情を聞くと、あの男たちが怖くて畑の世話ができないとのこと。
だったら話は簡単だ。
ミネルヴァさんの帰りを表で待つことを了承してもらい、門の前まで引き返す。
敷地の内側で門を塞ぐ形でテーブルセットとティーセットを取り出して、ハクに防塵結界だけ張って貰ったら準備は完了だ。
私が優雅にティータイムを楽しんでいるのを見て呆気に取られているチンピラを眺めながら、後ろ手で子供たちに手を振ると、おずおずと出てきた子供たちが畑の世話をし始める。
途端に大声で子供たちを恫喝し始めるチンピラたちの言葉にかぶせるように、
「今日のお茶もおいしいね~! おやつは何がいい?」
「うにゃ~ん♪(アイスクリームにゃ♪)」
「ぷっきゅう♪(ありすのこおりがいい♪)」
日常を演出するだけ。 私たちは敷地内でティータイムを楽しんでいるだけなんだから、門の前のチンピラには手出しできないしね。
もしも彼らが敷地内に入って来て、
「なんだ、こいつ!? さっきからオレらをバカにしてんのか!」
「ふんっ、可愛い顔してるじゃねぇか! その顔に免じて詫びを入れさせてやるよ!」
と手出しをして来たら?
それはもちろん。
「シャーッ!!」
「プキューッ!」
私の可愛い従魔たちによる、正当防衛が待っているだけです♪
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