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再会 1
しおりを挟む「………さん?」
孤児院の窮状を聞いて、「お使いは済んだからこれで良し!」なんて言えなくなった。
フランカの大切な院長さんや子供たちの為に何か力になりたい。自分に何ができるのかと考え込んでいたから、
「……さん!」
自分を呼ぶ声がしていることには気がつかなくて、
「アリスさん!! だよな!?」
後ろから追い抜きざまに振り返って声を掛けてきた男性の姿を見て、本当に驚いてしまった。
「ルシアンさんっ!?」
「ああ、やっぱりアリスさんだったな! 元気そうだ!」
だって、ネフ村でリハビリ中だと思っていたルシアンさんが、元気いっぱいの笑顔で立っていたから!
「ハクとライムも元気そうだな~! いっぱいメシ食ってるか? 相変わらず可愛いな!!」
「にゃん!」
「ぷきゅっ!」
「……やっぱりスレイプニルだよな。……アリスさんらしい…のか?」
「……ブルッ」
「あ~、初めまして。ルシアンだ。アリスさんには世話になっている」
「ブルッ、ブルルッ」
こんな所で再会するとは思ってもいなかったのでびっくりして反応が遅れている間に、ルシアンさんはハクやライムと再会を喜び、初対面のスレイと挨拶を交わしていた。
相変わらず順応力が高い。
「スレイっていうの。番にニールっていう雄がいるんだけど、今はお出かけ中なんだ。
マルゴさんやルベンさんは元気!? ルシィさんやオスカーさんは!? 時間があるなら一緒に晩ごはんを食べようよ! 私の作ったごはんで良かったら、だけど」
思わぬ再会が嬉しくて声が弾んでしまう。マルゴさん達の話が聞きたくて晩ごはんに誘ってみると、
「アリスさんの作るメシ!? すっげぇ食いたい!! ……アリスさんが旅立った後も、父さんたちに作りたての美味さを自慢されてて悔しかったんだ」
二つ返事で了承してくれた。 あの頃よりも、すこ~しだけ、おいしいものが作れるつもりだよ♪
ルシアンさんはこの街に来るまでの馬車で一緒だったパーティーに仮加入中らしく、彼らに一言断りを入れてから私の泊っている宿に来てくれることになった。
宿へと向かいながら、今夜のごはんはどれにするかと考えていると、
(主さま、わたくし夜は従魔部屋に入れていただきとうございますわ)
スレイが甘えるように言った。 ……ニールがいない厩舎で独り眠るのは、やっぱり寂しいよね。
でも、従魔部屋で独りでいるのも寂しいだろうと思い、部屋で一緒に泊まれるように交渉しようかと提案したけど、スレイは宿の備品を壊す心配があるから従魔部屋の方が良いと言う。ハクとライムも従魔部屋の居心地の良さを保証してくれたので(ハウス内では時間の経過をあまり感じないらしい)、スレイは私たちと一緒に行動できない時間は従魔部屋で過ごすことになった。
問題はどこで従魔部屋に入ってもらうかなんだけど……。私のインベントリ内に生物が入れる従魔部屋があることは当然内緒の話だ。うかつに出入りしている所を見られたら大騒ぎになってしまう。
スレイの提案で❝街の外に散歩に出た❞ように装うことになったので、私たちは急いで門の方へ向かった。街を出て人目につかない所でスレイをハウスに入れたら、私たちは徒歩で戻ってこないといけないので大忙しだ。
ルシアンさんより先に宿に戻っておかないといけないからね!
「えっ!? マルゴさん達にバレちゃったの!?」
「ああ。マエルの腰巾着たちが怒鳴り込んで来たからな。あ~、やっぱりアリスさんの料理は美味いな! って言うか、ここまで美味いものだったのか!
…あのジジイ、アリスさんのカモミールティー製造販売計画を横取りしようとしやがった」
「いや、あれはマルゴさんの計画だよ? カモミールティー普及計画」
「ん? そうだったか? これも凄く美味い!」
ルシアンさんは私の泊っている宿が街で一番の宿なことに驚きを隠さず、「やっぱりお姫さまだったか…」と訳のわからない独り言をつぶやいていたけど、お風呂のある宿に泊まるという目標を早々に達成したことを一緒に喜んでくれた。
落ち着いたルシアンさんから聞いて嬉しかったことは、マルゴさんを始めとする、私がお世話になったみなさんがとても元気だということ。ルシィさんとオースティンさんがなんだかいい感じだということ。
驚いたことは、私がマルゴさん達の代わりにカモミールティーの<情報>や<レシピ>を<仮登録>していたことが、マルゴさん達にバレてしまっていたこと。
マルゴさんやルベンさん達がジャスパーの商業ギルドに登録に行ってくれていたなら、サンダリオギルマスの権限で仮登録をしていた事実を抹消できたんだけど、どうやって嗅ぎつけたのか(狭い村での話だから仕方がないんだろうけど)、狸村長が計画を自分のものとしてギルドへ登録に行ってしまったのだ。
と言ってもその内容が❝カモミールを栽培してお茶にして売る❞だけのずさんにも程があるものだったので、窓口の担当者が「その件はすでに登録申請を受理している」とあっさり撃退してくれたんだけどね。
強欲なマエルの腰巾着たちがマルゴさんやルベンさんに「村の財産になるべきものを私物化するなんて!」と恥知らずにも怒鳴り込んだりしたものだから、詳細を聞きにジャスパーの商業ギルドに向かったマルゴさんとオスカーさんに全てがバレてしまったのだ。
「……気を悪くしてない?」
私が先に仮登録したことで、100%マルゴさんやルベンさんの一家が手にするはずだった利益が減ってしまうことになった。……そういう方法でしか権利を守れなかったんだけど、そのせいで利益の一部を横取りする形になってしまったことは事実だ。
あの狸ジジイが余計なことをしなければ……! 腹立たしさを紛らわす為に、頭の中でマエルを逆さづりにして髪の毛を毟っていると、
「するわけないだろ? みんなアリスさんの機転に感謝してる。 ああ、あの話は村を挙げての計画になってて、アリスさんの取り分は今のところ利益の30%になってる。 一応仮登録は完了してるけど、50%までの変更はすぐにできるから遠慮なく言ってくれ」
ルシアンさんがとんでもないことを言い出した。 利益の30%が私のもの!?
意味が分からない!とルシアンさんを問い詰めると、ルシアンさんはあっさりと、
「アリスさんがいなければこの話は持ち上がらなかったし、アリスさんが仮登録をしてこの権利を守ってくれていなければ、利益は全てマエルのものになっていただろ? 元々アリスさんの取り分は利益の70%を考えていたんだ」
もっととんでもないことを言い出した。
何にもしていない私にどうして利益が出る話になってるの? それも70%っておかしいにも程があるでしょう!?
私の動揺をよそに、ルシアンさんはご機嫌のハクとライムに勧められるままごはんを楽しんでいる。
詳しく聞いてみると、マルゴさんとオスカーさんの担当をしてくれたサンダリオギルマスが2人に仮登録の経緯を詳しく話してくれたおかげで、私の取り分は30%で落ち着いたらしい。それでも最初の計画よりも取り分が増えているんだけどね? そのことについては、今度改めてサンダリオギルマスに相談してみよう。
それよりも聞きたいことがまだまだいっぱいあるんだ。
ルシアンさんがこの街で冒険者になっている理由とか、ね?
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