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街歩き6日目&7日目
しおりを挟む結論。
イザックはあっさりと私たちのお願いを聞き入れて、ニールを同行することを受け入れてくれた。って言うか喜んでくれた。
実はイザックに同行させるにあたり、ニールから条件が出されていたんだ。それは、
❝鞍などを一切付けないで乗ること❞
スレイプニルであるニールの矜持として、人に手綱を付けられるのは屈辱以外の何物でなく、許容できないと言われたのだ。
今発注している鞍などの馬具を受け入れたのは、主である私が望み、主の私が自分たちの為に心を砕いて用意するのが嬉しかったから。あくまでも例外なのだと。
イザックにはすでに馴染んだ相棒がいる(騎乗するのに必要な馬具は用意済み)ので、わざわざ鞍も手綱もない裸の状態のスレイプニルに乗って行く必要はないんだけど、
「スレイプニルの足なら俺の馬よりも数倍早く戻ってこられるからな。冒険者に復帰したばかりのマッシモのことも気になるし、俺にとっても悪い話じゃないさ」
と言って笑ってくれる。
ニールの食事に関しても、栄養を十分に蓄えている今なら10日ほど絶食しても大丈夫なことと、好物が野菜や果物なだけで私の従魔になるまでは狩った魔物の肉も食べていたとハクから聞いたことをそのまま伝えると、
「だったら俺が持てない分の食料は現地調達で賄えるな」
食事はニールの分も用意してくれると約束してくれた。その上、
「ハクはアリスや仲間のことを考えられて偉いな~!」
ハクの頭を優しくなでなでしてくれた後、
「で? 生栗はどれくらい買って来ればいいんだ? 俺のアイテムボックスに入らない量になるとニールにも運んでもらいたいんだが、その交渉はハクがしてくれるんだろ?」
私ではなくハクに買い物の確認を始める。
………イザック。ジャスパーで寝食を共にした時間は伊達じゃないね。
ハク~? 日頃の行いって、結構大事なんだよ?
自分の留守の間はお馬さんを冒険者ギルドに預けることにする。その後ここに戻って来るのは面倒なので、今夜はギルドの宿に泊まると言ってイザックは宿を出て行った。
お馬さんを預ける為の費用は当然私が支払おうと思っていたんだけど、旅程を短縮できる分費用も浮くから、と受け取りを拒否された。
……一応私も、そんな訳にはいかないと言ったんだけどね? 「年もランクも上の男に恥をかかせるなよ?」と笑われてしまってはそれ以上は何も言えなくて、イザックの男気に甘えることにした。でも、もちろん甘えっぱなしにはしないつもり!
ハクとライム、ディアーナと一緒にゆっくりとお風呂タイムを楽しんでから、気合を入れ直す。
タイムリミットは朝まで。 頑張るぞーっ!!
早朝、まだ暗いうちに戻ってきたイザックは扉の前でノックをするのを躊躇していたようだけど、気配に敏感なハクが気付いて迎えに行ってくれ、その間にライムが私とディアーナを起こしてくれた。
イザックは「こんな時間にすまん。門が開いたらすぐに出たくてな」と謝ってくれたけど、昨夜ディアーナから、❝普通の旅人は日の出とともに行動する❞と聞いていたので、何の問題もない。
一緒に朝ごはんを食べた後、あらかじめイザックが用意していたお買い物リストを見ながら必要な物をインベントリから取り出す。
お水にアルファ化米、野菜たっぷり乾燥スープの素に角煮にしてから作ったオークの干し肉などの携帯食とドライフルーツやクッキーなどの日持ちするおやつ。それと1~2日分のお弁当とニールのごはんを持てるだけ。
お弁当は日持ちのことを考えて、焼きおむすびと薄く焼いてくるくる巻いた正統派の卵焼き、そしてハーピーのから揚げといった定番の品を葉蘭で包んだものとお野菜たっぷりスープを小さな鍋に入れてそのまま渡す。
表面の水分を飛ばしてパラリと出来上がった焼き飯はイザックの持っている鍋に移して、今日のお昼に食べてもらう用のサンドイッチはイザックの好きなハンバーグを挟んだものにした。後は肉串やボアと玉ねぎのスタミナ炒めなどのおかずになりそうなものを腐らない内に食べきれる量だけ。
それから今回の本命!…の前に、
「ああ、そうだ。新作があるんだけど、試食してくれない?」
もしもイザックの好みに合わなかったら荷物になるだけなので、先に味見をしてもらわないとね。
インベントリから小さな器を取り出してイザックとディアーナに手渡すと、
「麺料理か? へぇ! 美味いじゃねぇか! スープパスタとは違うんだな」
「うん、美味しいわ! 麺料理までレパートリーにあるなんて凄いわね! ……でも、もう少しだけ、食べたかったかな?」
「そうだよ! 味見とはいえなんでこんなに少量なんだ? もっと食いたいぞ!」
2人の反応は上々で、空になった器を残念そうに眺めている。 ……ふふふっ♪
「そう? じゃあ、おかわりはイザックが作ったらいいよ」
お湯の入ったお鍋と麺を取り出して渡すと、イザックは残念そうに、
「作り方を教えてくれるのか? 嬉しいけど朝日が昇るまでもう時間がねえよ……。戻ってきたら食わせてくれ」
私の方に返そうとする。 ……ダメ。顔が緩みそう!
「時間はかからないよ。すぐにできるからそのまま麺を鍋の中に入れてみて」
平静を装いながらイザックを促すと、イザックもピンと来たようで、
「まさか……。まさかな!?」
期待に満ちた視線で鍋に入れた麺を見つめる。 本当は蓋をした方が早いんだけどね?
ワクワクしているのを隠さないイザックに釣られたディアーナも鍋を覗き込んでいる。
2人の目の前で透明だったお湯が薄茶色に染まり、麺が柔らかくほどけていくと、
「さっきの麺料理だ! すげえ! アルファ化米ってやつよりもずっと早く麺料理が出来ちまったぞ!?」
「アリス! この麺は日持ちがするのよね!? このタイミングで出すんだもの、日持ちするのよね!?」
2人の興奮した声が部屋に響いた。ハクに防音結界をお願いしていて良かったと思うほどの興奮ぶりだ。
やったね! ❝即席麺❞大成功!!
鶏の代わりにハーピー出汁だけど、例のあの有名な袋麺の味に近いものができたんだ♪
弟と行ってて良かったなぁ! ラーメン手作り体験。
イザックとディアーナが嬉しそうにラーメンを食べているのを見ながら、ちょっとだけ、流威との楽しかった思い出に浸っていた。
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