上 下
457 / 754

街歩き6日目&7日目

しおりを挟む




 結論。

 イザックはあっさりと私たちのお願いを聞き入れて、ニールを同行することを受け入れてくれた。って言うか喜んでくれた。

 実はイザックに同行させるにあたり、ニールから条件が出されていたんだ。それは、

 ❝鞍などを一切付けないで乗ること❞

 スレイプニルであるニールの矜持として、人に手綱を付けられるのは屈辱以外の何物でなく、許容できないと言われたのだ。

 今発注している鞍などの馬具を受け入れたのは、主である私が望み、主の私が自分たちの為に心を砕いて用意するのが嬉しかったから。あくまでも例外なのだと。

 イザックにはすでに馴染んだ相棒おうまさんがいる(騎乗するのに必要な馬具は用意済み)ので、わざわざ鞍も手綱もない裸の状態のスレイプニルに乗って行く必要はないんだけど、

「スレイプニルの足なら俺の馬よりも数倍早く戻ってこられるからな。冒険者に復帰したばかりのマッシモのことも気になるし、俺にとっても悪い話じゃないさ」

 と言って笑ってくれる。

 ニールの食事に関しても、栄養を十分に蓄えている今なら10日ほど絶食しても大丈夫なことと、好物が野菜や果物なだけで私の従魔になるまでは狩った魔物の肉も食べていたとハクから聞いたことをそのまま伝えると、

「だったら俺が持てない分の食料は現地調達で賄えるな」

 食事はニールの分も用意してくれると約束してくれた。その上、

「ハクはアリスや仲間のことを考えられて偉いな~!」

 ハクの頭を優しくなでなでしてくれた後、

「で? 生栗はどれくらい買って来ればいいんだ? 俺のアイテムボックスに入らない量になるとニールにも運んでもらいたいんだが、その交渉はハクがしてくれるんだろ?」

 私ではなくハクに買い物おつかいの確認を始める。

 ………イザック。ジャスパーで寝食を共にした時間は伊達じゃないね。

 ハク~? 日頃の行いって、結構大事なんだよ?











 自分の留守の間はお馬さんあいぼうを冒険者ギルドに預けることにする。その後ここに戻って来るのは面倒なので、今夜はギルドの宿に泊まると言ってイザックは宿を出て行った。

 お馬さんを預ける為の費用は当然私が支払おうと思っていたんだけど、旅程を短縮できる分費用も浮くから、と受け取りを拒否された。

 ……一応私も、そんな訳にはいかないと言ったんだけどね? 「年もランクも上の男に恥をかかせるなよ?」と笑われてしまってはそれ以上は何も言えなくて、イザックの男気に甘えることにした。でも、もちろん甘えっぱなしにはしないつもり!

 ハクとライム、ディアーナと一緒にゆっくりとお風呂タイムを楽しんでから、気合を入れ直す。 

 タイムリミットは朝まで。 頑張るぞーっ!!











 早朝、まだ暗いうちに戻ってきたイザックは扉の前でノックをするのを躊躇していたようだけど、気配に敏感なハクが気付いて迎えに行ってくれ、その間にライムが私とディアーナを起こしてくれた。

 イザックは「こんな時間にすまん。門が開いたらすぐに出たくてな」と謝ってくれたけど、昨夜ディアーナから、❝普通の旅人は日の出とともに行動する❞と聞いていたので、何の問題もない。

 一緒に朝ごはんを食べた後、あらかじめイザックが用意していたお買い物リストを見ながら必要な物をインベントリから取り出す。

 お水にアルファ化米、野菜たっぷり乾燥スープの素に角煮にしてから作ったオークの干し肉などの携帯食とドライフルーツやクッキーなどの日持ちするおやつ。それと1~2日分のお弁当とニールのごはんを持てるだけ。

 お弁当は日持ちのことを考えて、焼きおむすびと薄く焼いてくるくる巻いた正統派の卵焼き、そしてハーピーのから揚げといった定番の品を葉蘭で包んだものとお野菜たっぷりスープを小さな鍋に入れてそのまま渡す。

 表面の水分を飛ばしてパラリと出来上がった焼き飯はイザックの持っている鍋に移して、今日のお昼に食べてもらう用のサンドイッチはイザックの好きなハンバーグを挟んだものにした。後は肉串やボアと玉ねぎのスタミナ炒めなどのおかずになりそうなものを腐らない内に食べきれる量だけ。

 それから今回の本命!…の前に、

「ああ、そうだ。新作があるんだけど、試食してくれない?」

 もしもイザックの好みに合わなかったら荷物になるだけなので、先に味見をしてもらわないとね。

 インベントリから小さな器を取り出してイザックとディアーナに手渡すと、

「麺料理か? へぇ! 美味いじゃねぇか! スープパスタとは違うんだな」

「うん、美味しいわ! 麺料理までレパートリーにあるなんて凄いわね! ……でも、もう少しだけ、食べたかったかな?」

「そうだよ! 味見とはいえなんでこんなに少量なんだ? もっと食いたいぞ!」

 2人の反応は上々で、空になった器を残念そうに眺めている。 ……ふふふっ♪

「そう? じゃあ、おかわりはイザックが作ったらいいよ」

 お湯の入ったお鍋と麺を取り出して渡すと、イザックは残念そうに、

「作り方を教えてくれるのか? 嬉しいけど朝日が昇るまでもう時間がねえよ……。戻ってきたら食わせてくれ」

 私の方に返そうとする。 ……ダメ。顔が緩みそう! 

「時間はかからないよ。すぐにできるからそのまま麺を鍋の中に入れてみて」

 平静を装いながらイザックを促すと、イザックもピンと来たようで、

「まさか……。まさかな!?」

 期待に満ちた視線で鍋に入れた麺を見つめる。 本当は蓋をした方が早いんだけどね?

 ワクワクしているのを隠さないイザックに釣られたディアーナも鍋を覗き込んでいる。 

 2人の目の前で透明だったお湯が薄茶色に染まり、麺が柔らかくほどけていくと、

「さっきの麺料理だ! すげえ! アルファ化米ってやつよりもずっと早く麺料理が出来ちまったぞ!?」
「アリス! この麺は日持ちがするのよね!? このタイミングで出すんだもの、日持ちするのよね!?」

 2人の興奮した声が部屋に響いた。ハクに防音結界をお願いしていて良かったと思うほどの興奮ぶりだ。

 やったね! ❝即席麺❞大成功!! 

 鶏の代わりにハーピー出汁だけど、例のあの有名な袋麺の味に近いものができたんだ♪ 

 るいと行ってて良かったなぁ! ラーメン手作り体験。

 イザックとディアーナが嬉しそうにラーメンを食べているのを見ながら、ちょっとだけ、流威おとうととの楽しかった思い出に浸っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...