上 下
454 / 754

街歩き6日目 4

しおりを挟む




「じゃあ、ギルマスたちに❝ごちそうさま❞を言わないとね?」

「「ごちそうさま!」」
「にゃ~ん!(ごちそうさまにゃ!)」
「ぷきゃ~!(ごちそうさま!)」

 屋台通りを抜けた後、さっき買い込んだ分の代金は私のお金から払っていたと知って、ハクとライムが深く落ち込んでしまった。

 私のかわいいハクとライム(とお留守番のスレイとニール)のオヤツ(私も食べるけど)なんだから、私がお金を払うのは当然だと思っていたんだけど2匹の中ではそうではなかったらしく、同じものを大量買いしたことを後悔している。

 ……焼き栗だけでも5軒から買っていたのは確かに買いすぎかもしれないけど、今の所お金には余裕があるから気にしなくてもいいのにね? と思っていたら(お金は大切にゃ! 食料は複製で増やすべきなのにゃ~!)とお叱りを受けてしまった。 

 複製するにも元の数がある程度ないと、複製回数が勿体ないんだけどね?

 ハクとライムのしょんぼり落ち込む姿はとても可愛…、いや、可哀そうで! 仕方がないからさっきの買い物はギルマス達のお財布からお金をもらうことにしたら、途端に機嫌が回復するんだからうちの仔たちはゲンキンだ。

 でも、そんなところも可愛くて、ディアーナと2人で込み上げてくる笑いを抑えるのが大変だった。











「へえ。じゃあ、簡単に捕まえられたんだ?」

「ええ。動機は嫉妬。その男は依頼失敗のペナルティを支払う為に自分の馬を売ってしまって遠出をするのが難しくなったから、腹いせに他の冒険者たちの足を引っ張ろうとしたみたい」

「……低劣な男」

「本当に……」

 今朝、冒険者ギルドに寄っていたディアーナから、従魔登録担当セラフィーノの伝言を受け取った。

 以前スレイとニールが協力した、毒を回避するために飼い主さんの手からしか餌を食べないお馬さんのその後の話だ。

 セラフィーノから話を聞いた冒険者はすぐさま宿を冒険者ギルドの宿へ移して飼い馬を守り、セラフィーノからの通報を受けた宿と、大切な飼い馬に手を出されて怒り心頭の冒険者さんの協力で犯行現場を押さえられ、簡単に捕縛されたらしい。

 刑罰は罰金30万メレ。……被害に遭ったのが馬たちだけなことと、使われた毒薬が命を奪うほどの物でなかったことから、軽い罰金刑ですんでしまった。でも、

「冒険者以外の仕事を出来そうなタイプ?」

「直接会っていないからわからないけど……。外面そとづらは良いようだから、本人の気持ち次第ってとこ?」

「そっか」

 冒険者資格は剥奪されたそうだ。一度資格を剥奪されると名前を変えての再登録もできないので、その男の生活はすこ~しだけ困難なものになるかもしれないけど、まあ、自業自得だから仕方がないよね。

 男が捕まったことで、これ以上お馬さんたちが被害に遭わないですむことを喜ぼう。











 フライパンの作製をお願いしていた鍛冶屋さんに行き、玉子焼き専用フライパンの出来上がりを確かめる。

 形良し、重さ良し、味……、

「こんな形の卵料理は初めてだ! ふわふわでふわふわだ! あの鍋でこんなものが出来上がるとは思ってもみなかったぞ! ……腹壊さないよな?」
「ほんと! ふわふわでふわふわだわ! こっちは卵の甘みが、こっちはお出汁の味が利いていてとってもおいしい!」
「オムレツとはまた違ったふわふわ加減だな。さすがアリスだ、最高に美味い! ……アリスの料理だから腹は大丈夫だ。でも、他所で食う時は気を付けろ」
(おいしいのにゃ! やっぱりアリスの作るごはんは最高なのにゃ!)
(おいしいね~! ぼくもありすのごはんがだいすき♪)

 味も良かったようで何より! 

 玉子焼き専用フライパン作製の条件としてフライパンを使っての料理を希望されていたので、鍛冶職人さんには前もって❝焼き入れ❞と❝油ならし❞をお願いしておいた。ダメ元でお願いした❝におい対策=一度クズ野菜などを炒めておく❞も、職人さんはきっちりと済ませてから大切に保管してくれていたので、私は❝油返し❞をするだけで、すぐに卵焼きと出汁巻き卵を焼くことができ、職人さん、ディアーナ、店に来る途中で偶然会ったイザックやハクとライムうちのこたちが満足のいくまで卵を焼き続けた。

 職人さんとイザックには卵だけでは足りないだろうと塩おむすびも出しておいたよ。おむすびと卵焼きは遠足…、今日は工場見学かな?の定番だよね♪

 フライパンの出来栄えに満足して代金を支払おうとすると、職人さんは代金はいらない代わりに頼みがあると言い出した。どういうことかと尋ねる私と、訳知り顔でうんうんと頷いているディアーナとイザック。ますます訳が分からなくて思わず眉間にしわを寄せると、職人さんは慌てて、

「これを1日も早く登録してくれ! こんなに美味い卵料理が作れる鍋なんだ、絶対売れる!」

 ……玉子焼き専用フライパンの商業ギルドへの登録を要請した。

「これを作ったのは私じゃないから、あなたが申請したら?」

 私はこういう物が欲しいとお願いをしただけ。作った職人さんが登録すればいいと思ったんだけど、

「それとこれは話が違う! 俺は依頼されたものを依頼通りに作っただけなんだから、これはあんたが登録するべきものだ!」
「アリス! そんなことをしたら、テントの権利をあの店に奪われるわよ!」

 どうやらそうはいかないらしい。……テントの件は既存の物を改良したからと納得する。でもフライパンはもともとあるものの形を変えて作ってもらっただけなのに、どうして私の登録の権利てがらになるの? 

 納得のいかない私と譲る様子のない職人さん。 平行線になるかと内心で焦っていたら、

「だったら共同登録でいいだろう? 俺たちにしてくれたように」

 イザックがあっさりと解決案を出してくれる。 そうか、その手があったね! ……共同登録にすると、私にもお金が入ることになるのが少しだけ腑に落ちないけど、このまま譲り合いが続くよりはずっといい。

 渋る職人さんはイザックが上手に説得してくれたので、このまま職人さんと一緒に商業ギルドへ向かうことになった。

 ………商業ギルドの受付に向かうとラファエルさんがいて、こちらが話を切り出す前にギルドマスター室に連れていかれるのはどうしてかな? おいしいお茶をご馳走してくれるのは嬉しいんだけどね?

 この部屋の中で私がしたのは挨拶とサインだけ。 商品の詳しい説明は鍛冶職人さんがしてくれて、共同登録の話はイザックとラファエルさんが主になって詰めてくれた。レシピ使用料の取り分は職人さんの希望は1:9。 職人さんが1割で私が9割。納得のいかない私の睨みを受けたイザックの頑張りで3:7まで行きそうだったけど、ラファエルさんの物言いが入って2:8に落ち着いた。 

 一緒にレシピ登録する卵焼きと出汁巻き卵のレシピがあってこそ、玉子焼き専用フライパンの価値がわかるから。と言うのが理由らしい。

 その代わり、職人さんは今日から作製を始める権利と玉子焼き専用フライパンの制作に対して❝本家本元❞や❝元祖❞などを名乗る権利を認められて、本登録が済み次第、すぐに販売を開始できるようになった。

 本当に2割でいいのかと聞いてみたら、

「俺は職人だから。他人の案を横取りした金で飯を食うようになったら腕が腐っちまう。この鍋を作るのに❝本家本元❞を名乗らせてもらうだけで十分過ぎるくらいだ。2割の使用料を受け取る権利は俺にはないと思うんだが……、ありがたく受け取らせてもらう」

 嬉しそうにお礼を言われてしまったので、納得することにした。

 欲のない人だなぁ…と感心していると、みんなからなんだか生暖かい目で見られてしまったんだけど……。

 なに、その視線? …納得いかないよ!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

処理中です...