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街歩き5日目 2
しおりを挟む「なんと言うか……。喉の奥を滑り落ちるように、いくらでも飲めるお水です」
「とても甘みのある美味しい水だわ!」
「こちらもとても美味しい……」
「これは…! 体に染み込むようななんとも不思議な水でございますなぁ!」
「こちらも体に染み込むような不思議な味わいの上に、何とも冷たくて美味いですよ!」
最初に飲んでもらったのは、この宿の敷地にある井戸から頂いた水。
次に飲んでもらったのはスフェーンの森の泉で汲んだ水で、その次がネフ村からの移動中に渡った川から汲んだ水。
その次は私が【ウォーターランス】で出した水で、最後に【アイスボール】を融かしたうちの従魔たちのお気入りの水だ。
もちろん魔法で出した水以外は【クリーン】を掛けて安心安全な状態で、普通に組むよりもおいしさもアップしている特別な水になっている。
同じように【クリーン】を掛けた水でも元の水で味に違いがでるので、彼らの中で一番人気があった物を宿に販売しようと思って味見をしてもらったんだけど……。
それぞれに好みの味があってなかなかみんなの意見が一致しなかった。
でも、話し合いを続ける中でなんとか<スフェーンの森の泉の水>と<アイスボールを融かした水>の2つまで絞ることができたんだけど、
「アリスはずっとこの街にいてくれるの!? だったらとっても嬉しいわ!」
ディアーナの放った一言で、また話が元に戻ってしまった。 私がこの街に永住するつもりはないと答えたからだ。
だったら私がいなくなった後にはまた宿が困ってしまう。どうすればいいか? そんな問題は、やり手の商業ギルド職員&ギルドマスターによって解決する。
いつでも手に入る<井戸の水>に【クリーン】魔法をかけたお水を基本にしておいて、期間限定(期間は非公表。無くなり(居なくなり?)次第終了)として、<スフェーンの森の水>に【クリーン】を掛けた水と<アイスボールを融かした水>を特別販売(お値段も特別にお高め)する。
【クリーン】魔法の使い手は冒険者と同じくらい職人の中にいることもあり、今からなら高レベルの【クリーン】魔法を使える人材を探すこともそれほど難しくないという判断だ。
そして、短期間とはいえ前任者の出していたものよりも格段においしい水(スフェーンの森の泉と私のアイスボール)を出すことで、❝最高品質のおいしい水を高額な料金を支払い飲める特別な自分❞という、宿の宿泊客たちに強烈な優越感を与えることができるという判断らしい。
……お水ひとつでそこまで!?と思わなくはないんだけどね。みんなが満足そうに頷きながら笑っているので、口を挟まないことにする。
軽い気持ちで水の味見をお願いしたんだけど思った以上に時間と情熱をかけての話し合いになり、そのままの勢いで食事を出すと、これを出せば〇〇なお客さまがリピート確実だ!だの、これは女性の心を掴んで離さない!絶対に定番メニューにするべきだ!だの、これは△△なお客さまが大いに喜ぶだろうから高額で出せる!だの、これを嫌いな男性はほとんどいない!少し小さめにしておかわりしてもらおう!と、どんどん新メニュー候補が決まっていく。
メニューが決まったら、今度は発売前のレシピの取り扱いとレシピ発売後の他宿との差別化に話が進み(ディアーナもしっかりと話に加わってくれていた)、私はただひたすらにみんなのお腹が満足するまで次々とごはんを追加し続けるだけだ。
我関せずのハクとライムの世話をしながら十分な量の朝ごはんを食べ終わっても、みんなの話は止まらない。とこうすればどう!? こうすればもっと話題になる!といったアイデアが次々に飛び出すので、聞いているだけでも結構楽しいし、この話題の核になるのが私の登録するメニューだということは結構嬉しかったりする。
だから、ワクワクとした気分でみんなの話を聞いていたんだけど……。
「アリスさま。<冒険者ギルド>からお客さまがお見えでございます。緊急のご連絡とおっしゃっていますが、いかがいたしましょうか?」
朝の楽しい会食は、突然の来客によって終わりを迎えた。
だってその来客はディアーナと顔見知りの冒険者で、❝緊急の連絡❞っていうのが、
「ギルドマスターからの伝言だ。『準備が整った。奴らの拘束も済んでいるから、アリスの都合の良い時にギルドまで来てくれ。きっちりと片を付けようぜ!』とのことだ。 フランカの仇、討ってやろうぜ!」
っていうものだったから。
「わかった。すぐに行く!!
……みなさん、せっかく集まってもらっているのにごめんなさい! 私はこれからギルドへ行きたいの!!
我儘を許してください! みなさんはこのままこの部屋を使ってくれて大丈夫だから!」
さっきまでの楽しい気分はとっくに心の奥底に入り込んでしまい、今の私の頭を占めるのはフランカの為に、1メレでも多くのお金を取り返すこと! もちろん慰謝料もたっぷりとふんだくってやるんだ!!という好戦的な思考だけだ。
皆さんが頷いてくれたのを目にした瞬間に走りだした私の後を、
「私も行くわ!」
ディアーナが追いかけてきてくれたことには気が付いていたんだけど、彼女を待ってあげられるだけの余裕はすでになかった。
………お待たせ、フランカ! 絶対に彼らを許しはしないから、見守っていてね!!
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