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街歩き4日目 3
しおりを挟む「と、いう訳で、うちの従魔たちは心を込めて世話をしてくれる子供たちの心配を取り除くつもりで味見をさせたみたいなの。 だから子供たちに非はないわ。
逆に、なんだか申し訳ないことになったみたいで……。うちの仔たちがごめんなさいね?」
待ちに待ったハクが窓から戻って来たのは、泣き疲れた少女が大人しく黙り込んだ直後だった。
……もしかして、泣き止むまで外で待っていたのか?という疑惑が湧くけど、とりあえず今は脇に置いておいて、詳しい話を聞いてみた。
この子供たちは大人の従業員に比べると当然体も小さく力も弱い。でも、それを補うように小さな体でちょこまかと良く動き、時には鼻歌交じりに楽しそうに仕事をするので、厩舎に預けられている馬たちに大人気の兄妹のようだ。
その兄弟が生まれて初めて目にした憧れの生き物。それがうちのスレイとニールだった。彼らの目にはおとぎ話に出てくるスレイプニルよりも実物の方が何倍も格好よく映ったらしく、そのお世話ぶりは本当に献身的で楽し気だったそうだ。
にこにこと嬉しそうに笑いながらお世話をされていたスレイとニールも兄妹のことを気に入っていたので、自分たちの食べているごはんを見て心配をする兄妹を安心させてやる為にお裾分けをしてみた。というのが真相らしい。ついでに、
(アリスの作るごはんを自慢したかった気持ちもあったらしいのにゃ~)
なんて嬉しいことを聞かされては当然2頭を叱る気にはなれないし、子供たちを責める気にもなるわけがない。
それに子供たちが大泣きした理由が❝自分たちが食べたことのないほど美味しいものを従魔たちが普通に食べさせてもらってる❞ことが羨ましすぎたからだと聞かされては、何も言えることはなかった。
だって、私にも覚えのある感情だから! ❝ペット溺愛系飼い主紹介❞のTV番組などで、お金持ちの飼い主さんの家のワンちゃんのごはんが❝A5ランクの黒毛和牛❞だったのを観た時はとても悔しかったもの!!
その時の気持ちを思い出した私は、この場が丸く収まることを希望する。
子供たちが叱られないように、厩舎の責任者さんが責任を取ることがないように、子供たちがしたことは❝盗み食い❞ではなく❝従魔を心配しての味見❞だと主張した。それも、子供たちの働きに対する従魔たちからの❝礼❞だったのだと強調して。
その甲斐があって総支配人さんが子供たちと厩舎の責任者さんを咎めないと約束してくれたので、私はほっと胸を撫でおろした。
本当に嬉しそうに、何度も何度も感謝の言葉を口にしながら部屋を出て行く3人を見送っていると、
「お客さまの作る料理を是非味見させてくださいませんかっ!? ほんの一口でも良いのです!」
今度は料理長さんが深く深く頭を下げて、そのまま頭を上げてくれない……。
……今度は一体どんな理由なの!?
この宿の自慢の一つに❝水❞と❝食事❞の質の高さが挙げられるそうなんだけど、私はこの宿の食事をほとんど口にしていない。
一度だけ食べてみたんだけど、うちの仔たちが気に入らなかったこともあって、部屋で自分の作った物を食べていたからね。
部屋にサービスで置かれていたお水も同じ理由で飲んでいなかった。というか、もったいないからサービスのお水はいらないとお断りをしていたんだ。
それが料理長さんは気に入らなかったらしいんだけど、総支配人さんと世間話をしていた時に彼が私の料理を褒めちぎるのを聞いて、その感情は私の作る料理への興味に変わったらしい。
私の作る料理がどんなものなのか、一度でいいから直に確かめたい!と総支配人さんに何度も何度もお願いをして、とうとう根負けした総支配人さんが私に話をしに来た。 その結果をソワソワしながら待っている時に、先ほどの兄妹が❝私が作ったスレイプニルのごはんを食べて泣いた❞と聞いて、居ても立ってもいられなくなって、彼らと一緒に部屋まで来てしまったようだ。
……道理でおかしな組み合わせだと思ったよ。
「先ほどの水も信じられないほどに美味い水でした。 一体どちらで入手されたのでしょうか!? お客さまは<商人>と聞いております。 もしやお客さまの扱っている商品なのでしょうか!? でしたらぜひ! 私共との取引をお考えいただきたいのです!」
深く頭を下げる料理長さんは、この宿の<食の責任者>として私のような小娘を相手に頭を下げることを厭わないらしい。
ちょっとだけ感心していると、
「お客さまにこのような話を持ち掛けるなど、失礼は重々承知しておりますが……。どうか、この宿の力になってはもらえませんか?」
総支配人さんまで深く頭を下げてしまった。
それにしても、❝宿の力に❞なんて口説き文句にしても大袈裟過ぎる。
総支配人さんの言葉に引っかかりを覚えた私は、詳しく話を聞いてみることにした。
……ハクが、
(そんなに言うなら、高値で水を売ってやるのにゃ!)
って心話を送って来ているからだけじゃあ、ないからね?
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