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街歩き1日目 7
しおりを挟む宿が用意してくれた夕食は、少しスパイスが利きすぎていることを除けば十分においしいものだった。でも、
「悪くはないのにゃ…。でも、アリスの作るごはんの方がおいしいのにゃ!」
「ぼくもありすのごはんのほうがすき!」
うちの仔たちは不満を口にして、❝おかわり❞を要求しようとはしなかった。私のお皿のお肉を勧めてみても興味を持たずに首を横に振るので、普段の食いしん坊な2匹を見慣れている私は嬉しさを感じるよりも心配になってしまう。
あまり甘やかしてはいけないと思いながらも、従魔たちのしょんぼりとした様子に負けて、
「何か出そうか?」
ついついインベントリのリストを開いてしまった。
待ってました!とばかりに元気になった2匹のリクエストは、揚げパンとフローズンヨーグルト。
……どっちもおやつやデザートだと思うんだけどね。2匹のリクエストなんだから仕方がない。
でも、宿の食事はお肉ばかりだったので、野菜たっぷりのシチューも出しておこうかな。 ハクもライムも食べる順番にこだわりはない方なので、同時に出しておいても問題ないだろうし。
先に食べ終えて、2匹が楽しそうに食事しているのを眺めながらりんご水を飲んでいると、部屋のドアをノックする音が響いた。
スレイとニールを連れて戻ったセラフィーノが厩舎で私を待っている。と連絡を受けて、食事を終えた2匹と共に急いで厩舎へ向かった。
「馬の餌に毒薬が!?」
スレイとニールからの報告をセラフィーノに伝えると、セラフィーノは2頭をブラッシングしていた手を止めて驚愕に目を見開いた。
「うん。厩舎に顔を出す宿泊客が馬たちの餌に弱い遅効性の毒を盛っているみたい」
その宿泊客は馬を持っておらず、厩舎には何の用もないはずなのに❝馬が好きだから❞という理由で厩舎に出入りをしては、毒を仕込んだ食べ物を馬たちの餌に混ぜるらしい。 時には馬たちへの差し入れだと言って厩舎の従業員に毒入りの食べ物を渡し、厩舎の従業員の手から馬たちへ毒入りの餌が運ばれることもあるそうだ。
その宿の厩務員たちは餌を用意したら馬たちが食べている間に他の仕事を済ませようと厩舎を離れるので、宿泊客であるその人物は自由に厩舎に出入りができ、またその客は宿の常連で厩務員たちとも顔見知りになっているため、その客を疑うことなく差し入れなどを受け取ってしまうようだ。
「直接命を縮めるような薬ではないようだけどね」
セラフィーノに依頼をした人の飼い馬はそのことに気が付いて宿側の用意する餌を警戒し、自分の飼い主からの餌しか食べないようになったようだ。
「宿の従業員を側に寄せ付けない理由は?」
「他の馬への注意喚起の為みたい。うちのスレイとニールは他の馬とお話できるけど、馬同士は簡単な意思疎通しかできないようだから」
自分が警戒する姿を見せて他の馬たちが警戒心を持つように誘導しているそうだけど、結果はあまり芳しくなく、馬たちはその客が差し入れする、普段は餌に出ることの少ない果物や野菜を喜んで食べているそうだ。
「そうか。だからあの馬は健康体なのに、あんなに不安定な様子だったのか……」
「セラフィーノは馬の健康を見ただけでわかるの? 凄いね!」
「いや、そうじゃない。俺はスレイとニールのお陰で馬に触れただけだ。最初は俺も警戒されていて、側に寄せてもらえなかった。 スレイとニールが一緒に来てくれて、本当に助かったよ」
最初は警戒して興奮していたその馬も、スレイとニールが厩舎に入ったとたんに服従のポーズを取り、すぐに落ち着いて大人しくセラフィーノに体を触らせてくれたらしい。
「スレイもニールも偉かったね!」
2頭の頭を撫でながら褒めてあげると、
(存外素直なヤツでございましたぞ)
(なかなかに利口な者でしたので、側で仕えさせてやっても良いと思いましたわ)
2頭は揃って馬のことを褒めた。
うん。確かにそうだ。その宿泊客にしていることに気が付いて、自分だけでなく他の馬にも注意を促そうとするなんて、なかなかいい馬だよね!
セラフィーノも同じ考えを持ったようで、スレイ達の報告の裏付けを取る時間が惜しいので、まずはこれから会う依頼人の冒険者には宿替えを勧め、同時に彼の馬の賢さを語って聞かせてやる!と急ぎ足で冒険者ギルドへ戻って行った。
こちらが調査していることに気が付いた宿泊客に何かをされる可能性もあるんだから、宿替えは1日でも早い方が良い。
今の所は何の証拠もない話だけど、依頼人の冒険者がこの話をきちんと信じてくれることを祈りながら、みんなでセラフィーノを見送った。
そして、私は……。 これから一仕事!
スレイとニールが晩ごはんのカット野菜と野菜たっぷりのスープを食べ終わったことを確認してから、気合を入れなおす。
何が始まるのかって……?
今日手に入れた食材を使って、ごはんのストック作りです♪
可愛い従魔たちの為だ。頑張るぞ!!
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