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街歩き1日目 5
しおりを挟む私たちへの接触を諦めた例の男女がいなくなったので、ハクの結界を解除していたことを後悔しながら振り向くと、
「街歩き、楽しんでるか?」
「うん。ディアーナの案内のお陰で充実してる!」
セラフィーノが笑いながら片手を上げていた。
街の宿屋に預けている冒険者の飼い馬の様子がどうにもおかしいから、セラフィーノに様子を見て欲しいと依頼が入ったので、その宿へ向かう途中らしい。
「へえ、ギルド職員の仕事って幅広いのねぇ」
「ああ。こういう依頼は受けた職員にも臨時収入が入るからな。取り合いになるんだぞ」
まあ、従魔関連の専門は俺しかいないんだけどな!と笑っているセラフィーノだけど、その腕に信頼がおけることは私も知っている。
どんな依頼なのかと興味が沸いたので聞いてみると、普段は人懐こい飼い馬が宿の人間を近づけないらしい。それも預けた日からずっと。
餌すらも飼い主の冒険者が用意したものでないと食べてくれないので、困った冒険者に助けを求められたそうだ。
宿はその冒険者が普段使っている宿で、依頼で街を離れた半月前までは何の問題もなかったし、宿の厩務員も同じ人たちなので、何が原因かがわからなくって困っている、と。
「馬は事情を話してくれないからなぁ。 俺で力になってやれたらいいんだけどな」
心配そうに呟くセラフィーノを見ていると、
(だったらスレイとニールを連れて行くのにゃ!)
(え?)
(スレイ達は気軽に散歩できないから丁度いいのにゃ♪)
ハクが満面の笑顔で提案してくれた。
今日の街歩き、本当はスレイとニールも一緒が良かったんだけど、お店の中に入ることを考えたら気軽に連れてくることはできなかった。 スレイとニールをお店の外で待たせたりして、何かあるといけないからね。
でも、行き先が他の宿の厩舎でセラフィーノが側についていてくれるなら、安心して送り出すことができる。
スレイとニールは他のお馬さんと話ができるから、今回は彼の力になれるかもしれないし。
「ねえ、セラフィーノ。そのお馬さんのいる宿と<キャロ・ディ・ルーナ>はかなり離れているのかな?」
「あ? ……近くはないが、方角は同じだぞ」
「ここからだとどっちが近い?」
「<キャロ・ディ・ルーナ>だな」
<冒険者ギルド>からそのお馬さんがいる宿まで、途中で少し遠回りをするだけで私の泊る<キャロ・ディ・ルーナ>に行くことができて、そこからお馬さんのいる宿まで距離があるならちょうどいい。
「だったら、スレイとニールにお昼ごはんを届けてくれない? ついでにお散歩も」
「俺が散歩をさせていいのか!? ああ、でも依頼が終わった後だと、スレイとニールが腹を空かせちまうな……」
セラフィーノは私の突然のお願いを聞いて喜びの表情を浮かべてくれたが、スレイとニールのことを考えて葛藤を始めた。 だから、いたずらな気持ちを隠して言葉を続ける。
「その依頼の前に行って欲しいな」
「……それはダメだ。依頼主が飼い馬のことを本当に心配しているし、俺もその馬を早く診てやりたい」
「その依頼にうちの仔たちが役に立つかもだよ? うちの仔たちは馬語が話せるし、私はうちの仔たちとお話できるし」
「!? ……スレイとニールを連れて行ってもいいのか!? 俺の依頼を手伝ってくれるのか?」
「うん、ごはんを食べた後の散歩にならね。 私はこのまま買い物に行きたいから、セラフィーノが代わりにごはんを持って行ってくれると助かるよ」
もしもこの話を他の誰かが聞いて、❝同じ依頼を出せば自分もスレイプニルに接触できる❞ なんて考えてはいけないので、あくまでも今回は❝私の都合❞だと改めて強調しておく。それを聞いてセラフィーノもピンと来たのか、
「ああ。ここからならアリスの宿の方が近いから先にスレイとニールに飯を持って行くが、散歩の時間までは取れそうにないから、俺の依頼先までの道行きを散歩の代わりにさせてもらうよ。帰りは少しだけ遅くなるかもしれないが、俺がきちんと送り届けるから安心してくれ」
満面の笑顔で話を合わせてくれた。交渉成立♪
話が決まったら手早い行動を! 私が宿のフロント宛に❝この手紙を持って行く人は<冒険者ギルドの従魔登録担当者>です。散歩の依頼を出したので、スレイとニールを預けてください❞と手紙を書いていると、
「宿のスタッフが、筆跡でアリスさんだと判断できるかしら?」
見ていたディアーナが思案気な顔で呟いた。
確かに、私が宿に残している筆跡は宿帳に書いた名前くらいのものだ。こんな手紙だけを信じてスレイ達を見知らぬ男に預けるようでは、高級宿の従業員としては失格も良い所だろう。下手をするとスレイプニルの誘拐・窃盗だと疑われかねない。
これがディアーナだったなら、昨夜の試食会で宿の人たちも顔を覚えてくれているんだろうけど……。 ! そうか!
私は書いていた手紙の宛先を総支配人さんに変更してからインベントリのリストを確認する。……数は十分、かな。
「セラフィーノのアイテムボックスの容量はどれくらい? スレイ達のごはんとおやつ以外にも入りそう?」
スレイ達にはカットした野菜&果物と野菜たっぷりのスープとクリーンを掛けたおいしいお水を。そして、総支配人宛にアイスを抜いた極桃のコンポートを用意する。おまけにりんごのコンポートも。
「極桃のコンポートは総支配人さんに渡してね。もちろんセラフィーノにも。スレイ達の面倒を見てもらうお礼だよ。
もしも総支配人さんがいなかったら、こっちのリンゴのコンポートを従業員に差し入れして、総支配人さんを探してもらえるようにお願いしてみて。 総支配人さんがいたらリンゴのコンポートは全部総支配人さんに。事前連絡をしなくてごめんなさいのお詫び品として受け取ってもらって」
「それはいい考えですね! 総支配人なら、アリスさんの作った極桃のコンポートの味を覚えているでしょう! あれは誰にでも用意できるものではありませんし!」
ポカンとした表情のセラフィーノの代わりに、ディアーナが理解してくれた。
ディアーナの説明を聞いて、納得したらしいセラフィーノは、
「ディアーナはアリスをさん付けで呼んでいるのか? この間は❝付き合いたてのカップル❞か?ってくらい、お互いの名前を呼び捨てにする練習をしていたのに」
……まったく関係のないことを言い出した。
でもそれ、実は私も気になっていたんだよね~。 ねえ、ディアーナ?
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