上 下
400 / 754

街歩き1日目 2

しおりを挟む



 ディアーナの案内で着いたのは、冒険者ギルドからほど近い場所にある装備屋さん。

 私が預かっていたのは盗賊が使っていた物の中でも比較的まともな装備類だったから、そのまま装備屋さんに持ち込んだ方が高く売れるとの判断からだ。 それも、冒険者ギルドからほど近いお店で売ると、

「ディアーナの紹介なら仕方がねぇな。端数は切りよく繰り上げて」

「え? 私を引き合いに出すのに、端数の切り上げだけなの?」

「……傷はあるが汚れは落としてくれているようだから少し手入れするだけですぐに店に出せるな。通常の買い取り価格より1割、……1.5割増しのこの金額でどうだ?」

 という具合に、<冒険者ギルドの有能な職員・ディアーナ>の顔が利いてサービス価格で買い取ってもらえた。

 店主さんとにこやかに話をしているディアーナをお店に残して急いで商業ギルドに戻り、買い取り価格の半分をイザックの口座に入れて、やっと一安心。 遅くなってゴメンの気持ち分、少しだけ多めに入れておいたことはハクたちには内緒だ。

 ……呆れたような顔でこっちを見ているので、気が付いている気もするけどね。











 次に向かったのは時計屋さん。

 の、前に、

「え? これってさくらんぼ!? ……ちょっと酸味が強いけどアクセントに使いたいし、ザル一杯分貰おうかな。 あ、大盛で♪」

 行き道にあった屋台通りでお買い物をして行こう!

 大きな街だけあってメロンやチコリ、パセリ(葉がチリチリしていない)などのまだ手に入れていない食材がいろいろとあってとっても楽しい♪

「スイスチャードにラディッキオにビーツ…、白や紫のパプリカなんて初めて見た! この街の野菜はカラフルなものが多くて楽しいね!
 ライム、良さそうなのを選んでくれる? おじさん、この仔が選んだものは全部もらうから別に避けておいてね」

「お…、おう。 ……スライムに買い物を任せるなんて、お嬢ちゃん変わってるな」

 ご機嫌においしい野菜を選んでいくライムを見て、屋台のおじさんが目を丸くしている。

「そう? この仔の選ぶ食材は間違いないからね」

「……確かにな。良いのばっかりってるよ。 って、ちょっと待て! これじゃあ、残ったヤツはイマイチってことになっちまうだろう!」

「うん? そうなる、かな……?」

 私は良いお買い物ができて万々歳なんだけど、店主のおじさんからしたら困った事態になったみたい。

 ❝野菜を餞別するスライム❞の物珍しさに惹かれて見物客ができているからだ。 ……確かに、これでは残った物を買って行こうというお客さんは少ないかもしれない。

 苦笑いを浮かべているおじさんを見て、私も少し考える。

「あ~…、ライムが選ばなかった野菜は……、半額でなら買ってもいいよ? ……って、これじゃあ、私がペテン師みたいだ! ディアーナ、どうしよう?」

「ふふふっ、どうするんですか?」

 我関せず。と仕事中のライムを応援しているハクはあてにならないのでディアーナに助けを求めてみたんだけど、ディアーナは楽しそうに笑って私を見ているだけだった。

「えぇぇぇぇぇぇ? 困ったなぁ…」

「……っぷ! くくっ!」

「え?」

 困っている私の何がおかしかったのか、八百屋のおじさんが急に笑い出したのでちょっとむっとしてしまったけど、おじさんはさっきまでの苦笑いとは打って変わり、目じりにしわを寄せて楽し気に笑っていた。

「お嬢ちゃん、おまえさんはいい子だなぁ。 おまえさんが困ることなんて何もないのに。
 ……本当に、残りを半額で買ってくれるのか? どのくらいだ?」

「おじさんが買って欲しいだけ全部?」

「じゃあ、全部だ! 買ってくれるか?」

「うん、いいよ」

 満面の笑みを浮かべているおじさんを見て、交渉成立! これで憂いなし♪と思って安心していると、

「おい、そんなこと言っていいのか? そのスライムが残り全部を選ばなかったら、全部半額で買い叩かれて大損するぞ!」

 斜め前に店を出している別の八百屋さんから、おじさんに忠告が入った。

 うちのライムはそんな小狡いことはしないけどね! でも、そう考えるのが普通かもしれない。

 どう言ってライムの誠実さをわかって貰おうかと考えたんだけど、そんな必要はなかったようだ。

「ああ? お前だって本当はわかってんだろう? こんな話をしている中でも、このスライムが良いものを全て選んでるってな。
 それに売れ残ってから叩き売ることを考えたら、今、残らず買ってもらった方が大手を振って家に帰れるってさ」

 他ならぬおじさん自身がライムを庇ってくれた。 ……おじさん、ありがとう! 見る目あるね!!

 それに、声を掛けてきた別の八百屋のおじさんも、本当はわかっているようだ。

「ちぇっ、お前んところだけ狡いじゃねぇか…。なあ、嬢ちゃん! 俺の所のも買ってくれよ!」

 自分の屋台の商品を手に取って売り込みをかけてきた。

 あっちの屋台の商品はズッキーニとバジルにトマト。トマトはジャスパーで手に入れたラフトマトがいっぱいインベントリにあるからいらないかな?と思ったんだけど、ここで売っているトマトは大きな唐がらしのような形をした、加熱用のトマトだ。 

 ソース用に買ってもいいかな?と思ったんだけど、まずはその前に、

「うちの仔にきちんと謝ってくれたらね? うちの仔たちはお利口だから、あなたが言ってることも全て理解しているよ」

 濡れ衣を着せられたライムのフォローだ。 おじさんがちゃんと庇ってくれたけど、この仔の主として、私も黙ったままではいられない。

 トマトの屋台のおじさんも内心では言いがかりをつけたことを悪いと思っていたらしく、

「スライムに言葉がわかるのかっ!? ……ごめんなぁ、おっちゃんが悪かった」

 素直に謝ってくれたし、ライムも広い心で「ぷきゃ~(いいよ~)」と許してあげたので、しこりは残らなかった。

 初めの屋台と同じ条件、ライムが選んだもの以外は半額。その代わり全部即買い。で買い上げると、それを見ていた周りの屋台から「うちも!」「わしのも!」と声が上がる。 

 私は別に買ってもいいんだけど……。ここの食材を買い占めてしまったら他の買い物客に迷惑が掛かってしまう。

 同じことを考えたディアーナと2人で頷き合って、私がハクを、ディアーナがライムを抱えてとりあえず屋台通りから離れることにした。

 色々な屋台から声がかかるけど……、ごめん!また今度! 今は何も聞こえません! 人にぶつからないように気を付けながら、まるで逃げるように屋台通りを走り抜ける。

 ……衛兵さ~ん、私たちは何もしてないからねーっ? そんな不審そうな目で見ないでも大丈夫だから!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

処理中です...