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少女の事情

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 ディアーナが迎えに来てくれるまでの待ち時間、ハクのリクエストで宿の庭で日向ぼっこをすることにした。

 日当たりのいい場所にシートを敷いてブーツを脱いだ足を投げ出しスレイとニールを背もたれに、風に揺れる花を眺めながらのんびりとうたたね……をしたかったんだけどね。高級な宿の庭では、そんな行儀の悪いことはさすがにできなかった。

 庭の一角にテーブルセットを取り出して行儀よく座り、カモミールティーを飲みながら風に揺れる花や、無邪気に転げまわってはしゃいでいるハクとライムをのんびりと眺める。もちろんブーツは履いたまま。

 スレイとニールは自分たちがはしゃぐと庭の花や木がダメになることがわかっているので、テーブルの側でおとなしく寄り添いながら、先輩従魔おにいちゃんたちが楽しそうにじゃれ合っているのを微笑ましそうに見守っていた。

「平和だね~」

(本当にそうかにゃ?)

「平和だよ~。視線は強いけど、悪意は感じないし? うちの仔たちみんなが可愛い過ぎるから、目が惹きつけられるのは仕方がないよ!」

(さすがアリス! よくわかっているのにゃ♪)

 ハクがふふん♪と笑いながら流した視線の先は2階の角部屋。元々は私が止まる予定だった部屋の窓だ。そこから出しては引っ込める、出しては引っ込めるを繰り返している頭が1つ。

(あ、目が合った。……なんか、固まってるねぇ?)
(固まってるにゃね~。……ちょっと面白いのにゃ!)
(なんだろうね~~?)

 ハクとライムもじゃれ合うのを止めて窓に注視していると、ぴょこっと飛び出した手が何かを私たちに投げつけようとして……、動きを止めた。

(なんなのにゃ?)
(なんだろうね~?)
(小童こわっぱとはいえ、少々無礼でございますな)
(少し仕置きをしてやりましょうか?)

 従魔たちが不審げに窓を注視するなか、何かを握ったままの手が下ろされて、代わりに見覚えのある少女が窓からおずおずと顔を出した。

 昨日、部屋替えを希望して宿を困らせていたお嬢さんだ。

 何ともバツの悪そうな顔で私たちを見下ろしながら唇をキュッと結ぶと、両手のひらに何かを乗せてお椀型に組んだ手を窓の外に突き出した。そして、手のひらの物を私たちに向かってゆっくりと落とすように放り投げる。

(なんにゃ?)

(お菓子…だね。 あ、裏面に何か書いてある)

 少女が投げて寄越したのは紙で包んだお菓子。 そして、包んでいた紙には『ごめんなさい』のメッセージ。

(………)

(昨日のこと、反省しているのにゃ?)

(みたいだね)

(どうするの~?)

(どうしようかなぁ……)

 とりあえずは、返礼、かなぁ? 

 インベントリから取り出したのは、ジャスパーで買ったポルボロン。それを新しい紙で包んでから布でくるみ、

「ハク、お願いできる?」

(……僕が行くのにゃ?)

(うん、ここから2階に投げたりするのは行儀が悪いからね。 宿の品位に傷がついちゃう)

 ハクの首に結びつける。 綺麗な柄の布しかないのが本当に残念だ。もしもここに唐草模様の布があったなら、可愛い可愛い❝泥棒猫❞が見られたのに!!

 内心で込み上げてくる笑いを何とか押し隠し、お皿に盛ったポルボロンを見せる。「戻ってくるまで待ってるからね!」の一言で、ご機嫌にお使いに行ってくれるハクがとっても可愛い!

 ハクは尻尾をふりふりしながら少女の部屋に近い木に近づくとするすると登り始め、細~い枝の上を軽快に移動してジャンプ!…と見せかけて空を飛んで部屋の窓から侵入を成功させた。

 すぐに戻って来るだろうと思っていたのにハクはしばらく姿を見せず、ようやく戻って来た時にはまた布を首に巻き付けている。

『昨日はごめんなさい。本当にごめんなさい』

 ポルボロンの代わりに入っていたのは、またもや彼女のお詫びメッセージ。

 始めはお兄ちゃんに書かされたのかな?と思っていたんだけど、ハクから部屋には誰も(お付きの人さえも)いなかったと聞いて、少女が自分の意思で謝ってくれていることがわかった。

 従魔たちみんなにポルボロンを勧めながら、私はしばらく思案する。 少女がくれたお菓子を齧りながら考えをまとめ、

「ハク。またお願い、ね!」

 少女と文通してみることにした。









『昨日はどうしてあんな我が儘を? 宿を代われないなら、別に元の部屋でも良かったんでしょ?』
『……あなたが憎たらしかったから。ごめんなさい』

『私、知らないうちにあなたに何かした?』
『何もしてないわ。 でも、たった1人で自由にしているあなたがうらやましくて……。 私にはお兄さまやお目付け役がずっと付いているのに……』

『私も1人じゃないわよ? この手紙を届けてくれている猫は私の❝保護者❞だもの』
『この可愛い猫ちゃんが!?』

『可愛いだけじゃなくて、とっても!お利口なの。 だから間違ったことなんかするとすぐにお叱りが……』
『…………信じられないけど、でも、普通の猫は手紙の配達こんなことしないわよね。 
 私はロザリア、11歳よ。あなたは?』

『アリス。 16歳よ』
『……っ!? 嘘っ!! 私と同い年くらいだと!』


 ………文通の結果でわかったこと。

 ロザリアが私を同い年くらいの子供だと思っていて、一人旅を許されるくらいに両親に信頼されていると誤解をし、勝手に羨んでしまったこと。とその他いっぱい。

 ………若く見られるとは知っていたんだけどね? まさか11歳の少女から、同い年認定されるとは思ってもみなかったよ。

 ちょっと、ハク! ライム! そんなに笑わなくてもいいでしょ!?

 スレイとニールも! 笑いを噛み殺しきれていないから! もう、素直に笑われた方がマシだよ~っ!
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