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人は見かけどおりではない、ようだ

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 寝室にはセミダブルサイズのベッドが1つ。脚にとても綺麗な彫り物がされているナイトテーブルと魔道具のライト。写実的な花の絵を入れた額にはナイトテーブルと同じ意匠の彫り物がされている。

 ベッドルームからはお風呂に続くドアとリビングに続くドアがあり、リビングを挟んで反対側にはツインベッドのコネクティングルームおつきのためのへや

 困惑しているベルパーソンを急かしながら見に来たスタンダードルームは、これがスタンダードなの?と思うほどにゆったりした作りの部屋だった。 さすがは街で一番の高級宿。スイートがスタンダードなんだと感心してしまう。

 スーペリアルームには応接室も付いているらしく、部屋を見ておかなかったことをちょっとだけ後悔した。

 とは言え、ハクとライムと一緒にゆっくり眠れるサイズのベッドや、家具を少し移動させるだけで夕食に招待した3人に十分にくつろいでもらえそうな広さのリビングルーム、絨毯などが一切敷かれていない石がむき出しのコネクティングルームは、ベッドをどけるだけで安心してかまどを置けそうだ。

「……ここでいいわ」

 十分に気に入ったので部屋を譲ることに応じると伝えると、ベルパーソンはほっとしながらも憤るといった複雑な表情を浮かべる。 客商売も大変だよね…。

「そんな顔をしないで? 部屋を使うのは小さな従魔たちと私だけなのだから、このお部屋で十分よ。 その代わり、と言っては何だけど、厩舎に預けている方の従魔たちの世話をよろしくね? 
 あと、友人たちを夕食に招待しているから、家具や調度品を少し動かしてもいい?」

 スレイ達とは街の中ではあまり一緒にいられないから、ストレスが溜まったりしないように気を配ってあげて欲しいとお願いすると、ベルパーソンは少しだけ胸を張って了承してくれる。 

 なんでも生き物にとても好かれる従業員がいるらしく、彼らの世話する馬たちは毛艶が良くなると評判らしい。 

 スレイ達には私たちもできるだけ会いに行くつもりだけど、そんな性質の従業員がいるなら心強い。後で挨拶しておこう思いながら兄妹の待つフロントへ戻ると、そこには服を着替えて厳しい顔で先ほどの兄妹と話をしている支配人さんがいた。

 話を聞いた支配人さんは兄妹が他の宿泊客わたしに迷惑をかけたことを怒っているようで、それに対し少年おにいちゃんが謝罪を口にしているが、少女いもうとが台無しにする態度を取っているようだ。

 まあ、他の宿に移りたい少女からしたら、このまま話がこじれた方が有利だからね。 

 少女いもうとを諫める少年おにいちゃんの言葉の端々から、この兄妹が今回は子供たちだけ(お世話係や護衛付きだけど)で旅行中なこと。兄妹の両親が子供たちだけの旅行を許す条件の一つがこの宿に宿泊することだとわかる。 

 ……少女の中では、この宿の不備で宿替えをするなら約束を破ることにはならないということらしいけどね。❝窓を開けていたら部屋に蜂が入って来た❞では、宿の不備にするには弱いんじゃないかな? すでに駆除も終わっているみたいだし。

 立ち止まった私に一礼したベルパーソンさんが支配人さんに近づいて行くと、こちらに気が付いた3人(とお付きの人たち)の視線が一斉に私に集まる。

 ベルパーソンさんが、私が部屋を譲ることに同意したこととその条件を報告すると、私を見て申し訳なさそうな顔をする支配人さんとどこか得意そうな少女。そして、その少女の顔をじっと見つめる少年。 

 少し離れた位置だから、それぞれの反応がよく見える。 

 ……あなたを得意がらせるために部屋を譲るわけじゃないんだよ?

 少女の表情に思うところがないと言えば嘘になる。だから支配人さんが、

「この度は大変なご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません」

 きっちり腰を折ってお詫びしてくれるのに、

「頑是ない子供の我儘だもの。 大人としては目くじらを立てるほどの事でもないわ。 ……見た目以上に幼すぎるようだけど、ね?」

 と、大人らしくない嫌味を少女に向けてみる。 

 満面の笑みで嫌味を言う私に表情ひとつ変えることなく(さすがだ……)再度頭を下げる支配人さんに、にっこりと微笑みかけて部屋の鍵を催促する。 そろそろ晩ごはんの支度を始めたいからね。

 この宿に対して何も含む所がないのが分かったのか、支配人さんはとても丁寧なしぐさでスタンダードルームの鍵を渡してくれて、少年にはフロントクラークさんがスーペリアルームの鍵を渡した。

 ……幼い子供扱いをされて顔を真っ赤にして怒っていた少女がそれを見て何かを言いかけたようだけど、少年の視線を受けたお付きの女性が素早く少女の口を塞ぎ、それを見届けた少年が改めて私に視線を向けた。

 少年は頭を下げこそしないものの、不躾な少女いもうとの態度を詫び、彼女のわがままを受け入れたことへの礼を口にする。 そして、そんな少年の態度を不服に思った少女がお付きの女性の手を振り払って何かを言いかけたのを遮るように、

「可愛い可愛い私のフィオーレ。君はこの方の言う通り、まだまだ幼すぎるようだね。 そんな君を人前に出しては家の名に傷がついてしまう。 
 残念だが明日以降のお茶会には出席させられないよ。 それとこの宿にいる間、君は部屋から出ることを禁じる。駄々を捏ねてまで代えてもらった部屋の中で過ごせるのだから、何の問題もないだろう?
 ……連れていきなさい」

 なかなかに厳しい沙汰を下した。

 ❝お茶会に出さない❞と言われた少女が絶望したように取り乱し、涙をこぼしながら許しを請うても少年は意見を変えない。 微笑みながら首を横に振り彼女の願いを却下する。 

 ……妹に甘々なお兄ちゃんかと思ったら、なかなか厳しいお兄ちゃんだったらしい。 

 ……ほんの少しだけ少女を気の毒に思ったけど、この宿に宿泊している間、彼女に絡まれる可能性がなくなったことに気分を良くした私は少年と微笑みを交わし合ってからフロントを離れた。

 早く部屋を整えてごはんの支度をしないと、約束の時間に間に合わなくなってしまう。

 初めて使う食材なんだから試作&試食をしないといけないしね。

 時間との戦いが始まるぞ!!
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