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タダでは負けないミルコ。 と、サブマス
しおりを挟むほどなく戻って来たミルコは、これから戦いに赴く戦士のような表情をしていた。
さっき入室して来た時は余裕な雰囲気を醸していたし、退室する時は後悔を滲ませながらも悔しそうな表情だったのに、今度は何を考えているのか……。
「88匹規模のゴブリンの巣の解体褒賞金は、50万メレだ。不足分の45万メレを持って来たので確認してくれ」
警戒レベルを引き上げた私の前で、ミルコはさっきのことを改めて謝罪してから席に着き、テーブルの上に中銀貨を4枚と小銀貨を5枚置いた。
さっきディアーナが持って来てくれたギルドの依頼報酬の5万メレと、褒賞金の5万メレを合わせて55万メレ。臨時収入としては悪くない。
内心ほくほくしながら受け取り、インベントリに収納する私を見ていたミルコは、
「ランクを上げたくない理由があるのなら教えてもらえないだろうか」
真剣な表情で話を蒸し返した。
「………」
「君は治癒魔法に長けているだけでなく、戦闘能力にも秀でたものがあるだろうと解体部から報告が上がっているし、テイムしている魔物たちも揃って優秀だとセラフィーノが手放しで褒めている。 何よりもギルマスや上位ランク冒険者を相手に、ギルドの宿泊区域をあそこまで破壊できた君の実力は疑いようがない。
そんな君がランクを上げたがらない理由を、今後の為にもぜひ聞かせて欲しい」
そう言って再度頭を下げるミルコからは悪意を感じない。ただ、気迫?のようなものを感じるだけだ。
……別にそこまで真剣に聞かれるほどの理由があるわけではないので、私としても気まずくなって来た。 今回のランクアップを辞退したのは、
・ミルコのやり方に反感を持った
・<冒険者>の仕事などを詳しく理解するために、しばらくはゆっくりと活動するつもりだった
・指名依頼などで束縛を受けるのが嫌だから
という理由だからね。 最初と最後の2点は、ただのわがままだと受け取られても仕方のない答えだし。
「……そうか。私の態度が問題だったのか」
ポツポツと答える私の話を真剣に聞いていたミルコは、私が話し終わると大きく深いため息を吐き、
「そうか……。君は<商人>である前に<冒険者>なのだな。損得だけでは動かない……。 私が愚かだった」
私のことを<商人、ついでに冒険者>だと思っていたことを告白した。 ……黙っていればわからないのにね?
「冒険者ってヤツは、頭だけで理解できることばかりじゃないからな。 今回のことはいい勉強になっただろう。今後に生かせればそれでいい。
………俺もアリスで再勉強した口だからな」
ミルコが反省と後悔をしているのを見て、ギルマスがミルコの肩を優しく叩きながら慰める。
でも、それは、
「はい。私はもっと、<冒険者>たちのことを理解できるように視野を広げます。
………宿泊区域の修繕費はギルマスと彼女の部屋を強引に訪れた3人の冒険者たち、それと酒場兼宿屋のマスターに半額分を出していただくつもりなので、よろしくお願いします」
「ま、待て! 俺たちはアリスへの詫び料の支払いで懐の余裕が……!」
とんだ藪蛇になってしまったようだ。 ……ご愁傷さま!
「だったら、BランクではなくCランクへのランクアップなら受けてくれるか?」
ギルマスの慌てる姿を楽しく鑑賞していると、それまで黙って何かを考えていたサブマスが急に立ち上がり、私に向かって右手を差し出しながら言った。
「は?」
「指名依頼が入るのはBランクからだし、見た所ミルコへのわだかまりもないようだ。 ギルドや冒険者のルールや世間一般の常識については、ディアーナだけでなく私も力になると約束しよう!
だから、せめてCランクに上がってもらえないか!?」
Cランクなら断るのが面倒な❝指名依頼❞を受けることがなく、あるのはせいぜい❝依頼主の希望として相談されるだけ❞だ。 拒否権は冒険者側にあるからそこまで面倒なことはない。
が、Cランク冒険者になると護衛依頼の受注が可能になる。
「私はソラル…はもういいか…。ガバン伯爵家やその関係者の絡む依頼は一切受けたくないんだけど、Cランクでそれは可能? 手が足りない時にギルドから押し付けられる可能性は?」
ガバンの名を出すと、「隣とはいえラリマーとガバン伯爵領には距離がある。わざわざラリマーのギルドに依頼を出すこともないだろう?」と不思議そうな顔をされた。 ……そりゃあ、そうだよね。
「大規模な引っ越しになると、足りなくなる手を近隣から集める可能性はない?」
「……どういうことだ?」
ギルマス達の反応を見て、まだ話がここまで届いていないことを確信する。 これは私が言ってしまっても良いものか……。 少しだけ悩んだけど、近いうちにここのギルドにも届くだろう事柄なので話すことにする。
「ギルマスは❝オスカー❞という名の元冒険者に知り合いはいる? かなり強いおじいさんなんだけど。 どこかのギルドに職員として勤務していた経歴もあるみたい」
「………!? ……それは王都のギルドマスターだったオスカー殿の事か!?」
「アリスはオスカー師(せんせい)と知り合いだったのか!?」
私の突然の質問にギルマスだけでなくサブマスまで立ち上がり、それを見ていたディアーナやミルコまでもが顔色を変えた。 とりあえず、心当たりはあるらしい。
「じゃあこれを読んで。話の続きはそれからね」
インベントリから取り出した手紙をギルマスの前に置いて、彼がそれを読み終わるのを待つ間に開示する情報を整理する。
取り出した手紙は2通。 1通はもちろんオスカーさんからの手紙。
「わたしにも読ませてくれ!」
手紙を読み終わるなり硬直したギルマスから手紙を奪ったサブマスは、
「これは、間違いなくオスカー師の筆跡……! そしてこれは………、モレーノ殿下!? あ、いや、モレーノさまからの……!」
2通を読み終わるなりギルマス同様に固まってしまった。
オスカーさんとは間違いなく知り合いのようだし、これで安心して続きを話せる。
………まあ、とりあえずは。
動きを止めてしまった4人が回復するまでの間、お茶でもしていようかな……。
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