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再交渉

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「私は眠る直前にリカバーや魔力増し増しのヒールを使っていたんだけど…、MPって少し寝るだけで回復するものなの? それとも、最初からこの激マズポーションを飲ませることを前提にしてた?」
「…………」

「寝込みを襲っただけじゃなく、私の体調は何一つ考慮してくれなかったってことよね?」
「………」

「ギルドマスターともなると、冒険者登録をしたばかりの小娘は好きなように顎で使える存在ってことなのかな?」
「…………すまん」

 怪我人が呻いている側で、何をのんきにおしゃべりしているのか気になる? 

 ただいま、追加の慰謝料(?)について交渉中なのです。

 3階で聞いていたのは❝重傷者がいるから治療して欲しい❞ということだったけど、人数の確認はしていなかった。ギルドマスターくまが「あいつ」と言っていたのを聞いて1人だと思い込んでいたけど、この場には彼以外の怪我人がまだまだ転がっている状態だ。

 治療を受けていない彼らを放っておくのは後味が悪い。どうしたものかとハクと相談している私の前に、おずおずと差し出されたのは<MPまりょくかいふくポーション>。

 なんだろう?と首をかしげる私に、苦笑しながらハクが教えてくれたのは、<MPポーション>=魔力が回復する代わりに素晴らしく不味い、ある意味<増血薬>の兄弟姉妹のようなポーションだということだった。

<増血薬>の不味さは、これまでに飲んだ人の反応から推測できるし、<MPポーション>の不味さは、さっき治した怪我人に対して治癒士たちが❝飲んで魔力を回復させてから治癒を行うことを拒否❞したことから推測できる。

 きっと、とんでもなく不味い物なんだろうなぁ。とポーションの小瓶を眺めていると、何を思ったのか追加の魔力ポーションが3本出てきた。 

 いや、治癒の為の魔力が足りなくて困惑していたんじゃないんだよ。 最初にこの状況を説明してくれなかったギルマスたちを恨むのか、詳しい状況確認を怠った自分を反省するのかを検討していたんだ。

 でも、それぞれの手に<MPポーション>を持ってこちらを見ているギルマス達を見て、心が決まる。

 最初に治療の依頼に来た時から、私1人に全員の治療をさせる為に❝とんでもなく不味い❞MPポーションをがぶ飲みさせるのが前提だったんだね。 

 ……私のMPはここにいる怪我人を全て治せるくらいの余力があるけど、それとこれとは話が別だ。 苛立つ心のままにギルマスを睨みつけて、再交渉を開始した。

 治療費に関しては、規定以上の上乗せをするつもりはない。でも、このまま相手の望むままに治療を行うのは今後の為にも良くないだろうし、何よりも私の肩の上で毛を逆立てているハクと、抗議するように縦に伸び縮みを繰り返しているライムが許さないだろう。

 一番簡単なのは、ギルドをパンクさせるほどの治療費を吹っ掛けて、さっさと次の街へ移動することなんだけどね。 せっかくディアーナさんのような人に<担当>してもらえるんだから、しばらくはこのギルドで活動しながら<冒険者>としての勉強をしたいと思う。

 ……そっか、ディアーナさんだ!

 他のギルド員たちと一緒に懸命に治療にあたっているディアーナさんを見ながら考えをまとめる。 うん、ふとした思いつきにしては、私にとってとてもいい考えのような気がする。

 私はMPポーションを持ったままこちらを見ていたギルマス達に向かって、にっこりと笑顔を浮かべて見せた。









「ここにいる全員の治療を1,800万メレで引き受けてもいいわ。
 その代わりに明日からの1週間、街の案内と観光のお供にディアーナさんを派遣してくれない? もちろん、ディアーナさんには特別手当もつけてね!
 ああ、ディアーナさんが抜ける穴はギルドマスターが埋めてね。たまには受付に座って冒険者たちの仕事ぶりを直に見るものいいでしょう?
 私の寝込みを襲った冒険者の3人は、ギルドの依頼を受けてもらおうかな。 低ランク冒険者向けの依頼の中で、みんなが受けたがらない種類の依頼を、そうねぇ…、3人で1週間の間に15件をノルマにしようかな!
 ……どうする?」

「「「「「………」」」」」

 とびきりの笑顔を浮かべた私の提案に、4人の男くま達とディアーナさんは困惑顔だ。 

 だけど、この提案が通ったら色々と調整作業に追われそうな立場のサブマスターだけは、ニヤリと唇を歪めて見せる。

「ここにいる全員の治療費が1,800万メレなら随分とお買い得じゃないか! お前たちは当然、その条件を飲むだろう? 
 ディアーナへの特別手当は、そうだねぇ……。お嬢さんは買い物をすると言っていたから、その時に一緒に服でも買って来ると良い。 もちろん、新しい服だ!」

 サブマスターの楽し気な様子に、4人の男くま達はくぐもった声を漏らし、ディアーナさんはポカンとした表情かおで私を凝視し、ハクとライムは楽し気な鳴き声を上げた。

 ……本当はこの人がギルドマスターなんじゃないのかな? 

 サブマスを見ているとマルゴさんを思い出して、少しだけ、心が和んだ。
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