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ハクの加護
しおりを挟むたまに出てくる低ランクの魔物を倒しながら歩き続け、『スフェーンの森』にたどり着いた時には辺りはもう薄暗くなっていた。
今日はここで野営して、森へ入るのは朝日が昇ってからの方がいいだろう。
そうと決まれば早速、
「【アブソープション】」
魔石から魔法を取得しよう♪
覚えのある熱が心臓を通して体を満たす。熱が収まると同時に発動!
「【気配遮断】」
……何も変わった気がしない。 自分ではわからないだけかな?
でも、ハクとライムの反応も特にないからなぁ……。 この魔法の検証は、魔物を見つけてからにしよう。
「気を取り直して、【アブソープション】!」
今度も覚えのある熱が……、あれ? あれれ?
魔石から感じる熱が手のひらで留まったかと思ったら、そのまま散ってしまった。 でも、魔石の色に変化はなし。
「【アブソープション】!!」
もう一度試してみても、今度は魔石からの熱を感じる事すらない。
魔石を鑑定してみても、スキルの魔石であることに間違いはないのに…。
「やっぱり取得できなかったのにゃ」
うろたえる私にハクがボソッと告げるのは、私の期待した言葉ではない。
「❝やっぱり❞って、なに!? 私は【アイテムボックス】のスキルを取得できないの!?」
「アリスには【インベントリ】があるのにゃ。【アイテムボックス】のスキルはインベントリの下位スキルだから、取得できなかったのにゃ」
「そんなぁ……」
【アイテムボックス】のスキルを手に入れたらやりたいことがいっぱいあったのに……!
おいしい野菜を使ってお漬物、お味噌が手に入らなかったら大豆からお味噌を作ろうと思ってし、鰹に似た魚がいたらお出汁の為に鰹節を作ろうと楽しみにしていたんだ!
時間経過のないインベントリはとっても便利なスキルだけど、❝発酵❞や❝熟成❞が必要な食品は作れない。
発酵や熟成が必要な食品がどこにも売っていなかったらどうすればいいの? いや、醤油はあったんだからお味噌だって当然あるハズ! でも、一体どこで手に入れればいいのか……。
拠点! 拠点を作ればいいの!? ラリマーに着いたら家を買うべき?
「アリス! アリス! 落ち着くのにゃ」
「痛いっ!」
家を買うならハクとライムの部屋はどうするのか。別々の部屋にしたら、私が寂しいと考えていると、頬にチクリとした痛みを感じた。
……目の前に浮いているハクに頬を噛まれたらしい。
いつものことだけど、ちょっと荒っぽいよね? まあ、お陰で落ち着いたけど。
【アイテムボックス】が手に入らないことは仕方がない。 気を取り直そう。
次の準備として、取得したままほとんど検証ができていない【隠蔽】魔法の検証を始める。
「【鑑定】そして【隠蔽】!」
「うにゃっ…」
今までハクに掛けてもらっていた隠蔽魔法。今度からは自分で掛け直せるようになったんだ。今まで以上に安全にスキルを隠せるようになったけど、自分たちがどんな隠蔽をしているかを忘れないようにしないとね!
手始めにハクのステータスを隠蔽してみる。
ハクは出会った頃からレベルもステータスもスキルも変わっていない。 レベル1のままでこれまでいろいろな【魔法】を使ったり私を守ってくれたりしているんだから、<神獣>のレベルが上がったらどれだけのことができるのか。 とっても楽しみだ♪
「【鑑定】と【隠蔽】!」
「ぷきゃ~…」
次はライム。 ライムは順調に成長しているようでレベルが2つ上がって……、あれぇ?
「【鑑定・ダブル!】」
「にゃっ!?」
「ぷきゅ!? ぷきゃ~……」
なんとなく、本当になんとな~く感じた違和感が気になって、ライムに鑑定魔法を重ね掛けしてみた。
ライムに、隠蔽を解かれる時特有の不快感を何度も味わわせるのはかわいそうだけど、どうしても気になってしまったんだ。
名前 :ライム
年齢 :0歳
種族 :リッチスライム
職業 :アリスの従魔
レベル:3 → 5
HP :35 → 135
MP :10 → 110
攻撃力:20 → 50
防御力:15 → 215
スキル:温存
備考 :テイムなしで従魔になった変り種。
:神獣の加護
「……なに、これ?」
気になったのはステータスの上り幅。 レベルは2しか上がっていないのにHPやMPが100も上がっていたり、攻撃力はともかく、防御力が200も上がっていることに違和感があった。
でも、今気になるのはそんなことじゃない。
「<神獣の加護>って、なんのこと?」
「【鑑定】の重ね掛けなんてズルいのにゃ……」
「きもちわるかったよぉ…」
身を寄せてぶつぶつと呟いている2匹を問い詰める。
「もう一度聞くよ? <神獣の加護>って何のこと!?
ハクがライムに相談せずに勝手にしたの? だったらハクはしばらくごはん抜きだね!」
ごまかそうとしているのか、私の質問には答えずに身を寄せて「きもちわるかった~」「かわいそうにゃ」などと言い合っている2匹に脅しをかけてみる。
ライムの反応から、ハクの独断ではないと判断しての脅しだ。案の定、
「そ、そんにゃ…!」
「はくはわるくないよ! はくはぼくをつよくしてくれたの…!」
心優しいライムがハクを庇って、本当のことを話してくれる。
「ぼくはすらいむだから、ゆだんしているとすぐにしんじゃうけど、はくのおかげでつよくなったの!」
「でも、ライムは初めて会ったときはそんな加護はついていなかったよね? 従魔になってくれた後に加護をもらってステータスが変わったなら、一言言ってくれてもいいんじゃない?
そもそも、ハクの加護があることを私に隠す必要なんてないでしょ?」
❝隠す❞ということは、❝疾しいことがあるからだ❞!と決めつけてやると、ライムは身を震わせて大声で訴える。
「ちがうよ! はくはありすがだいすきなだけ!! だからおこらないで!」
ん?
「ありすのいちばんははくでいいの! ぼくはにばんでいいんだ!」
んん?
ライムの言い訳は、私が思ってもみないことだった。 思わずハクを見つめると、ハクは元々小さい体をより小さくして、私に背中を向ける。
「…ハク?」
名前を呼んでみると、小さな前足で頭を隠すように抱え込む。 ……珍しい反応だ。
2匹の側に腰を下ろして、ゆっくりとハクの背中を撫でてみる。
❝ピクリッ❞と動いただけで、何も言わないハクを何度も何度も根気よく撫で続けると、小さな声で「ごめんにゃぁ…」と呟くのが聞こえた。
ぽつり、ぽつりと話すハクの言葉をまとめると、ただただ私の❝一番❞でいるためにライムに❝加護❞を与え、自分の下に置いたらしい。
ハクとライムのどっちがかわいいとかどっちが1番なんて考えたこともないんだけど、ハクはそれでは不服だったようだ。
でも、この世界に来て一番最初に会ったハク。 ビジューが私の為にこの世界に送ってくれたハクをないがしろにするつもりなんて、最初からない。
ライムももちろんとっても可愛いんだけどね。
私に黙っていたことには少しだけ引っかかりを感じなくもないんだけど、ライムがそれで納得しているようだし、2匹がとても仲良しなのは誰が見ても間違いのないことだ。
だから、今回だけは目をつぶることにしよう。
「バカだねぇ…」
「にゃ…」
私はハクの体を両手で包んで胸元に抱きしめた。
「ハクもライムも可愛い私の従魔。 でも、私の為に生まれてきてくれたのはハクだけだよ? ハクがそんなことを心配する必要なんてどこにもないのに」
❝バカ❞と言われてショックを受けているらしいハクをゆっくりと撫でながら言葉を尽くす。
どんなに2匹を大切に思っているか。どれだけ2匹に感謝しているか。
そして、ハクには思い出してもらおう。
どうしてライムを従魔にしたのか? それは他でもない、ハクが勧めてくれたから。
ライムも一緒に抱っこして、ひとまとめになでなでしながら言葉にする。
2匹ともとてもかわいい。 でも、あえて順位を付けるのなら、『ハクが不動の1位なんだ』と心を込めて。
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