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初めての馬車旅 27
しおりを挟む魔物たちも空気を読んだのか、今日の移動ではほとんど姿を見せなかったので、私たちは眠りを邪魔されることもなく、未明のハーピー襲撃で疲れていたサルたちもゆっくりとできたようだ。
そのせいか、今日はサルたちに絡まれることもなく穏やかな1日になった。
「これには肉を入れないのか?」
「うん、旅を始めてから野菜が足りてない気がするからね。これは野菜だけでいいや」
イザックが包丁で切ろうとしているサンドイッチはスライスしたトマトとレタス(とマヨネーズ)をたっぷりと挟んだだけのもので、イザックの好みには合わなかったらしい。 切なそうな顔で具材を眺めている。
「肉系の具材を挟んだものは、アイテムボックスにたくさんあるから大丈夫だよ~?」
休みなくから揚げを揚げながらイザックに告げると、イザックだけじゃなく、ハクまで大喜びでライムに飛びかかっている。
野菜も食べた方がいいと思うんだけど、ハクは猫(虎)だから肉食でも問題ないかなぁ。
((ごちそうさま)にゃ!)
「ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末さまでした」
約束通りに、ハクとライムが満足するまでから揚げを揚げ続けた結果、ハーピー1体分がきれいに2匹の体の中に消えた……。
ハーピーは私よりも大きい体を持っている魔物だ。 頭と上半身を除いたとはいえ、鶏とは比べ物にならないくらいのお肉があったのに……。
いつも思うけど、2匹の胃袋は異空間に繋がってるに違いない!
「イザックも、から揚げばかりよく食べたね。胸やけしてない?」
「大丈夫だ。 キャベツの千切りも出してくれただろう? ちゃんと野菜も食ってるからな!」
おいしそうにから揚げを食べ続ける2匹に釣られて、途中からイザックも参戦した。 水を飲みながらから揚げと千切りキャベツを黙々と(嬉しそうに)頬張る姿は、フードファイターにしか見えなかったよ。
「なあ、なんでこの飯を❝粗末❞なんて言うんだ? どう見てもごちそうじゃねぇか」
食器の片づけをしながらから揚げを揚げ続けている私に、イザックが不思議そうに聞いたけど、
「ん? ……私が食材を準備して、私が作った物だから、かな?
❝ごちそうさま❞って言ってもらったら❝お粗末さま❞って返すのが当たり前だったから、深く考えたことがないんだけど、『おいしく食べてくれてありがとう』の気持ちかなぁ?」
あまり突っ込まれると困るなぁ…と思いながら答えると、納得できなかったらしいイザックが「『おう、美味かっただろう!』じゃダメなのか?」と首をかしげる。
さすがにそれは、ねぇ? どれほどの自信家なの?って感じになるよね。
返答に困って曖昧に笑って見せると、イザックもそれ以上は突っ込まないでくれた。 感謝のしるしに冗談半分で揚げたてのから揚げを1つ差し出すと、嬉しそうに笑って頬張る。 …まだ、入る余裕があったのか。
ハクとライムにも1個ずつ渡すとご機嫌に噛り付いた。 さっきお腹いっぱい食べたと思ったんだけど…、もう驚かないけどね~。
から揚げや照り焼きばかりじゃ飽きるから、何か他の調理法を考える。
ただ焼くだけでは面白くないし、煮る? ん~…、鳥ハムはどうだろう? サンドイッチの具材にもなるし、そのままワインのおつまみにもなる。 普通におかずとして出してもおいしいしね!
さっそく作ろうとして、ビニール袋やラップがないことで躓きかけたけど、代替品を探してインベントリのリストを探すと、スライムが目に付いた。
1匹取り出してじっくりと指先で核の場所を探り当てる。できるだけ核を端に寄せてから切り離し、少し時間をおいてから、核がない方の大きい半分を手に取ってジェルを絞るように取り出す。
❝スルンッ❞と抜けたジェルは大切にインベントリにしまって、残った<皮>を手に取り、【クリーン】を掛けてからじっくりと観察する。
ビニール袋に比べると分厚いんだけど、柔らかいから変形させるには問題ない。 水を入れてしばらく待っても漏れることもないし、使えそうだ♪
さっそくハーピー肉にフォークをザクザク突き刺して、塩コショウで味付けをする。 ん~、生姜と薬草も入れちゃおうかな!
念のために何度も【クリーン】を掛けたスライムの皮の中に肉と生姜、薬草など必要なものを全て鍋に入れてから、イザックに預ける。
「何ができるんだ?」
「秘密!」
❝ワクワク❞といった感情を隠さずにイザックが聞いたけど、失敗の可能性もあるから、今はまだ秘密。
ハクやライムもソワソワしているけど「続きは明日の夜。明後日の朝ごはんに食べようね!」と伝えると、興味をなくしたのか、また2匹でじゃれ始めた。
今夜はこれくらいにしておこうかと片づけを始めると、御者用のテントから誰かが出てきた。 トイレかな?と思ったけど、迷いなくこちらに近づいてくる。
「ディエゴ?」
まだ夜明け前なのに、いったいどうしたんだろう?
……もう、面倒事はごめんだよ~?
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