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初めての馬車旅 25

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 ハーピーを回収してみんなの所へ戻ると、ディエゴや乗客たちはまだ馬車の中にいるようだった。 この辺りには血の臭いが充満しているから、それが正解だろう。

 イザックが困った顔をして怪我をしているらしいサルとビビアナを見ている。

 それぞれに座り込んでいる2人の周りには空瓶が転がっているから、ポーションを飲んで回復するのを待っているのかな。

 イザックが倒したハーピーを預かってから2人を【診断】してみると、ビビアナは毒に侵されていた。

「ビビアナは毒消しを飲んだの?」

「ああ。 ハーピーの爪にやられた傷があったから一応飲むように言ったんだが…」

「でも、薬を飲んだ形跡がないんだけど…」

 確かに空瓶は転がっているけど、【診断】に『解毒中』とは出ていない。 サルの方には『回復中』とあるから、ビビアナにもあるはずなのに。

「やっぱりそうか…。俺も気になっていたんだ。毒の症状が出る前に解毒薬を飲んだから、本来ならポーションで簡単に回復するはずなんだが、あの通りだからな」

 話している間も、ビビアナの顔色はどんどん土気色になっていく。

「アリスは【薬師】スキルも持っているよな? 【鑑定】で薬のこともわかるか?」

 普通の【鑑定】でもわかると思うけど、【薬師】とリンクしている【鑑定】ならもっと詳しいことがわかるだろう。 コクンと頷くと、

「おい! さっき飲んでいた解毒薬をまだ持っているか? 持っていたらちょっと見せろ」

 イザックに声を掛けられたビビアナがゆっくりと頷いてアイテムボックスを開こうとすると、

「これと同じ物だ…」

 サルが自分のアイテムボックスから薬を取り出した。 急いで鑑定してみる。

「……これ、随分と粗悪な品だね。 効き目はほとんどないよ」

「なんだと!?」

「違うものはないの?」

 この薬の前に買っていたものとか新しく買ったものはないかと聞いてみると、サルは悔しそうに唇を歪めた。

「これしかない。前の物を切らして新しく買ったのがそれだ」

「そっか……。 イザック?」

 ないなら仕方がない。 私が【キュア】の魔法を使おうとすると、イザックが無言で私の口を塞ぐ。

「………?」

「だったら取引だ。 3万メレでキュアをかけてやる」 

「金を取るのか!? 3万メレだと!?」

「俺たちは一つのパーティーじゃ無いんだから当然のことだろう? それと、この戦闘でアリスが馬車に使った防御魔法を口外しないこと条件に治療をしてやる」

 ただで治療をするのがダメなのかと思っていると、イザックは治療費とは別に私の使った魔法の口止めを始める。

「ああ?」

「アリスはまだ<冒険者登録>をしていない。 登録後しばらくは冒険者としての勉強をさせてやりたいんだ。 護衛依頼が殺到して、その時間を奪われるのは迷惑だ」

「…………わかった。 俺はわざわざ他の冒険者の宣伝をしてやる気はないからな。口外しない」

「なら、ビジュー神に誓いを立てろ。 ビビアナもだ」

 サルがビジューに誓いを立てているのを聞きながら、イザックは苦しそうな息をしているビビアナにも誓いを立てるように迫った。

 ビビアナが辛そうな声で途切れ途切れに誓いを立てていると、先に誓い終わったサルが治療費を払いながら、

「先に治療をしてやってくれ。ビビアナには後からちゃんと誓いを立てさせる」

 とイザックに頼んだけど、イザックは首を横に振る。

「ダメだ。先に誓え」

「こんなに苦しんでいるのを見ていて、あんたたちは何とも思わないのか!?」

「ああ。早く治療をしてやりたいと思うぞ。だからさっさと誓わせろ」

「後からでもいいだろう!?」

「ダメだ。瀕死の状態や意識がないのならともかく、ビビアナの意識はまだちゃんとある。 おまえ達の『後から』なんて口約束を信用する材料がどこにあるんだ?」

 いつも優しくて面倒見のいいイザックが毒に侵されて弱っているビビアナを前にとても非情だけど、私の為にしてくれているとわかるから口を出さず、ビビアナが誓い終わるのをじっと待つ。

 ビビアナが回復した後に「そんなこと、自分は知らない」と言ってしまえば口止めは難しくなるし、この話が広がれば、私は『便利な上に甘いヤツ』だとカモ認定されるかもしれない。 

 厳しい態度で私を守ると同時に、今後の対応の仕方を教えてくれているんだとわかるから、私は心の中で(ビビアナ、早く誓いを立て終わって!)と祈るように思いながら、ただ見ていることしかできなかった。








 誓い終わったビビアナに<キュア>を掛け終わると、すぐにイザックが2人と口裏合わせを始めた。

 馬車を守っていた攻撃魔法に対する結界はなかったことにして、ハーピーの魔法攻撃は私とビビアナが魔法で撃ち落としたことになった。 ビビアナの実力の低さから、魔法防御の主力は私ということになってしまったけど、それでも1人ではなく2人だという所がポイントだ。

 後はそれぞれが個々に撃退して襲って来たハーピーの群れは殲滅。私たちは怪我を負ったけど、ポーションで回復した、と。

(イザックは頼りになるのにゃ!)
(いざっく、ありがと~!)

 話が付いた途端に2匹の感謝の突撃を受けたイザックは、さっきまでの厳しい表情を瞬時に消して嬉しそうに2匹を受け止めた。

「ハクはハーピーにも止めを刺せるなんて凄いな! ライムはちゃんとアリスのマントの中でおとなしくできて偉いぞ!」

 イザックに褒められた2匹もとても嬉しそうだし、私の評判も守られた(サルとビビアナが今回のことをどう思っていても気にしない。 もしも『非情な女』とか噂を立てられたとしても、望む所だ!)。

 楽しそうなイザックと従魔たちを見ながら、私は馬車の中のみんなに「もう大丈夫だから、さっさとここから移動しよう」と声を掛けに行った。
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