269 / 754
旅立つ前には準備がいっぱい 3
しおりを挟む「料理長を褒めてやらなくてはならないな」
モレーノお父さまが笑い出すほどに、今朝の食事は料理人の気合が入ったものになっていた。
味ももちろんだが、彩りや盛り付けがとにかく素晴らしい。 私があまり得意ではない分野なので、目に焼き付けるようにしながら、一品一品をゆっくりと楽しんだ。
「魔物…、オーククラスがそれなりにいて、薪にする為の木を伐採しても問題のない場所?」
「うん。手持ちのオーク肉が少なくなってるから、オークが生息していて、おいしい水の沸く泉とかがあれば最高」
食後のお茶を楽しんでいるとこれからの予定などを聞かれたので、お勧めの場所がないかを聞いてみた。
「……ここから300kmほど北へ向かうと『ラリマー』という街があって、その途中…、そうだな、270km位の所を少し東に行った所に『スフェーン』という森があるんだが、そこはどうだ? 森だから一応水はあるぞ」
「ラリマーの領主はなかなかのやり手だが、悪い噂は聞かないな。 悪くないだろう」
アルバロが勧めてくれた『ラリマー』の街と『スフェーン』の森は悪い場所ではないらしく、お父さまはラリマーの領主を褒めているし、マルタとエミルは「スフェーンか。あたしも行きたいな」と頷いているので、そこに行ってみようかな。
「アリスお嬢さま。 浴室の仕度が整っておりますのでお時間に余裕があるようでしたらお使いになりませんか?」
心が決まりかけていると、ノックの音がしてメイドさんが部屋に入って来る。
(お風呂にゃ!)
(はいる~!)
私より先に従魔2匹が嬉しそうに反応したので、ありがたく使わせてもらうことにした。
これからしばらくはお風呂に入れないことを理由に、世話を焼きたがるメイドさんを説得してハクとライムと私だけでお風呂に入らせてもらう。
ぷかぷか浮かぶライムに顎を乗せて、目の前を楽しそうに猫掻きで自在に泳いでいるハクを眺めながら、この街で過ごした時間を思い返す。
良いことも嫌なこともたくさんあった忙しい10日間だったな……。 モレーノお父さまや護衛組を始め、色々な人に出会って、助けられた…。
うん、楽しい10日間だった!!
もう少しこの町でゆっくりと過ごしてみたかったけど、あまりゆっくりすると次の土地に移動するのがイヤになりそうだから、いいタイミングなんだろう。
ビジューに貰った戦闘服に身を包み、腰に<鴉>を佩いてお父さまの部屋へ向かうと、タイミングよくお父さまが部屋から出てきた。
お父さまに案内された応接室でアイスクリームを食べていると、護衛組が次々に部屋に入ってくる。
みんなが息を切らしているのを不思議に思っていると、
「『スフェーン』へ行くなら『ラリマー』行きの馬車に乗って途中で降りると楽だ。 昼前に出る馬車があるんだが、乗って行かないか?」
と聞いてくれる。 歩いて旅をするつもりだったけど、せっかく勧めてくれているんだから乗ってみようかな。
予約もなしに乗れるのかと聞くと、マルタが馬車のチケットを渡してくれる。
「餞別代りに受け取って」
と言ってくれるのでありがたく貰っておくことにした。
「ありがとう!」
マルタにお礼を言うと、マルタは寂しげに笑って私を抱きしめる。
「…………」
何も言わずにしばらく抱きしめてくれてからゆっくりと体を離し、
「あたしもアイスを食べたいわ!」
と笑った。お昼まではまだ時間があるし、湿っぽくなるのはイヤだったから、喜んでインベントリからアイスを取り出す。
「イザックは?」
部屋にいないイザックがどうしたのかと聞くと、みんなは何かを含んだような楽しげな笑顔で笑い出す。
「イザックはしばらく戻ってこないだろうから、代わりに俺が食うぞ! ああ、馬車の乗り場には来るから心配はいらん」
とアルバロが言うと、マルタとエミルが「イザックの分は自分が食べる!」と主張した。 インベントリに入れておけば溶けないんだから、代わりに食べる必要はないんだけどね~?
タイミング良くモレーノお父さまがおかわりを求めて器を差し出したので、イザックの分はお父さまが食べることで決着は付いた。
3人の恨みがましい視線を浴びても、嬉しそうにアイスに手を伸ばすお父さまは、やっぱりなかなかな性格をしていると再認識した。
ラリマーの街の噂やスフェーンの森に生息している魔物や採取物の情報を聞いていると、あっと言う間に時間が過ぎて、馬車の停留所に移動する時間になってもイザックは戻って来なかった。
まあ、馬車の停留所には来てくれるらしいから、お別れを言うのはその時でも大丈夫だけど。
屋敷のみんなとの別れをすませて玄関を出ると、そこにも門番さんや庭師さんが立っていて、昨夜の食事のお礼を言って別れを惜しんでくれる。
たったの2日間お世話になっただけなのにここまで心を砕いてくれることをありがたく感じ、後ろ髪を引かれる思いがしたけど、笑顔を浮かべてお別れを言った。
モレーノお父さまの人柄が良いせいか、使用人のみんなもとってもいい人たちだったな。 メイドさん達にはちょっと困らされたりもしたけどね。 きっと良い思い出になるだろう。
お父さまの家の馬車で、ラリマー行きの馬車の停留所まで送ってもらう。 何回か乗せてもらった馬車よりも一回り大きな馬車で、お父さま、アルバロ、マルタ、エミルと私に従魔2匹が一緒に乗っても、窮屈な感じはしなかった。
今回の御者は執事のフィリップが務めてくれている。 執事って、いろいろと器用なんだなぁ~。
117
お気に入りに追加
7,544
あなたにおすすめの小説
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
家族で異世界転生!!
arice
ファンタジー
普通の高校生が神のミスで死亡し異世界へ
シリアス?あるわけ無い!
ギャグ?面白い訳が無い!
テンプレ?ぶっ壊してやる!
テンプレ破壊ワールドで無双するかもしれない主人公をよろしく!
------------------------------------------
縦書きの方が、文章がスッキリして読みやすいと思うので縦書きで読むことをお勧めします。
エブリスタから、移行した作品でございます!
読みやすいようにはしますが、いかんせん文章力が欠如してるので読みにくいかもです。
エブリスタ用で書いたので、短めにはなりますが楽しんで頂ければ幸いです。
挿絵等、書いてくれると嬉しいです!挿絵、表紙、応援イラストなどはこちらまで→@Alpha_arice
フォロー等もお願いします!
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
【5/22 書籍1巻発売中!】
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる