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旅立つ前には準備がいっぱい 1
しおりを挟む朝、メイドさん達に遊んでもらっている従魔たちを部屋に残して、私は1人でモレーノお父さまの執務室を訪ねた。
「「「「「おはよう」」」」」
「おはようございます。アリスお嬢さま」
「おはよう! どうしてアルバロ達がここにいるの?」
「護衛依頼が今日で完了するからな。 報告に来たんだがもう終わった。 …俺たちは出て行った方が良いか?」
今朝は庭で訓練をしている姿がなかったから部屋でゆっくりとしているのかと思っていたら、きっちりと仕事をしている最中だったらしい。
「ううん、大丈夫。 イザックを探す手間が省けてちょうど良かった」
「俺か?」と不思議そうな顔をしているイザックに、皮袋を1つ手渡す。
「イザックの元パーティーメンバーはダビに情報を流されたせいで大変な目にあったって言ってたよね? 少ないけどお見舞い。 イザックには手間をかけさせるけど、代わりに渡してくれる?」
「!? なんだとっ!?」
「だから、ささやかなお見舞い」
皮袋を受け取ってくれたのは、条件反射のようなものだったんだろう。 イザックは慌てて私に皮袋を返そうとする。
「なんでアリスがそんなことを!? 俺の元・パーティーメンバーがそんなことをしてもらう理由がないだろうっ!?」
「イザックの元・パーティーメンバーだからだよ? 他の人たちは気の毒だとは思うけど、私には関わりがないからね。 スルーしとく」
呆けたように私の目の前に皮袋を突き出したまま動かなくなったイザックの代わりに、マルタが興味津々と言った顔で聞いた。
「ねぇ、その皮袋にいくら入ってるの?」
「11,950,283メレ」
「「「「はぁぁぁっ!?」」」」
「……おや」
護衛組が大声を上げるなか、お父さまだけが冷静を保っている状態だ。 フィリップは何を考えているのかわからない顔で壁に同化している。
「ダビの部屋と持ち物を売却した分だよ」
お金の内訳を話したら納得するかな?と思っていたけど、イザックはまだ固まったまま動かない。 お金の入った皮袋はちゃんと握っているから良いんだけどね。
「それから、お父さまにはお願いがあって来たの」
「なんだい?」
お父さまはさっきからずっと微笑みを崩さずに冷静でいるので、安心してお願いごとを口にした。
「話がうやむやのままで私が受け取ることになってしまった、町長と、町長の共犯者たちの財産を、お父さまに受け取ってもらいたいの」
「………どうしてかな? 私はアリスから金を巻き上げるために、親になりたいわけではないんだが?」
あっさりと引き受けてくれると思っていたんだけど、そうはいかないらしい。 お父さまの声が低くなっててちょっと怖い。
「最初は腹が立っていたから、領主に利益を渡したくなかったの。 だから私が受け取ることにしたんだけど、この町がお父さまの領地になったから、もう、町長のお金はいらないかな…って。
お父さまなら信頼できるから、この町のために有益に使ってもらえたら嬉しいな」
言いたいことを全て言い終えてすっきりしている私とは対称的に、お父さまの眉間にはしわがよっている。 ……さっきまで穏やかに微笑んでいたのに、おかしいなぁ…。
仕方がないから、もう少し詳しく希望を話すことにした。
「あのね、ソラルに伽の相手を強要されたことがわかっている人にはこっそりとお見舞い金も渡して欲しいほしいなぁって。
それで残ったお金は<新領主>のお父さまのお名前で町のために使ってもらえたら、私としてはすっきりとして気分で旅を楽しめるの」
そこまで言い終えると、いきなり部屋に爆笑する声が響いた。 アルバロとマルタ、それにエミルだ。
「だ、ダメだ! アリスが甘いのは筋金入りだ! もう、治らないんじゃないのか? まあ、見ている方は面白いんだけどな! あははははははっ!」
アルバロはお腹を抱えて笑ったあと、
「でも、このことがハク達にばれたら大変なことになるんじゃないか?」
心配そうに聞いてくれた。
「大丈夫! 昨夜話したら2匹も賛成してくれた」
まあ、随分とごねられたけどね。 でも、町長一派のお金が無くても、これから貰う賠償金やら見舞金やらいろいろと合わせると結構な額になることを説明すると、最後には頷いてくれた。 いい従魔たちだ♪
「普通はこんなことを従魔に相談しないんだけどな。 まあ、利口なハクとライムだから納得か。 許してもらえてよかったな!」
苦笑しているエミルは普段の2匹の行動から性格をきちんと把握している。 私も昨夜の説得の時間を思い出して、苦い笑いがこぼれた。
「待ちなさい、アリス。 だったら、元・町長の財産を受け取ってから、君の名前で町に寄付をしてはどうかな? そうすれば町長不在の今、金の管理は領主の私がすることになるから結果は同じだ。 その方が君の評判もあがる」
私たちの笑い声が耳に届いたのか、お父さまが眉間のしわを消して立ち上がった。
「私の名前を出すのはちょっと……」
「……アリスは名声に興味がないようだね。君にとって名声は邪魔なものかな?」
私が言葉を濁すとお父さまは何かを察したのか、諦めたような顔で聞いた。
「うん。冒険者活動をする上でお金に興味がないと思われたら依頼主に舐められちゃうでしょ?」
昨夜、みんなにこんこんと説明されたことだ。 これで納得してくれるだろうと安心していると、お父さまが近づいてきて私の肩に手を置くと、目を合わせて真剣な声で言い聞かせるようにゆっくりと話し出した。
「いいかい? もしも旅先でアリスの金がなくなるようなことがあったら、すぐに私に連絡をするんだ。 約束できるね?」
「ええ?」
「ネフ村のマルゴの所に行く約束があることは覚えているよ。 でも、ネフ村とは離れた所にいることもあるだろう? 私の領地の方が近かったなら、必ず私に連絡をするんだ。 約束できるね? 約束できるならその仕事を引き受けよう」
お父さまを納得させるには約束をするしかないらしい。
こっくりと頷いて約束をすると、やっとお父さまが笑ってくれる。
これで一つ、今朝の仕事が片付いた♪
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