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食事会 1
しおりを挟む「これは何だ?」
「中にチーズが入った<オークカツ>でございます。細かいカットをせずに、半分の大きさをガブッと召し上がるのがよろしいかと」
「新作だな! 1枚分もらおう」
「これは何かな?」
「ハンバーグをキャベツで巻いて煮込んだものでございます。 焼いたハンバーグとはまた違った食感と味が楽しめます」
「ボアステーキをもらおう」
「ソースが2種類ございます。 どちらも素晴らしいソースですので、半分ずつ両方をお掛けしましょうか?」
「そうしてくれ!」
「美味いな! なんだこれ? スライスしたオーク肉を重ねたのか!? いつものオークカツとは違った食感で、これも美味いな! チーズもとろとろだ!」
「ロールキャベツ? 焼いたハンバーグやスープに入った肉団子とは違って、これも素晴らしい!」
「このソースの片方は新作だな? 一段と美味くなってるぜ!」
新作のメニューも概ね受け入れられているようでホッと胸を撫で下ろしていると、アルバロの悪戯っぽい声が聞こえてきた。
「あんたらこの料理に詳しいなぁ。 …さては食ったな?」
アルバロに話しかけられたメイドさんは真っ赤な顔になり、
「あの、その…。 すみません! お客さまより先になんて、その……」
しどろもどろに言い訳にもなっていない言い訳を始めた。
「なに謝ってんだ? どうせアリスが『給仕する人が味を知らないでどう説明するの?』とか言って食わせたんだろう?」
「はい…。どれも夢のように美味しかったです」
アルバロの鋭い質問に、小さな蚊の鳴くような声で答えるメイドさんは、試食の時に泣き出したメイドさんだ。
お針子さん達がドレスを直してくれている間、手が空いた私は給仕を担当してくれるメイドさん達を連れて大広間に移動し、設営をしてくれていた執事さんと合流して今夜の料理の試食会を開いた。
各料理の味見をしてもらいながら簡単に説明をしていると、急に泣き出されて本当にびっくりした。
「もしかして、口に合わなかった? 嫌いなものは無理に食べなくていいから、どこかで吐き出しておいで?」
と声をかけても、メイドさんは首を横に振るばかりで、なにが悪かったのかわからない。釣られたのかほかのメイドさんまで泣き出してしまい、途方に暮れていると、執事さんが穏やかな声でメイドさんに話しかけた。
「アリスお嬢さまが困っていらっしゃる。 泣いている理由をお話しなさい」
「ぐすっ…、お、美味しくて…」
「えっ?」
泣いている理由としては意外すぎる答えで、びっくりして反応に困っていると、執事さんがメイドさんの代わりに話し出した。
「上質の魔物肉に惜しみなく使われている調味料。それにこのような甘味は、使用人の口においそれと入るものではございません。
それどころか、これほどの贅沢な食事は中級貴族でも普段は取れません。 感動したメイドが泣き出すのも無理のないことかと」
説明してくれている執事さんも何となく嬉しそうだ。
他のメイドさん達も頷いているから、執事さんのいう事は間違いではないのだろう。
「それに、以前の勤め先でパーティーの残りの料理をいただいた時には辛くてとても食べられなかったのに、アリスお嬢さまの作られたお料理がとっても美味しくて、嬉しくて…」
「なんだか身近に感じられて嬉しかったのです」
メイドさん達が口々に話してくれる内容は、この世界の食料事情だ。
食べ物の価値を再確認すると共に、貴族が食べるものがとんでもない代物だと理解できた。
「旦那さまは美食家でございますので、そのようなとんでもない代物は好まれません。 ご安心くださいませ」
貴族でもトップクラスに位置する“王弟”のモレーノお父さまのことが少し心配だったけど、執事さんの言葉で安心できた。 濃すぎる味付けは体に悪いからね。 お父さまの味覚が普通で本当に良かった!
「事情はわかったわ! でも今は時間がないから、みんな泣き止んでちょうだい。料理の試食と説明を続けるわ。
料理がおいしいと泣いてくれるのは料理人冥利に尽きるけど、それは食事会が終わった後にゆっくりと食べながらにしてね!」
“パンパン!”と手を鳴らしながらみんなに呼びかけると、みんなの視線が一斉にこちらを向いた。
「それは、食事会で残った料理をわたくし共にいただけるという事でしょうか?」
執事さんが嬉しそうに言うけど、そんな訳がないよね。
否定するとメイドさん達が揃って残念そうな顔になる。
「食事会が落ち着いたらみんなの方の食堂に料理を出すから、交代で食べてくれたら良いと思ったんだけど。 時間が遅くなるからいやかな?」
みんなは食事の後の夜食のつもりだったのかな?と確認してみると、部屋の中にどよめきと歓声が響いた。
「それは、いけません! お嬢さまと我々では立場が違うのです。 残り物をいただけるだけで十分でございます!」
執事さんが叫ぶように言うと、メイドさん達も揃って頷いた。
え~、食べ残しを人にあげるの? それはちょっとどうだろう? なんか、イヤだ。
「毎日のことじゃないんだから、今回は大目に見ようよ。 私は明日ここを出て行くけど、これからもモレーノお父さまをよろしくね!っていう挨拶も兼ねてるならいいでしょ?」
「旦那さまの事を、でございますか?」
「うん。 モレーノ裁判官は、どこの誰かもわからない怪しい女を娘待遇で家に入れてしまう、ちょっとうかつな所があるみたいだから。
みんなで守ってあげてね?」
「お嬢さまは怪しくなんか…!」
メイドさんは“怪しい女”を否定してくれるけど、私ってば十分に怪しいよね~?
「自分の出身さえも詳しく話さない旅人は、十分に怪しいと思うよ? これからはフィリップとみんなが気をつけてあげてね?」
重ねてお願いをすると、やっとみんなは頷いてくれた。
あとは簡単な説明を済ませて、このままこの部屋で待機するメイドさん達に【クリーン】を掛けてから部屋を出る。
ドレスの出来具合を確認するためにさっきの部屋に戻っている途中、お父さまを<裁判官>と呼んだことを執事さんに注意されたことは、言うまでもないかな。
あれは話しの流れで呼んだだけなのに、執事さん、細かいよね~!
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