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メイドさんとの攻防 3
しおりを挟む「アリスの肌って本当に綺麗よね~! なんていうか、なめらかで……」
「はい。まるで手の平に吸い付くようです…! 旅をされているなんて信じられないほどに荒れた所もなく、お綺麗ですわ!」
マルタが私の背中をさわさわしながら羨ましそうに言うと、マッサージをしてくれているメイドさんがため息を吐きながら同意する。
「ん~、ありがとう?」
女神の力作だし、生まれて間もない肉体だからね。 私も自分で綺麗だな~って思うから謙遜はしない。
「この美しいドレスはお嬢さまの美貌があってこそですね! うふふ…」
でも、さっきまでキモノに見惚れてきゃいきゃいはしゃいでいたメイドさん達まで寄って来て、みんなで私の肌の観賞会を始めるのは何かが違うと思うんだ……。
「ねえ、見せ物じゃないんだけど……。 マルタまで何してるの? マッサージは?」
「あたしは他人に体を触らせるのに抵抗があるから……。 怖いし、恥ずかしいじゃない?」
だからって、私の体をそんなにじろじろと見てるのはどうなんだろう? 私にも羞恥心はあるんだけどな。
「うん。下手な人にマッサージされると確かに怖いけど、このメイドさんは上手だよ? それに、みんな裸なんだから恥ずかしくないよ~!」
この状況で私だけ見られているのも辛いので、マルタにもマッサージを受けてもらおうと魔法の呪文を唱える。
「<冒険者>なら、体のメンテナンスは必要だと思うよ?」
「………じゃあ、やってもらおうかな。 でも、もしも体に負担が掛かったら」
「【リカバー】してあげる! もちろん、無料!!」
プロ意識の強いマルタは、“冒険者として必要なこと”と言うと心を動かしたので、ダメ押しに満面の笑顔でアフターフォローの約束をすると、恥ずかしそうにしながらも私の隣のマッサージ台に横になった。
「まあ! マルタさまは見事な筋肉ですわ!」
「本当に! マルタさまは後衛職だと聞いておりましたのに、鍛えておいでなのですね!」
メイドさん達に褒められたマルタは照れくさそうに、小さな声でお礼を言っている。
自分に向けられていた視線と意識の半分がマルタへと流れてくれたので、リラックスしてマッサージの続きを受けていると、ハクとライムが近寄ってきた。
(一緒に遊ばないのかにゃ? せっかくの広いお風呂なのにゃ…)
(いっしょにあそぼ?)
可愛いもの好きのメイドさん達に構ってもらっていたので安心して放置していたんだけど、どうやら寂しがらせてしまっていたらしい。
可愛い従魔に誘われたら、全力で応えないといけない!
メイドさんに断って切り上げてもらおうとすると、全力で拒否された。 上半身をマッサージしてくれていたメイドさんが私の肩に両手を置いて「まだ終わっていないから最後までさせて欲しい」と懇願するように言う。
メイドさんが仕事を中途半端に終わらせたくない気持ちもわかるけど、寂しがっている2匹を放っておくなんて事、出来るわけもなく……。
「ダメ、もう終わり。 私の可愛い従魔たちが寂しがってるから遊んであげないと。 仕事を完遂させようとする熱心さは受け取ったからね」
「まだ、香油を塗らせていただいておりません! ハクさまとライムさまはメイド達でお相手させていただきますので、アリスさまはこのまま続きをなさってくださいませ!」
「あの仔たちのご指名は私なの。 今回は譲れないわ」
今日はメイドさん達のしたいようにさせていた私がきっぱりと断ったことで、メイドさん達はびっくりしたようだ。
肩を押さえていた手の力が抜けたのでそのまま起き上がって立ち上がろうとすると、下半身をマッサージしてくれていたメイドさんが私の両足を抱え込んだ。
「お嬢さまは明日お発ちになると聞いております! ですので、今夜は最高にお美しいお嬢さまのお姿を旦那さまに見せて差し上げたいのです!」
「もちろん、お嬢さまは何もなさらなくてもそのままで十分にお美しいのですが、いつも以上にお美しいお姿を旦那さまに見せて差し上げてくださいませ!」
「お嬢さまにはお分かりにならないかもしれませんが、娘が父親のために着飾ってみせることはが父親にとってどれほどの誉れとなることか!」
「「「「「どうか、旦那さまのために!」」」」」
今日のメイドさん達が強引なのは、モレーノお父さまの為だったらしい。 お父さまの為と言われると無下にはできないが、かわいい従魔たちの誘いだって決して断れない!
「従魔たちと遊んだ後に続きをしてもらうから、いまは中断させて。 それなら良いでしょう?」
それで仕度に掛かる時間が足りなくなりそうなら、そこはメイドさん達の腕の見せ所。頑張ってもらおう。
“中止”ではなく“中断”だと言うと、メイドさん達も納得して足を離してくれる。
それまで私たちのやり取りを大人しく待っていてくれた2匹を連れて湯船に入ると、待ってました!とばかりにじゃれ付かれた。
行儀悪くお湯をはねながら2匹と遊んだり、ライムの上に顎を乗せながらハクが私の所に猫掻きで泳いでくるのを楽しく眺めたりしていると、
「ハクさま~、ライムさま~! おやつでございますよ~!!」
メイドさんが、ぶどうを盛ったお皿を手に従魔たちを呼んだ。
「たくさん遊んだので水気のあるものが良いかと思い、果物をお持ちいたしました!」
「にゃ~ん!!」
「ぷきゅ…」
メイドさんが満面の笑顔で2匹を呼ぶと、ハクは嬉しげにお湯から上がり、ライムは情けない声で私に向かって鳴き声を上げた。
……おやつに負けたことが悔しくて、一瞬だけライムを抱え込んでやろうかと考えたけど、心話を使って自分を離す様に言わないライムが可愛かったので素直に離してあげる。
「ぷきゃ~♪」
離した途端にハクのように一直線におやつに向かうかと思っていたけど、ライムは律儀に私の周りをくるりと一周した後に頬にキスをしてくれてからお湯から上がって行ったので、主人としての面目は保てたのかな?
羨ましそうなメイドさんと目が合って、少しだけ気分が良かったのは内緒の話だ。
「さあ、お嬢さま。 続きをさせてくださいませ!」
マッサージをしてくれていたメイドさんがホッとした顔で近づいてきた。 どうやら従魔たちと遊び過ぎてそれなりの時間が経っていたらしい。
素直にお湯から上がってマッサージ台に横になると、先に終わったマルタが楽しそうに私を見ていた。
……しまった!
せっかくマルタと分散されていたメイドさん達の意識が私に集中して注がれることになったことは、もう諦めるしかないのかなぁ……。
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