上 下
253 / 754

メイドさんとの攻防 3

しおりを挟む



「アリスの肌って本当に綺麗よね~! なんていうか、なめらかで……」

「はい。まるで手の平に吸い付くようです…! 旅をされているなんて信じられないほどに荒れた所もなく、お綺麗ですわ!」

 マルタが私の背中をさわさわしながら羨ましそうに言うと、マッサージをしてくれているメイドさんがため息を吐きながら同意する。

「ん~、ありがとう?」

 女神ビジューの力作だし、生まれて間もない肉体からだだからね。 私も自分で綺麗だな~って思うから謙遜はしない。

「この美しいドレスはお嬢さまの美貌があってこそですね! うふふ…」

 でも、さっきまでキモノに見惚れてきゃいきゃいはしゃいでいたメイドさん達まで寄って来て、みんなで私の肌の観賞会を始めるのは何かが違うと思うんだ……。

「ねえ、見せ物じゃないんだけど……。 マルタまで何してるの? マッサージは?」

「あたしは他人に体を触らせるのに抵抗があるから……。 怖いし、恥ずかしいじゃない?」

 だからって、私の体をそんなにじろじろと見てるのはどうなんだろう? 私にも羞恥心はあるんだけどな。

「うん。下手な人にマッサージされると確かに怖いけど、このメイドさんは上手だよ?  それに、みんな裸なんだから恥ずかしくないよ~!」

 この状況で私だけ見られているのも辛いので、マルタにもマッサージを受けてもらおうと魔法の呪文を唱える。

「<冒険者>なら、体のメンテナンスは必要だと思うよ?」

「………じゃあ、やってもらおうかな。 でも、もしも体に負担が掛かったら」
「【リカバー】してあげる! もちろん、無料!!」

 プロ意識の強いマルタは、“冒険者として必要なこと”と言うと心を動かしたので、ダメ押しに満面の笑顔でアフターフォローの約束をすると、恥ずかしそうにしながらも私の隣のマッサージ台に横になった。

「まあ! マルタさまは見事な筋肉ですわ!」
「本当に! マルタさまは後衛職だと聞いておりましたのに、鍛えておいでなのですね!」

 メイドさん達に褒められたマルタは照れくさそうに、小さな声でお礼を言っている。 

 自分に向けられていた視線と意識の半分がマルタへと流れてくれたので、リラックスしてマッサージの続きを受けていると、ハクとライムが近寄ってきた。

(一緒に遊ばないのかにゃ? せっかくの広いお風呂なのにゃ…)
(いっしょにあそぼ?)

 可愛いもの好きのメイドさん達に構ってもらっていたので安心して放置していたんだけど、どうやら寂しがらせてしまっていたらしい。

 可愛い従魔に誘われたら、全力で応えないといけない!

 メイドさんに断って切り上げてもらおうとすると、全力で拒否された。 上半身をマッサージしてくれていたメイドさんが私の肩に両手を置いて「まだ終わっていないから最後までさせて欲しい」と懇願するように言う。 

 メイドさんが仕事を中途半端に終わらせたくない気持ちもわかるけど、寂しがっている2匹を放っておくなんて事、出来るわけもなく……。

「ダメ、もう終わり。 私の可愛い従魔たちが寂しがってるから遊んであげないと。 仕事を完遂させようとする熱心さは受け取ったからね」

「まだ、香油を塗らせていただいておりません! ハクさまとライムさまはメイド達でお相手させていただきますので、アリスさまはこのまま続きをなさってくださいませ!」

「あの仔たちのご指名は私なの。 今回は譲れないわ」

 今日はメイドさん達のしたいようにさせていた私がきっぱりと断ったことで、メイドさん達はびっくりしたようだ。

 肩を押さえていた手の力が抜けたのでそのまま起き上がって立ち上がろうとすると、下半身をマッサージしてくれていたメイドさんが私の両足を抱え込んだ。

「お嬢さまは明日お発ちになると聞いております! ですので、今夜は最高にお美しいお嬢さまのお姿を旦那さまに見せて差し上げたいのです!」
「もちろん、お嬢さまは何もなさらなくてもそのままで十分にお美しいのですが、いつも以上にお美しいお姿を旦那さまに見せて差し上げてくださいませ!」
「お嬢さまにはお分かりにならないかもしれませんが、娘が父親のために着飾ってみせることはが父親にとってどれほどの誉れとなることか!」

「「「「「どうか、旦那さまのために!」」」」」

 今日のメイドさん達が強引なのは、モレーノお父さまの為だったらしい。 お父さまの為と言われると無下にはできないが、かわいい従魔たちの誘いだって決して断れない!

「従魔たちと遊んだ後に続きをしてもらうから、いまは中断させて。 それなら良いでしょう?」

 それで仕度に掛かる時間が足りなくなりそうなら、そこはメイドさん達の腕の見せ所。頑張ってもらおう。

 “中止”ではなく“中断”だと言うと、メイドさん達も納得して足を離してくれる。

 それまで私たちのやり取りを大人しく待っていてくれた2匹を連れて湯船に入ると、待ってました!とばかりにじゃれ付かれた。

 行儀悪くお湯をはねながら2匹と遊んだり、ライムの上に顎を乗せながらハクが私の所に猫掻きで泳いでくるのを楽しく眺めたりしていると、

「ハクさま~、ライムさま~! おやつでございますよ~!!」

 メイドさんが、ぶどうを盛ったお皿を手に従魔たちを呼んだ。

「たくさん遊んだので水気のあるものが良いかと思い、果物をお持ちいたしました!」

「にゃ~ん!!」
「ぷきゅ…」

 メイドさんが満面の笑顔で2匹を呼ぶと、ハクは嬉しげにお湯から上がり、ライムは情けない声で私に向かって鳴き声を上げた。

 ……おやつに負けたことが悔しくて、一瞬だけライムを抱え込んでやろうかと考えたけど、心話を使って自分を離す様に言わないライムが可愛かったので素直に離してあげる。

「ぷきゃ~♪」

 離した途端にハクのように一直線におやつに向かうかと思っていたけど、ライムは律儀に私の周りをくるりと一周した後に頬にキスをしてくれてからお湯から上がって行ったので、主人としての面目は保てたのかな? 

 羨ましそうなメイドさんと目が合って、少しだけ気分が良かったのは内緒の話だ。

「さあ、お嬢さま。 続きをさせてくださいませ!」

 マッサージをしてくれていたメイドさんがホッとした顔で近づいてきた。 どうやら従魔たちと遊び過ぎてそれなりの時間が経っていたらしい。

 素直にお湯から上がってマッサージ台に横になると、先に終わったマルタが楽しそうに私を見ていた。

 ……しまった! 

 せっかくマルタと分散されていたメイドさん達の意識が私に集中して注がれることになったことは、もう諦めるしかないのかなぁ……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

処理中です...