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メイドさんとの攻防 2

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 お茶を飲み終わっても、メイドさん達の『お世話をするんだ!』という意気込み方に変化はなく、私とマルタはため息を噛み殺しながら、メイドさん達の“お世話”を受け入れることにした。

 自分たちにクリーンを掛けてから服を脱ぎ(メイドさん達が手伝いたがったけど、『冒険者としての勘が狂うから、装備の着脱には手を出さないで!』と言い含めた。もちろんただのこじつけだ)、インベントリにしまおうとすると、メイドさんの1人が意を決したように言った。 

「お嬢さまのお召しになっているドレスの手入れを、私たちにお任せくださいっ!」

「必要ないよ」

 私の装備はさっきのクリーンで綺麗になっているし、ビジューのおかげで【破壊不可】になっているから、壊れたり傷んだりすることもない。 

 お手入れ不要の一品なので、メイドさんに断りを入れてそのままインベントリに治したんだけど…。 メイドさん達はあからさまに落ち込んだ表情を見せる。

「私たちが信用できないという事でしょうか…?」

「そうじゃなくて、さっきのクリーンで一緒に綺麗になってるから」

「では、ほつれなどがないかの確認を!」

「ないよ。そんなに簡単に壊れるような装備じゃないから」

「でも! 刺繍やレースなどはとても繊細なものですので」

「特殊な糸を使っているから大丈夫」

 メイドさんに安心してもらえるように、にっこりと笑って浴室に移動しようとすると、

「ねえ。もしかして、自分たちがアリスの装備を見たいだけじゃないの?」

 それまで黙ってメイドさん達とのやりとりを聞いていたマルタが、少し呆れたように口を開いた。

「「「っ!!」」」

 マルタの言ったことにびっくりしてメイドさんの方へ視線を走らせると、マルタの言葉を肯定するように、複数のメイドさん達が顔を真っ赤にして、もじもじとしていた。

「そうなの?」

 聞くまでもなさそうだったけど一応の確認をしてみると、メイドさん達が恥ずかしそうにしながらも、何度も頷く。

「ふうん?  浴室の中でもいい?」

 ビジューの作ってくれた“装備”にはとても見えないドレスアーマーは、確かに生地・刺繍・レースのどれをとっても素晴らしいもので、もっとよく見たい!という気持ちは理解できる。

 でも、もう私たちは服を脱いでしまっているし、メイドさん達も揃ってすっぽんぽん状態だ。早く浴室に入りたい。

「大事な装備品だから、私の目の届かない所には持って行かせられないの。 …信用していないみたいな言い方でごめんね?」

 自分で言っていても酷いことを言っていると思ったけど、マルタは違ったようだ。

「当たり前のことでしょ? あたしだったら、目の前でも簡単には触らせないわよ。 縫い糸にほんの少しの傷が付くだけでも命に関わってくることがあるんだから」

 そう言うと私の腕を取り、メイドさん達の反応を待たずに浴室に入って行く。

「あたし達は体が資本よ。あんなところで裸で突っ立ってて熱でも出したらどうするの? 暖かい季節でも油断は禁物よ。 
 ここのメイドは<冒険者>とは縁が薄そうだからそういうことには気が回らないみたいね。 だから簡単に装備を見せろなんて言うの」

 マルタの遠慮のない物言いを聞いて、メイドさんたちは顔色を変えた。 自分たちのしたことを客観的に考えて、反省したようだ。 

 私たちがかけ湯をしようとすると、自分たちにお世話させて欲しいと懇願する。 自分で出来ることだけど、あまりにも必死な顔をするものだから、桶を渡すことにした。

「足先から順にかけてね」

 と伝えると、真剣な顔で頷いてお湯を掛け始める。 マルタの方に付いているメイドさん達も『これ以上の失敗はできない』と顔に書いて、真剣そのものだ。

 もう少し力を抜いてもらわないと、こちらの肩が凝りそうだな。 

 私としてはさっきの態度でも問題はなかったし、今後もそれなりに気をつけてくれたら十分だ。

「とても大切な人から貰った大事な装備だから、丁寧に扱ってね」

 浴槽に入る前にインベントリからキモノを取り出して一番近くにいたメイドさんに渡してあげると、とても驚いたようで目を見開いたまま固まってしまった。

「見たいんじゃなかったの?」

 と聞くと、装備がお湯で濡れることを心配して慌てた顔になる。 お湯くらいなら【ドライ】で乾くから心配はいらないと笑ってやると、最初はおずおずと、でも嬉しそうにキモノを触り、目を皿のように大きく開いてレースや刺繍を凝視する。 

「この手に吸い付くような手触りは…。 しっかりとしているのに柔らかい……?」
「こんな繊細なレース、初めて見たわ!」
「この刺繍も見事よ! いったいどんな職人が作ったの?」
「ここまで素晴らしいドレスが戦闘服だなんて、信じられない…」

 初めから興味のあった物を目の前にするとメイドさん達も興奮を隠せなかったようで、とても丁寧な手つきで刺繍に指を沿わせ、レースに目を凝らしながらも嬉しそうにはしゃいでいる。

 みんな女の子だもんね~。 綺麗なものに心惹かれる気持ちはわかるよ!

 でも、「こんな素晴らしいドレス、わが国の王女さまだって何枚持っているか…」とか「ここまで素晴らしいものを普段使いにされるなんて、アリスさまはやっぱり…」とか、ひそひそ言うのは止めてーっ!

 私は本当にただの庶民。 ただの平民なんだってば!!
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