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現実です
しおりを挟むちょっとしたアクシデントで足止めされはしたものの、お昼まではまだまだ時間がたっぷりあるので義足の男性と共に一度拠点へ戻ることにした。
さっき通った道をのんびりと戻りながら、インベントリのリストをチェックする。
複製のスキルが1日10回になり、上手に使えば1日で30種類の複製が可能になったことで、複製が可能な食材やストックの料理は随分と充実した。
充実した分欲が出て、もっと違うおかずやおやつを作りたいと思っているのだけど、新しい食材はほとんど増えていない。今ある食材を使って何かを作ることになるけど、何が出来るかなぁ…?
あ~でもない、こ~でもない。と考えながら歩いていると、あっという間に拠点に着いてしまった。
「なあ、アルバロ。 俺は今、夢を見ているんだよな?」
「ああ? 何でだ?」
拠点でまずは水分を補給をしようとりんご水を飲んでいると、義足の男性がボソッっと呟くように言った。
「昨日からおかしいんだ。 魔物を倒したわけでもないのに、アイスボールを出すだけで9万メレも手に入った上にとんでもなく美味いクッキーを貰った。
1度だけの幸運かと思っていたのに今朝も呼ばれて、今度は9万メレと大量のクッキーに喜んでいたら、俺の足が治るって言われたんだ。 どこの世界に350万メレで足を生やしてくれる治癒士がいるんだ? 俺の妄想の中にしかいない。
それにな、水もやたらと美味いんだ。 こんな水ありえねぇよ……。
俺は随分と都合のいい夢を見ちまってるんだなぁ…」
男性が泣きそうな顔で呟くように訴えると、アルバロが切なそうに笑いながら男性の肩に手を置いた。
「エックハルト。これは現実だ。
この信じられないような“夢のようないいコト”は全て“アリス”っていう1人の少女が起こしている現実だ。
信じても大丈夫だぞ! 決して裏切られたりしない!!」
言い聞かせるようにゆっくりと話すアルバロの言葉を聞いて、エックハルトと呼ばれた義足の男は首を横に振り一筋の涙を流す。
「俺の足は落としちまってから時間が経ってるからって、治癒士が匙を投げちまったんだぞ? 片足じゃあ、もう、冒険者でいられないって俺は……」
「ああ、辛かったよな……。 でも、おまえの足は治る。 家族さえ説得したら冒険者に戻れるぞ?
アリス、頼む!」
論より証拠! 治した方が早いと判断したアルバロが私に350万メレが入った皮袋を投げ渡した。
「ん、確かに受け取ったよ。 バランスを崩すといけないからアルバロが支えてあげててね? 【リカバー】!」
アルバロがエックハルトさんの肩を支える体勢を取ると、イザックが手早く義足を外してくれたので安心してリカバーを発動させる。
白い光が自分を包み込み足を模っていくのをどこか他人事のように眺めていたエックハルトさんは、光が足に吸い込まれるように消えても何も言わず、ただじっと治った方の足を見ているだけだった。
その様子をずっと見ていたアルバロが苦笑をこぼし、エックハルトさんを支えたまま治った方の足を軽く蹴り付けると、
「痛い……。 痛い!? アルバロ! 俺の足に痛みの感覚がある!」
ハッと気が付いたように動き出したエックハルトさんは、自分の足を何度も擦ったり叩いたりしながら感覚を確かめ始める。
アルバロがゆっくりと支えを外して少し離れると、エックハルトさんはアルバロへ向かって恐る恐る1歩を踏み出し、自分の足で歩いていることを実感したのか、ボロボロと涙を零し始めた。
「うくっ…。 ア、アルバロ! 俺の足、動くぞ! ヒック…。 動くんだっ! うぁああああああ!」
ゆっくりとアルバロへたどり着いたエックハルトさんはそのままアルバロの肩を抱くと大声で泣き始め、釣られたのか、アルバロの目も潤んでいるのが見えた。
(ハク、ライム。台所へ行こうか)
(おやつにゃ?)
(おやつ?)
(うん、おやつ!)
成人男性の泣いている姿を見ているのも悪い気がしたので2匹を連れて台所へ行くと、護衛組の3人も一緒に移動してきた。
「いつ見ても、アリスの【リカバー】は凄いわね!」
マルタが目を潤ませながら褒めてくれるけど、凄いのは全部ビジューだと言えないのが残念だ。
曖昧に微笑んで木苺とぶどうを盛ったお皿を取り出すと、それ以上はみんな何も言わずにゆったりとおやつタイムを始めてくれる。 護衛組は私の持っている能力に興味を持っても、不用意に踏み込んでこず距離の取り方が上手い。
本当に優秀な冒険者たちだ。
ハクとライムがじゃれあっているのを楽しく眺めていると、台所のドアが遠慮がちにノックされた。
エミルが開けに行くと、真っ赤な目をしながらも嬉しそうに笑っているエックハルトさんと、少し後ろで照れ臭そうに笑っているアルバロが立っていた。
「アリスさん、本当に、本当にありがとう! また冒険者に戻れるなんて夢のようだ。 全部アリスさんとアルバロのお陰だ。感謝しても仕切れないよ。 本当にありがとう!!」
私の手をぎゅっと握り締めながら、
「こんなに小さな手で俺を……」
と呟いて、また泣き出しそうな顔をする。慌ててアルバロを見ると、行動が読めていたのか、落ち着いた顔でエックハルトさんの肩をバンバン叩き、
「ほら! 早く家に帰って、家族にその姿を見せてやれ!」
と玄関に誘導してくれた。
「アルバロ! エックハルトさんを家まで送ってあげたら?」
「あ?」
「足が治ったばかりで感覚が鈍くなってるかもしれないし。 私はお昼前まではここから動かないから、送ってあげて?」
「俺たちとハクとライムが付いていれば、そうそう危険な目にも遭わないだろうし、一緒に行ってやれよ」
最初は私の護衛を気にしていたアルバロとエックハルトさんだったが、護衛組の自信に溢れた表情と、ハクとライムが可愛いしぐさで自分たちを追い出そうとしているのを見て、嬉しそうに頷いた。
「すぐに戻る」
「ゆっくりでいいよ! お昼まではここから離れないって約束するから!」
「そうか。 …アリスを頼むな」
「「任せろ」」
「任せて!」
「にゃん!」
「ぷきゅ!」
みんなに見送られて出て行く2人はとても嬉しそうな顔をしていて、見ていて私も嬉しくなる。
「ありがとうっっ!!」
曲がり角を曲がる直前にこちらを振り返り大きく手を振るエックハルトさんと、嬉しそうだけど私を心配そうに見るアルバロを見送りながら、
「アルバロ、小さい子供を置いて行く子煩悩な親父みたいじゃないか?」
とエミルが言い、みんなで大笑いしてしまったことは、本人にはしばらく内緒の話だ♪
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