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誓約書 2 種明かし
しおりを挟むヘラルドに続いて私たちも一人一人が誓約し、全ての誓約書にサインをすませた。
「これで皆さんがすることは終わりです。 後は我々が裁判所に誓約書を提出すれば全ての手続きが終了しますので、この家を出てからはお互いに不干渉を守ってください」
と衛兵さんが告げると、
「わかっているな? 外で余計なことを言うんじゃないぞ!」
「べぇーっっっだ!!」
「……本当にすみません」
最後まで謝るどころか、偉そうに命令したり可愛げのない態度を取りながらヘラルドとロレナは出て行った。
おばあさんが謝って出て行ったけど、当事者があの態度では私たちはとてもすっきりできない。
「ちょっと、アルバロ! どうしてアイツの言い分をあっさりと通したのか説明してよ! あんた達を信用してるけど、あの態度を見て笑ってるあんた達は理解できないわ!」
マルタは笑っているアルバロ、エミル、セルヒオさんを見て大声を上げた。 私も説明して欲しい。
「衛兵殿は理解しているようだぞ?」
アルバロの言葉で衛兵さん達に視線を向けると、確かに衛兵さん達も笑っている。
「……アルバロ、勿体つけないで。 もう、ハクとライムとは遊びたくないって言うなら別にかま」
「事実を話すことは悪口にはならないっ! だよなっ!? 衛兵殿!」
従魔たちの魅力は絶大で、少し脅すだけでアルバロは早々に口を割った。
「ええ。 アルバロ殿の言うとおり、事実を事実として話すことは悪口にはなりません。
ですが、そこに悪感情を込めたり無関係の人に意味もなく話すと“悪口”になってしまうので気をつけてくださいね」
注意喚起の為に知り合いに話したり、人に聞かれて正直に答える分には悪口にならないってことか!
「それに、ヘラルド牧場では、アリスさんが登録申請を出している“ミルクを安全に長持ちさせる方法”が公開されても使うことが出来なくなりました。
この先は他の牧場と差がついてしまい、ヘラルド牧場の1人負けが決定してしまいましたが、自分から権利を放棄したのですからどこへも文句は言えません」
セルヒオさんが少し悪い顔で笑う。
「じゃあ、さっきアルバロ達が難しい顔をしていたのって…」
「笑いを必死に堪えていたんだ」
「咳払いは?」
「笑いが込み上げてきたのをとっさにごまかした」
「セルヒオ、凄いわ!!」
「セルヒオさん、賢い!」
事情を聞くと、それ以外の言葉が出てこない。 セルヒオさんはみんなに称えられ、私がバスケット(他の人にお礼で渡したのと同じ物)を渡しながらお礼を言うと、セルヒオさんも今度は嬉しそうにお礼を言いながら受け取ってくれた。
コンラートの家で会った時はスマートな対応に警戒心を持ったが、今は頼もしいとしか思わない。 私もつくづくゲンキンだな。
衛兵さんにも何かお礼をと思ったが、賄賂になってしまうからと固辞された。
セルヒオさんが、
「詰所に食べ物などを差し入れすると受け取ってもらえますよ」
と教えてくれたので、近いうちに詰所にお邪魔しようと思う。
「「「では、これで。おやすみなさい」」」
「はい、お世話になりました。 お気をつけて!」
「「世話になったな!」」
「「ありがとう! おやすみ」」
衛兵さんとセルヒオさんが出て行くと、精神的な疲れが一気に押し寄せてきた。 もう、あの牧場を見るのもイヤだ。遠くからでもイヤだ…。
「もう、24時だぞ。 寝るか?」
「そうね」
「今日は疲れたな」
「そうしよう」
みんなも同じだったらしく、アルバロの言葉に同意している。
「うん、寝よう。 ……明日は自然に目が覚めるまで寝る?」
「いや、そうすると昼まで寝ちまう危険がある。 6時くらいでどうだ?」
イザックが真面目な顔で寝過ごし宣言をするので、6時起きが決定した。
「ハク、夜番はお願いするね? みんな、おやすみ」
話の途中から目を開けているのも辛くなってきたので、時間が決まるとすぐに壁際に移動して毛皮の敷物を敷き、ホーンラビットのマントを被る。
体を横たえると頬にもふもふとぷにぷにの気持ちいい感触を感じたが、お返しをするだけの気力がなく、そのまま意識を手放した。
視線の先ではイザックが剣の手入れをしている。
私の<鴉>は、汚れはクリーンで落ちるし破壊不可だから手入れの必要がない。 ビジューには本当に楽をさせてもらっているなぁ。
((おはよう!)にゃ♪)
「おはよう」
従魔たちからおはようのキスを受け、昨夜、おやすみの挨拶が出来なかった分も含めて2匹をもふり倒していると、
「まだ寝ていていいぞ?」
イザックが近づいて来て小声で話しかけられた。
「目が覚めたからこのまま起きてる。 イザックも随分と早起きだね?」
昼過ぎまで寝てるどころか、1番の早起きだ。
「俺は最終の夜番なんだよ」
「夜番? ハクじゃ不足だった?」
「違うよ! 護衛任務の勘が狂っちまうから、昨夜から夜番を再開したんだ。 ハクのお陰で起きているのは1人でいいから、交代でゆっくりと寝させてもらったが」
(昨夜はなんにもなかったにゃ)
(そっか。ありがとうね!)
「えっと、お疲れさまです?」
「ははっ! ありがとうな」
私の間抜けなねぎらいに、イザックは小さく笑ってくれた。
「おはよう」
私たちの話し声がうるさかったのか、みんなが次々に目を覚ます。
「おはよう。 起こしちゃった?」
「いや、もう6時前だ。 おはよう」
「おはよう。 何もなかったぞ」
「そうか。 昨夜は襲撃なしだな。 このまま何もなければいいが」
そうだね。寝起きに死体と対面するのは遠慮したい…。
「寝起きにミルクはどう? 冷たいのと温かいのがあるよ」
昨夜から楽しみにしていたアウドムラの冷たいミルク♪ みんなにはどっちかを選んでもらうつもりだったのに、
「絶対に冷たいの! あんたたちも冷たいのにしないと、今日1日後悔するわよ!」
マルタが冷たい方を強く勧めるので、初めはホットミルクを希望していたイザックとエミルまでアイスミルクを選んだ。
「昨日よりも更に美味い! 冷えたミルクはこんなに美味いものなのか!」
「おいしいでしょ~? 今朝は特別なのよ! このミルクはハクちゃんとライムちゃんが冷やしてくれたんだから♪ 本当に、おりこうよね!」
ミルクの美味しさに感動しているみんなに、マルタが得意げに告げると、
「「「!! そうか! 美味いわけだ!」」」
みんなは口々にハクとライムを褒めてくれて、2匹も嬉しそうだ。
「確かに、1日後悔するところだったな。 助かったぞ、マルタ」
「ふふふっ、どういたしまして♪」
イザックとエミルにお礼を言われて、マルタもご機嫌だ。
ゆっくりとミルクを味わった後、芋粥をささっと掻き込んで家を出た。
今日は待ちに待った、朝市だ♪
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