上 下
164 / 754

誓約書 2  種明かし

しおりを挟む


 ヘラルドに続いて私たちも一人一人が誓約し、全ての誓約書にサインをすませた。

「これで皆さんがすることは終わりです。 後は我々が裁判所に誓約書を提出すれば全ての手続きが終了しますので、この家を出てからはお互いに不干渉を守ってください」

 と衛兵さんが告げると、

「わかっているな? 外で余計なことを言うんじゃないぞ!」
「べぇーっっっだ!!」
「……本当にすみません」

 最後まで謝るどころか、偉そうに命令したり可愛げのない態度を取りながらヘラルドとロレナは出て行った。

 おばあさんが謝って出て行ったけど、当事者があの態度では私たちはとてもすっきりできない。

「ちょっと、アルバロ! どうしてアイツの言い分をあっさりと通したのか説明してよ! あんた達を信用してるけど、あの態度を見て笑ってるあんた達は理解できないわ!」

 マルタは笑っているアルバロ、エミル、セルヒオさんを見て大声を上げた。 私も説明して欲しい。

「衛兵殿は理解しているようだぞ?」

 アルバロの言葉で衛兵さん達に視線を向けると、確かに衛兵さん達も笑っている。

「……アルバロ、勿体つけないで。 もう、ハクとライムとは遊びたくないって言うなら別にかま」
「事実を話すことは悪口にはならないっ! だよなっ!? 衛兵殿!」

 従魔たちの魅力は絶大で、少し脅すだけでアルバロは早々に口を割った。

「ええ。 アルバロ殿の言うとおり、事実を事実として話すことは悪口にはなりません。
 ですが、そこに悪感情を込めたり無関係の人に意味もなく話すと“悪口”になってしまうので気をつけてくださいね」

 注意喚起の為に知り合いに話したり、人に聞かれて正直に答える分には悪口にならないってことか!

「それに、ヘラルド牧場では、アリスさんが登録申請を出している“ミルクを安全に長持ちさせる方法”が公開されても使うことが出来なくなりました。 
 この先は他の牧場と差がついてしまい、ヘラルド牧場の1人負けが決定してしまいましたが、自分から権利を放棄したのですからどこへも文句は言えません」

 セルヒオさんが少し悪い顔で笑う。

「じゃあ、さっきアルバロ達が難しい顔をしていたのって…」

「笑いを必死に堪えていたんだ」 

「咳払いは?」

「笑いが込み上げてきたのをとっさにごまかした」

「セルヒオ、凄いわ!!」
「セルヒオさん、賢い!」

 事情を聞くと、それ以外の言葉が出てこない。 セルヒオさんはみんなに称えられ、私がバスケット(他の人にお礼で渡したのと同じ物)を渡しながらお礼を言うと、セルヒオさんも今度は嬉しそうにお礼を言いながら受け取ってくれた。
   
 コンラートの家で会った時はスマートな対応に警戒心を持ったが、今は頼もしいとしか思わない。  私もつくづくゲンキンだな。

 衛兵さんにも何かお礼をと思ったが、賄賂になってしまうからと固辞された。

 セルヒオさんが、

「詰所に食べ物などを差し入れすると受け取ってもらえますよ」

 と教えてくれたので、近いうちに詰所にお邪魔しようと思う。

「「「では、これで。おやすみなさい」」」

「はい、お世話になりました。 お気をつけて!」
「「世話になったな!」」
「「ありがとう! おやすみ」」

 衛兵さんとセルヒオさんが出て行くと、精神的な疲れが一気に押し寄せてきた。 もう、あの牧場を見るのもイヤだ。遠くからでもイヤだ…。

「もう、24時だぞ。 寝るか?」

「そうね」
「今日は疲れたな」
「そうしよう」

 みんなも同じだったらしく、アルバロの言葉に同意している。

「うん、寝よう。 ……明日は自然に目が覚めるまで寝る?」

「いや、そうすると昼まで寝ちまう危険がある。 6時くらいでどうだ?」

 イザックが真面目な顔で寝過ごし宣言をするので、6時起きが決定した。

「ハク、夜番はお願いするね?  みんな、おやすみ」

 話の途中から目を開けているのも辛くなってきたので、時間が決まるとすぐに壁際に移動して毛皮の敷物を敷き、ホーンラビットのマントを被る。

 体を横たえると頬にもふもふとぷにぷにの気持ちいい感触を感じたが、お返しをするだけの気力がなく、そのまま意識を手放した。












 視線の先ではイザックが剣の手入れをしている。 

 私の<鴉>は、汚れはクリーンで落ちるし破壊不可だから手入れの必要がない。 ビジューには本当に楽をさせてもらっているなぁ。

((おはよう!)にゃ♪)

「おはよう」

 従魔たちからおはようのキスを受け、昨夜、おやすみの挨拶が出来なかった分も含めて2匹をもふり倒していると、

「まだ寝ていていいぞ?」

 イザックが近づいて来て小声で話しかけられた。

「目が覚めたからこのまま起きてる。 イザックも随分と早起きだね?」

 昼過ぎまで寝てるどころか、1番の早起きだ。

「俺は最終の夜番なんだよ」

「夜番? ハクじゃ不足だった?」

「違うよ! 護衛任務の勘が狂っちまうから、昨夜から夜番を再開したんだ。 ハクのお陰で起きているのは1人でいいから、交代でゆっくりと寝させてもらったが」

(昨夜はなんにもなかったにゃ)

(そっか。ありがとうね!)

「えっと、お疲れさまです?」

「ははっ! ありがとうな」

 私の間抜けなねぎらいに、イザックは小さく笑ってくれた。

「おはよう」

 私たちの話し声がうるさかったのか、みんなが次々に目を覚ます。

「おはよう。 起こしちゃった?」

「いや、もう6時前だ。 おはよう」

「おはよう。 何もなかったぞ」

「そうか。 昨夜は襲撃なしだな。 このまま何もなければいいが」

 そうだね。寝起きに死体と対面するのは遠慮したい…。

「寝起きにミルクはどう? 冷たいのと温かいのがあるよ」

 昨夜から楽しみにしていたアウドムラの冷たいミルク♪ みんなにはどっちかを選んでもらうつもりだったのに、

「絶対に冷たいの! あんたたちも冷たいのにしないと、今日1日後悔するわよ!」

 マルタが冷たい方を強く勧めるので、初めはホットミルクを希望していたイザックとエミルまでアイスミルクを選んだ。

「昨日よりも更に美味い! 冷えたミルクはこんなに美味いものなのか!」

「おいしいでしょ~? 今朝は特別なのよ! このミルクはハクちゃんとライムちゃんが冷やしてくれたんだから♪ 本当に、おりこうよね!」

 ミルクの美味しさに感動しているみんなに、マルタが得意げに告げると、

「「「!! そうか! 美味いわけだ!」」」

 みんなは口々にハクとライムを褒めてくれて、2匹も嬉しそうだ。

「確かに、1日後悔するところだったな。 助かったぞ、マルタ」

「ふふふっ、どういたしまして♪」

 イザックとエミルにお礼を言われて、マルタもご機嫌だ。

 ゆっくりとミルクを味わった後、芋粥をささっと掻き込んで家を出た。

 今日は待ちに待った、朝市だ♪
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

奴隷身分ゆえ騎士団に殺された俺は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で無双する 〜自分が受けた痛みは倍返しする〜

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 リクは『不死鳥騎士団』の雑用係だった。仕事ができて、真面目で、愛想もよく、町娘にも人気の好青年だ。しかし、その過去は奴隷あがりの身分であり、彼の人気が増すことを騎士団の多くはよく思わなかった。リクへのイジメは加速していき、ついには理不尽極まりない仕打ちのすえに、彼は唯一の相棒もろとも団員に惨殺されてしまう。  次に目が覚めた時、リクは別人に生まれ変わっていた。どうやら彼の相棒──虹色のフクロウは不死鳥のチカラをもった女神だったらしく、リクを同じ時代の別の器に魂を転生させたのだという。 「今度こそ幸せになってくださいね」  それでも復讐せずにいられない。リクは新しい人間──ヘンドリック浮雲として、自分をおとしいれ虐げてきた者たちに同じ痛みを味合わせるために辺境の土地で牙を研ぎはじめた。同時に、その過程で彼は復讐以外の多くの幸せをみつけていく。  これは新しい人生で幸せを見つけ、一方で騎士団を追い詰めていいく男の、報復と正義と成り上がりの物語──

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

処理中です...