155 / 754
屋台ごはん
しおりを挟むおいしいミルクと乳製品に氷まで手に入り、ホクホクとした気分で帰途についていると、どこからともなく肉の焼ける香りが漂ってきた。
“ぐぅぅぅぅぅぅ”
ん?
(ありす~、お腹空いたにゃ…)
自分のお腹の音かと思ったら、抱っこしているハクのお腹が鳴った音だったようで、ハクが情けない声で空腹を訴えてくる。
「何か食べて帰ろうか?」
「にゃん!」
「ぷきゅう!」
外食を提案すると、2匹がかぶせ気味に賛成の鳴き声を上げた。
護衛組も賛成のようで、どこのお店が美味しいとか、何を食べるかの相談を始める。
「アリスは何が食べたい?」
「この町の名物料理!」
初日に大通りで少し買い物をしただけで、後はずっと観光する暇もなかったことを伝えると、
「じゃあ、屋台通りでも行くか?」
アルバロの提案で『屋台通り』に行くことになった。
屋台通りは、呼び名の通り、ずら~っと屋台が並んでいる通りだった。 お祭りの縁日みたいだ♪
(アリス! あそこに行くにゃ! 肉にゃっ♪)
(ありす、あれはなに?)
2匹の気の向くままに色々な屋台を見て回り、それぞれに好みの屋台で買い物を済ませたみんなと一緒に、通りを少し抜けた場所にある広場のような所に落ち着いた。
ベンチがあったのでそこに座るのかと思っていたら、アルバロとエミルがベンチを移動させて、空いたスペースにイザックが帆布を広げ、マルタがライトの魔法で中央に置いたテーブル代わりの天板の上を明るく照らす。
靴を脱ぐ準備を整えて私を見ているみんなにクリーンを掛けると、みんなが満面の笑顔を浮かべて放り出す勢いで靴を脱ぐので、笑い出すのを堪えるのが大変だった。
子供みたいに無邪気な笑みがあふれるほど、靴を脱いで寛ぐ食事スタイルを気に入ってくれたらしい。 嬉しいな♪
みんなが買ってきた晩ごはんを取り出すと、色々な食べ物で天板の上が賑やかになり、辺りにいい香りが漂った。
「「「「「いただきます!」」」」」
((いただきます)にゃ♪)
裁判所への移動中に“いただきます”に興味を持っていたマルタに由来を説明すると、いつの間にか護衛組にも“いただきます”が根付いていて、地球を懐かしく思い出す。
(アリス……。大丈夫にゃ?)
(うん? 大丈夫だよ~!)
ハクに悲しい顔をさせたい訳じゃなかったので慌ててしまったけど、ハクもすぐに目の前のごはんに意識を向けてくれたので、私も晩ごはんを楽しむことに集中した。
ハクが目の色を変えて屋台に走って行った、『チュトレン』というお肉のステーキは、お肉はもちろん付け合せのポテトも美味しかった♪
ライムのお気に入りは『レンテハス』という、レンズ豆を肉や野菜と煮込んだ料理。 ライムはいろいろな食品をバランスよく食べることを好むようだ。
大きい餃子にしか見えない『エンパナーダ』は、パンの中にいろんな具材が入っていて、私が選んだお肉が入っているものは、甘い玉ねぎのソースが良く合っていてとても美味しい♪
どれもとてもおいしくて、旅の醍醐味の“その土地の食べ物”が大当たりだったことに満足しながら首領の家に戻った。
(咲いてるにゃ!)
(さいてるね~)
首領の家と隣家の境くらいに咲いていた小さな白い花が萎れかけていたので、朝、家を出るときに【植物活性薬】を掛けておいたのが効いたらしく、花は元気を取り戻して可愛らしく咲いていた。
これなら裁判所の芝生にも効き目があるだろう。
「アルバロ、いま何時?」
「20時を少し回ってるな」
……アルバロ、そのニヤニヤ笑いは何とかならないのかな? 見た目は若い私に、ぞんざいに話しかけられて喜んでると、危ないおじさまに間違えられるよ~?
まだ20時なら、寝るには少し早いか。
「明日は朝市に行きたいんだけど…」
「朝市は6時頃からだな。 飯も朝市で食うのか?」
「うん!」
朝市で食べることを喜んだ私とは逆に、アルバロは少しだけ残念そうな顔になった。
「アルバロ?」
「ああ、気にするな。大したことじゃない」
「アルバロ?」
アルバロは気にするなと言うけど、やっぱり気になる。
「あ~る~ば~ろ?」
「ああ、もうっ! …芋粥が食いたかっただけだ!」
しつこく聞くと、頬を掻きながら恥ずかしそうに「芋粥が食べたい」と告白する。 うん、本当に大したことじゃなかったな。
「じゃあ、軽く食べてから行こうか? お粥を食べるくらいならそんなに時間も掛からないだろうし。他のおかずも食べる?」
「いいのか? いや、俺も朝市で色々と見たいから、芋粥だけでいいんだ。 アリスは朝から大変じゃないか?」
私の手間を考えて、アルバロは遠慮していたのか。 優しいな~^^
「芋粥は多めに作ってアイテムボックスに入れてるから、お鍋を出すだけだよ。 全然、大丈夫!」
にっこり笑って答えると、
「あたしも食べたい!」
「俺も」
「わたしもだ」
みんなも食べたいと言ってくれたので、5時くらいに起きて、朝ごはんを軽く食べてから朝市に出かけることになった。
従魔たちは何も言わなかったけど、きっと、「明日は何杯おかわりできるかな?」とか考えてるに違いない。
「じゃあ、私は今から料理をするから、夜番は」
(任せるにゃ!)
「ハクに任せて、ゆっくりと疲れを癒してくださいね?」
語尾が丁寧になってしまったけど、まあ、気にしない。 …護衛組がにまにま笑ってるけど、全然、気にしな~い!
台所へ行って、作業を開始だ!
サンドイッチを作った時に切り落とした、パンの両端側。 今回はこれを使ってしまおう♪ 早速ミルクを使って卵液を作ったら、パンを浸してしばらく放置。
寸胴鍋になたね油を引いて、たくさんの玉ねぎ・人参・じゃが芋・白菜のかたい部分を炒めてから、ハーピーの肉を入れて火を通す。火が通ったら水を入れてしばらく煮込んでから、小麦粉・牛乳・バターで作ったホワイトソースを加える。 コンソメがないのが残念だけど、今日は気にしない!
ゆっくりと混ぜ混ぜしていると、強い視線を感じた。
「マルタ? どうしたの?」
声を掛けると、マルタは少し慌てて、
「あ、邪魔だった!?」
「ううん、全然。 どうしたのかな?って」
「……見てただけなの。 材料が何かに変わるのが面白くて」
そういえば、マルタが調理を手伝うって言ってくれたことはなかったな。 これは、もしかすると………。
「マルタ、手伝ってくれる?」
「……ごめん、お料理できないの」
あ、やっぱり。 料理の取り分けはとても上手だったから、気が付かなかったよ。
「大丈夫! これをゆ~っくりと混ぜるだけだから♪」
「……混ぜるだけ?」
「うん、ゆ~っくりと、混ぜるだけ! でも、すご~く、大切なの。 焦がさないように、ずっと混ぜ続けるのは大変なんだよ~。 ね? マルタ、お願い!」
にっこり笑って木べらを渡すと、マルタは思わず、といったように受け取って、おずおずと鍋に向き合った。
「混ぜるだけ?」
「うん。ゆっくり、ね!」
ミルクを足しながらお願いすると、マルタはとても真剣な顔で鍋の中をかき混ぜ始めた。 肩に力が入っているのが見ていてもわかるけど、声は掛けない。
料理は慣れだから、その内に力も抜けるだろう。 頑張れ、マルタ!
128
お気に入りに追加
7,544
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜
まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は
主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる