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屋台ごはん

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 おいしいミルクと乳製品に氷まで手に入り、ホクホクとした気分で帰途についていると、どこからともなく肉の焼ける香りが漂ってきた。

 “ぐぅぅぅぅぅぅ”

 ん?

(ありす~、お腹空いたにゃ…)

 自分のお腹の音かと思ったら、抱っこしているハクのお腹が鳴った音だったようで、ハクが情けない声で空腹を訴えてくる。

「何か食べて帰ろうか?」
「にゃん!」
「ぷきゅう!」

 外食を提案すると、2匹がかぶせ気味に賛成の鳴き声を上げた。

 護衛組も賛成のようで、どこのお店が美味しいとか、何を食べるかの相談を始める。

「アリスは何が食べたい?」

「この町の名物料理!」

 初日に大通りで少し買い物をしただけで、後はずっと観光する暇もなかったことを伝えると、

「じゃあ、屋台通りでも行くか?」

 アルバロの提案で『屋台通り』に行くことになった。

 屋台は、呼び名の通り、ずら~っと屋台が並んでいる通りだった。 お祭りの縁日みたいだ♪

(アリス! あそこに行くにゃ! 肉にゃっ♪)

(ありす、あれはなに?)

 2匹の気の向くままに色々な屋台を見て回り、それぞれに好みの屋台で買い物を済ませたみんなと一緒に、通りを少し抜けた場所にある広場のような所に落ち着いた。 

 ベンチがあったのでそこに座るのかと思っていたら、アルバロとエミルがベンチを移動させて、空いたスペースにイザックが帆布を広げ、マルタがライトの魔法で中央に置いたテーブル代わりの天板の上を明るく照らす。

 靴を脱ぐ準備を整えて私を見ているみんなにクリーンを掛けると、みんなが満面の笑顔を浮かべて放り出す勢いで靴を脱ぐので、笑い出すのを堪えるのが大変だった。

 子供みたいに無邪気な笑みがあふれるほど、靴を脱いで寛ぐ食事スタイルを気に入ってくれたらしい。 嬉しいな♪

 みんなが買ってきた晩ごはんを取り出すと、色々な食べ物で天板の上が賑やかになり、辺りにいい香りが漂った。

「「「「「いただきます!」」」」」
((いただきます)にゃ♪)

 裁判所への移動中に“いただきます”に興味を持っていたマルタに由来を説明すると、いつの間にか護衛組にも“いただきます”が根付いていて、地球を懐かしく思い出す。

(アリス……。大丈夫にゃ?)

(うん? 大丈夫だよ~!)

 ハクに悲しい顔をさせたい訳じゃなかったので慌ててしまったけど、ハクもすぐに目の前のごはんに意識を向けてくれたので、私も晩ごはんを楽しむことに集中した。

 ハクが目の色を変えて屋台に走って行った、『チュトレン』というお肉のステーキは、お肉はもちろん付け合せのポテトも美味しかった♪

 ライムのお気に入りは『レンテハス』という、レンズ豆を肉や野菜と煮込んだ料理。 ライムはいろいろな食品をバランスよく食べることを好むようだ。

 大きい餃子にしか見えない『エンパナーダ』は、パンの中にいろんな具材が入っていて、私が選んだお肉が入っているものは、甘い玉ねぎのソースが良く合っていてとても美味しい♪

 どれもとてもおいしくて、旅の醍醐味の“その土地の食べ物”が大当たりだったことに満足しながら首領の家に戻った。











(咲いてるにゃ!)
(さいてるね~)

 首領の家と隣家の境くらいに咲いていた小さな白い花が萎れかけていたので、朝、家を出るときに【植物活性薬】を掛けておいたのが効いたらしく、花は元気を取り戻して可愛らしく咲いていた。

 これなら裁判所の芝生にも効き目があるだろう。

「アルバロ、いま何時?」

「20時を少し回ってるな」

 ……アルバロ、そのニヤニヤ笑いは何とかならないのかな?  見た目は若い私に、ぞんざいに話しかけられて喜んでると、危ないおじさまに間違えられるよ~?

 まだ20時なら、寝るには少し早いか。

「明日は朝市に行きたいんだけど…」

「朝市は6時頃からだな。 飯も朝市で食うのか?」

「うん!」

 朝市で食べることを喜んだ私とは逆に、アルバロは少しだけ残念そうな顔になった。

「アルバロ?」

「ああ、気にするな。大したことじゃない」

「アルバロ?」

 アルバロは気にするなと言うけど、やっぱり気になる。

「あ~る~ば~ろ?」

「ああ、もうっ!  …芋粥が食いたかっただけだ!」

 しつこく聞くと、頬を掻きながら恥ずかしそうに「芋粥が食べたい」と告白する。 うん、本当に大したことじゃなかったな。

「じゃあ、軽く食べてから行こうか? お粥を食べるくらいならそんなに時間も掛からないだろうし。他のおかずも食べる?」

「いいのか? いや、俺も朝市で色々と見たいから、芋粥だけでいいんだ。 アリスは朝から大変じゃないか?」

 私の手間を考えて、アルバロは遠慮していたのか。 優しいな~^^

「芋粥は多めに作ってアイテムボックスに入れてるから、お鍋を出すだけだよ。 全然、大丈夫!」

 にっこり笑って答えると、

「あたしも食べたい!」
「俺も」
「わたしもだ」

 みんなも食べたいと言ってくれたので、5時くらいに起きて、朝ごはんを軽く食べてから朝市に出かけることになった。

 従魔たちは何も言わなかったけど、きっと、「明日は何杯おかわりできるかな?」とか考えてるに違いない。

「じゃあ、私は今から料理をするから、夜番は」

(任せるにゃ!)

「ハクに任せて、ゆっくりと疲れを癒してくださいね?」

 語尾が丁寧になってしまったけど、まあ、気にしない。 …護衛組がにまにま笑ってるけど、全然、気にしな~い!

 台所へ行って、作業を開始だ!








 サンドイッチを作った時に切り落とした、パンの両端側。 今回はこれを使ってしまおう♪ 早速ミルクを使って卵液を作ったら、パンを浸してしばらく放置。

 寸胴鍋になたね油を引いて、たくさんの玉ねぎ・人参・じゃが芋・白菜のかたい部分を炒めてから、ハーピーの肉を入れて火を通す。火が通ったら水を入れてしばらく煮込んでから、小麦粉・牛乳・バターで作ったホワイトソースを加える。  コンソメがないのが残念だけど、今日は気にしない! 

 ゆっくりと混ぜ混ぜしていると、強い視線を感じた。

「マルタ? どうしたの?」

 声を掛けると、マルタは少し慌てて、

「あ、邪魔だった!?」

「ううん、全然。 どうしたのかな?って」

「……見てただけなの。 材料が何かに変わるのが面白くて」

 そういえば、マルタが調理を手伝うって言ってくれたことはなかったな。 これは、もしかすると………。

「マルタ、手伝ってくれる?」

「……ごめん、お料理できないの」

 あ、やっぱり。 料理の取り分けはとても上手だったから、気が付かなかったよ。

「大丈夫! これをゆ~っくりと混ぜるだけだから♪」

「……混ぜるだけ?」

「うん、ゆ~っくりと、混ぜるだけ! でも、すご~く、大切なの。 焦がさないように、ずっと混ぜ続けるのは大変なんだよ~。 ね? マルタ、お願い!」

 にっこり笑って木べらを渡すと、マルタは思わず、といったように受け取って、おずおずと鍋に向き合った。

「混ぜるだけ?」

「うん。ゆっくり、ね!」

 ミルクを足しながらお願いすると、マルタはとても真剣な顔で鍋の中をかき混ぜ始めた。 肩に力が入っているのが見ていてもわかるけど、声は掛けない。 

 料理は慣れだから、その内に力も抜けるだろう。  頑張れ、マルタ!
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